第3話

3.
107
2025/06/08 17:39 更新


部屋は静かだった。


カーテンは閉じたまま、ライトも点けず、パーカーの袖に指先を隠して膝を抱える。


そんな姿勢のまま、ヤンヤンはスマートフォンを手に取った。




シャオジュンのインスタのアカウント。
フォローも外していないし、ブロックもしていない。
けれど別れてからの2ヶ月間、一度もタップしなかった。



いや、できなかった。


見たらきっと壊れてしまうと、どこかで分かっていたから。






それでも――


今夜はなぜか、画面を指が滑っていた。


躊躇いながらも開いたその画面には、想像していた以上の「現実」があった。










そこには、シャオジュンがいた。
屈託なく笑って、カフェでカメラを見つめている。




隣には、ヘンドリー。
彼の肩にもたれて、リラックスした表情で笑っていた。

ヤンヤンの喉が、静かに鳴った。




ストーリーの丸いアイコンに、指が吸い寄せられるように触れる。

そこに映っていたのは、

シャオジュンの笑顔、笑顔、笑顔――



そして、その隣にいるのはすべて、ヘンドリーだった。




──前までは、この笑顔を僕だけが独占していたのに。
今は、ヘンドリーだけに見せている。



画面をつつく指は止まらなかった。
過去の投稿、ストーリーのハイライト、タグ付けされた旅行先の風景――

この日はカフェ。この日はふたりで小旅行。
あの日は夜景の写真。
助手席に映った横顔。




「……何これ……こんなの……知らない……」






目の奥が、じんわりと熱くなる。
知らないことばかりが、今の“ふたり”の記憶として積み重なっていく。





僕が知らないというだけで、こんなにも気が狂いそうになるなんて。





誰かといるシャオジュンを見ることが、こんなにも痛いことだったなんて。







スマートフォンを伏せて、ヤンヤンは唇をかみしめる。




シャオジュン。
君を想うこの気持ちが、綺麗なのか、それとももう醜いだけの執着なのか。
僕にはまだ、分からない。





ただ――



「シャオジュンのこと、諦めきれないんだ」


この気持ちをどこに置けばいいのかも分からないまま、
ヤンヤンは布団に潜り込み、目を閉じた。






消したはずのシャオジュンの声と笑顔が、今夜もまた、夢の中で優しく手を伸ばしてくる気がして。

どうかその手を掴めたら。





――それだけを、ただ願った。

プリ小説オーディオドラマ