第7話

 06 : 見つめられる勇気は未だない
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2025/11/14 10:35 更新





 ライブが終わって、数分。
 ビリビリと肌に感じる音が、大好きな推しの声が、
 鳴り止まない歓声が、全部、残ってる。
 その感覚に寂しさを覚えるのと同時に、
 直後に始まる握手会に緊張を隠せずにいた。


あなた
..ベリー、どうしよう震え止まんない
あなた
私今から推しに会うの?話すの?
あなた
大丈夫?推しが汚れない?
sotm
前チェキ会来たって言ってたじゃん!
あなた
オタク側に来たらまた違うから!


 握手会に参加できる人数は今回少なめで、
 そのせいなのか時間が少し長めだった。
 何秒間も同じ空間で一対一で推しと対面、なんて
 心臓が持つはずもない。

 内心バックバクの状態で握手会の列に並んで、
 参加できないベリーには
 外のカフェで待ってもらう事になっている。
 手でも握って貰えば良かった、もうちょっと一緒にいれば
 なんて後悔しても遅く、列はどんどん進むばかり。


あなた
〜〜はぁ、


 目の前の人がいなくなって数秒後、
 スタッフさんの合図で中に足を踏み入れた。





inm
..あ、こんばんはー
あなた
こ、こんばんは、!



 大きな目を細めて手を振る姿と、
 私に気付いた時の目を見開いたその一瞬の反応。
 視界に入った推しという存在に、
 大好きな声が自分に向けられて慌てて返事をする。


 反射的に挨拶をしたものの、それ以上頭が回らなくて
 取り敢えず言いたかったことを整理もできずに
 ごちゃごちゃと考えれば、無駄に舌が回ってしまって。

あなた
あの、ずっとファンで、でも握手会来るの初めてなんですけど、!
あなた
えっと、っ今日のライブも最高でした、!
あなた
〜、っだいすきです、!


 そこまで言ってやっと、ストップもかけられずに
 暴走機関車の如く喋ってしまったことに気付いて
 顔に熱が集まる。

 やってしまった、!そう理解するにはもう遅くて、
 またあわあわと慌てて俯けば、
 少し離れた位置から聞こえた笑い声と、
 ありがとう、そんな5文字。

 そんな言葉が耳に入ってすぐ、びっくりして顔を上げれば
 目が合って、ニコッと笑われるからその行動に
 胸が音を立てる。


あなた
っ...、(顔良すぎ、..!)


 それからひたすら見つめられて、数秒。
 自身の手を見て、何か思いついたかのように
 口角を落としてまた、私を見ると
 上目遣いで目を合わせられて。

inm
..ねぇ、そんな離れてたら
握手出来ないからさ、
inm
もうちょっとこっち来てくれない?
あなた
...っへ、


 上目遣いで見つめられてそれさえ耐えれる筈もないのに、
 それだけでは飽き足らず自身の掌を指差して
 おもちゃを見つけた子供のように
 楽しそうに、でも揶揄うみたいに目を細められる。

 その言葉を理解してすぐ、
 ぼんっと音が鳴ってしまうのではないかくらい
 顔が熱くなってしまった気がした。


inm
..ほら、時間終わっちゃうよ?早く、
あなた
〜〜〜っ!!!


 おそるおそる近付けば、出来る範囲で手を伸ばされて、 
 そのまま掴まれる。
 スルスルと指の間に入ってきた推しの指は
 思ったよりゴツゴツしてて。

 何も喋る事もできずに目を逸らすしかできなかった。



あなた
...ぁ、ぁりがとう、ございました



 パンク寸前の頭で言ったお礼に、
 推しは嬉しそうに笑って手を振ってくれたけど、
 今の自分には何が起こっているのかイマイチ理解できなかった。





あなた
(..手、一生洗えないよ、...)





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