いつもとは違う服に、いつもとは違う髪型、メイク。
アイドルの時とは打って変わった雰囲気のせいか
いつもよりも時間がかかってしまった。
腕時計を確認して、集合時間から数分ズレてしまった針を見て、
慌てて走ってベリーの元へ急ぐ。
ごめん、そう謝って顔を上げれば、
大きな目を更に見開いたベリーが目に入った。
ベリーは勢いよく私に抱きつくと、
髪型も、服装も崩れないように優しく力を込める。
目が合えば笑ってくれるベリーは、
心からの言葉をかけてくれている気がした。
このメイクも雰囲気をガラッと変えてみたのは、
推しに正体をバレないようにする為だった。
友達と会いに行く、なんて言ってはみたけれど、
何度も出来ないし、だったらもう雰囲気を変えて
バレないように気をつけるしかない!なんて
安直な考えをしたのだ。
協力してくれたベリーには少し悪い気もするけれど。
何より、握手会に当たってしまった以上、
私は後戻りはできない。
もうバレないように全力で努めるか、
開き直って正体を明かすかの2択しかなかった。
前案を採用したまでだ。
無理矢理誘ってしまったような物だけど、
楽しそうに笑ってくれるベリーの後ろ姿に安心して
駆け足で隣に立つと、目が合って笑ってくれる。
そんなベリーの表情に緊張が少しだけ解れた気がした。
*
広くて、大勢いる会場に、ファンが湧き立つ音が聞こえる。
席は御世辞にも近いと言えるものでもなかったけれど、
一直線上に見える大きなステージは、
明るく彩られている。
新鮮そうに、楽しそうな顔をするベリーに対して、
緊張して今にも吐きそうな私。
さっき解れた筈の緊張は、会場に入ったことで
今から推しに会うという事実を確信させられ吹っ飛んでしまった。
水分補給をして、深呼吸をして落ち着かせようとしても、
今から推しがここに現れる事を考えると
そんなものはすぐ途切れる。
それに、今から現れる推しと同じ空気を吸うことを
考えると息をするのも憚られるほどなのだ。
そんなことを考えていても、時間はすぎる一方で、
大きな歓声と共に、明るく照らされたステージに
大好きな人の影が映った。
楽しそうに歌って踊って、話して、
そんな彼の姿に目を奪われる。
さっきまでの緊張なんて無かったみたいに
吹っ飛んでしまうくらいに、貴方でいっぱいになる。
息を忘れるほどの綺麗な景色に、
楽しそうに歌うその姿に、
他の事を考えられる隙なんてなかった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!