第6話

第4話「言ったのは、誰だったのか」 ――そして、落ちた葉を拾う者
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2026/09/03 00:30 更新
木葉秋紀
木葉秋紀
俺が言った……?
木葉秋紀は、呆然と呟いた。

体育館の床には、黒い葉が散らばっている。

さっきまであれほど激しく舞っていたはずなのに、今は嘘みたいに静かだった。
赤葦京治
赤葦京治
でも……
赤葦が慎重に言葉を選ぶ。
赤葦京治
赤葦京治
さっき木葉さんは、『お前は、いらない』と言われた記憶だと
木葉秋紀
木葉秋紀
……うん
木葉は額を押さえる。
木葉秋紀
木葉秋紀
そう思ってた
「だったら、なぜ……」
木葉秋紀
木葉秋紀
分かんねぇよ
木葉は苦笑した。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺だって分かんねぇ
その笑顔は、いつもの軽いものではなかった。
頭の奥に、断片的な映像が浮かんでいる。

体育館。

まだ今ほど大きな大会ではない。

少し前の試合。

自分。

チームメイト。

そして――誰かの背中。

『……俺、もう無理かもしれない』

そんな声。

『俺なんかがいても――』

そこまで思い出したところで、映像が途切れる。
木葉秋紀
木葉秋紀
……っ
木葉が目を閉じる。
赤葦京治
赤葦京治
何か、思い出せそうですか?

赤葦が聞く。
木葉秋紀
木葉秋紀
……ああ
木葉はゆっくり頷いた。
木葉秋紀
木葉秋紀
たぶん……これ、俺が誰かを励ましたときのことだ
「励ました?」
木葉秋紀
木葉秋紀
うん
木葉は床に落ちた黒い葉を見る。
木葉秋紀
木葉秋紀
そいつが、自分なんかいらないって言ったんだ
赤葦京治
赤葦京治
……
木葉秋紀
木葉秋紀
で、俺が――
木葉の顔が歪む。
木葉秋紀
木葉秋紀
『お前は、いらない』って言った
木兎光太郎
木兎光太郎
え?
木兎が素っ頓狂な声を上げた。
木兎光太郎
木兎光太郎
なんで!?
木葉秋紀
木葉秋紀
最後まで聞けって!
木兎光太郎
木兎光太郎
うん!
木葉はため息をついた。
木葉秋紀
木葉秋紀
その後に、『そんなこと考えてるお前はいらない』って続けたんだよ
赤葦が理解する。
赤葦京治
赤葦京治
つまり……
木葉秋紀
木葉秋紀
そう
木葉は苦笑した。
木葉秋紀
木葉秋紀
言葉の一部分だけが、俺の記憶に残ってた
『お前は、いらない』

その言葉だけが。

長い時間をかけて。

木葉自身の心に入り込んでいた。

本当の意味を失って。

ただの呪いとして。
仮面の男
仮面の男
……なるほど
あのヴァンピールが呟いた。
仮面の男
仮面の男
だから禍名が反応したのか
木葉が睨む。
木葉秋紀
木葉秋紀
お前、何でそんなこと知ってんだよ
仮面の男
仮面の男
私は、ヴァンピールの真名と禍名について少し詳しいだけですよ
赤葦京治
赤葦京治
少し?
赤葦が警戒する。
赤葦京治
赤葦京治
随分詳しそうですけど
男は笑った。
仮面の男
仮面の男
《禍名》は、単純な呪いではありません
その指が、宙に浮かぶ黒い葉を指す。
仮面の男
仮面の男
本人が過去に抱いた感情、言葉、記憶、後悔――それらが絡み合って、真名を歪める
木葉秋紀
木葉秋紀
……
仮面の男
仮面の男
だから厄介なんです
木葉は黙っていた。

男は続ける。
仮面の男
仮面の男
あなたの場合、《アウクトル・フォリア》という真名が持っていた意味と、あなた自身の自己認識が衝突した
木葉秋紀
木葉秋紀
俺の……自己認識?
仮面の男
仮面の男
ええ
男は木葉を見る。
仮面の男
仮面の男
あなたの真名が示すのは『何かを生み出す者』
木葉秋紀
木葉秋紀
……
仮面の男
仮面の男
ですが、あなた自身は自分を『誰かの代わり』だと思っていた
木葉の瞳が揺れた。
仮面の男
仮面の男
だから真名は反転した
黒い葉が一枚、木葉の肩に落ちる。
仮面の男
仮面の男
生み出す者から――
男が静かに告げた。
仮面の男
仮面の男
**落ちていく者へ。**
木兎光太郎「……じゃあ」

