部屋は静かだった。
カーテンは閉じたまま、ライトも点けず、パーカーの袖に指先を隠して膝を抱える。
そんな姿勢のまま、ヤンヤンはスマートフォンを手に取った。
シャオジュンのインスタのアカウント。
フォローも外していないし、ブロックもしていない。
けれど別れてからの2ヶ月間、一度もタップしなかった。
いや、できなかった。
見たらきっと壊れてしまうと、どこかで分かっていたから。
それでも――
今夜はなぜか、画面を指が滑っていた。
躊躇いながらも開いたその画面には、想像していた以上の「現実」があった。
そこには、シャオジュンがいた。
屈託なく笑って、カフェでカメラを見つめている。
隣には、ヘンドリー。
彼の肩にもたれて、リラックスした表情で笑っていた。
ヤンヤンの喉が、静かに鳴った。
ストーリーの丸いアイコンに、指が吸い寄せられるように触れる。
そこに映っていたのは、
シャオジュンの笑顔、笑顔、笑顔――
そして、その隣にいるのはすべて、ヘンドリーだった。
──前までは、この笑顔を僕だけが独占していたのに。
今は、ヘンドリーだけに見せている。
画面をつつく指は止まらなかった。
過去の投稿、ストーリーのハイライト、タグ付けされた旅行先の風景――
この日はカフェ。この日はふたりで小旅行。
あの日は夜景の写真。
助手席に映った横顔。
「……何これ……こんなの……知らない……」
目の奥が、じんわりと熱くなる。
知らないことばかりが、今の“ふたり”の記憶として積み重なっていく。
僕が知らないというだけで、こんなにも気が狂いそうになるなんて。
誰かといるシャオジュンを見ることが、こんなにも痛いことだったなんて。
スマートフォンを伏せて、ヤンヤンは唇をかみしめる。
シャオジュン。
君を想うこの気持ちが、綺麗なのか、それとももう醜いだけの執着なのか。
僕にはまだ、分からない。
ただ――
「シャオジュンのこと、諦めきれないんだ」
この気持ちをどこに置けばいいのかも分からないまま、
ヤンヤンは布団に潜り込み、目を閉じた。
消したはずのシャオジュンの声と笑顔が、今夜もまた、夢の中で優しく手を伸ばしてくる気がして。
どうかその手を掴めたら。
――それだけを、ただ願った。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。