木兎が口を開く。
木兎光太郎
木兎光太郎
どうすれば木葉は戻るんだ?
仮面の男
仮面の男
簡単です
男は言った。
仮面の男
仮面の男
禍名を否定するのではなく――
木兎光太郎
木兎光太郎
……?
仮面の男
仮面の男
その根底にある認識を、本人自身が覆すことです
木兎光太郎
木兎光太郎
本人自身……
木兎が木葉を見る。

木葉は目を逸らした。
木兎光太郎
木兎光太郎
……無理じゃね?
木兎光太郎
木兎光太郎
木葉
木葉秋紀
木葉秋紀
だってさ
木葉は苦笑する。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺自身が『俺は必要だ』なんて思えるほど、自信満々じゃねぇんだよ
赤葦京治
赤葦京治
……
木葉秋紀
木葉秋紀
今までだって、何度も思った
木葉の声が少しずつ弱くなる。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺じゃなくてもいいんじゃないかって
赤葦京治
赤葦京治
木葉さん
木葉秋紀
木葉秋紀
試合に出てても
赤葦京治
赤葦京治
……
木葉秋紀
木葉秋紀
ミスしたら、俺のせいだって思うし
赤葦京治
赤葦京治
……
木葉秋紀
木葉秋紀
上手くいっても、たまたまだって思う
木葉は笑う。
木葉秋紀
木葉秋紀
便利だよな。こういう考え方って
木兎光太郎
木兎光太郎
……
木葉秋紀
木葉秋紀
失敗しても『やっぱり俺なんか』で終われるし
木兎光太郎
木兎光太郎
木葉!
木兎の声が響いた。

木葉が驚いて顔を上げる。
木兎光太郎
木兎光太郎
それ、全然便利じゃねぇ!
木葉秋紀
木葉秋紀
……
木兎光太郎
木兎光太郎
木葉が苦しいだけじゃん!
木葉秋紀
木葉秋紀
……木兎
木兎光太郎
木兎光太郎
だったら!
木兎は拳を握った。
木兎光太郎
木兎光太郎
俺が何回でも言う!
木葉秋紀
木葉秋紀
……何を
木兎光太郎
木兎光太郎
木葉は必要だ!
木葉秋紀
木葉秋紀
……
木兎光太郎
木兎光太郎
俺たちに必要!
木葉は目を逸らした。
木葉秋紀
木葉秋紀
……うるせぇ
木兎光太郎
木兎光太郎
何回でも言う!
木葉秋紀
木葉秋紀
うるせぇって
木兎光太郎
木兎光太郎
百回言う!
木葉秋紀
木葉秋紀
多いわ!
木葉の口から、ほんの少しだけ笑いが漏れた。

赤葦も小さく息を吐く。
赤葦京治
赤葦京治
木兎さん
木兎光太郎
木兎光太郎
何!
赤葦京治
赤葦京治
それ、たぶん悪くないです
木兎光太郎
木兎光太郎
だろ!?
赤葦京治
赤葦京治
ただ……
赤葦は木葉を見る。
赤葦京治
赤葦京治
木葉さん自身が、自分で答えを出す必要があります
木葉秋紀
木葉秋紀
……分かってる
そのときだった。

黒い葉が。

一斉に床から浮き上がった。
木葉秋紀
木葉秋紀
……!
木葉の表情が変わる。
木葉秋紀
木葉秋紀
何だ……?
黒い葉は木葉の周囲を回り始める。

しかし、先ほどとは違う。

攻撃ではない。

まるで何かを探している。
赤葦京治
赤葦京治
記憶に反応している……?
赤葦が呟く。

一枚の葉が木葉の目の前に止まる。

そこに。

映像が浮かび上がった。
体育館。

今より少し幼い木葉。

その前に、一人の選手が座っている。
知り合い
……俺、もう駄目だ
少年が俯いていた。
知り合い
俺なんか、いても意味ないよ
木葉はその隣に座っている。
木葉秋紀
木葉秋紀
はぁ?
知り合い
……
木葉秋紀
木葉秋紀
何で勝手に決めてんの?
知り合い
だって俺、全然役に立てないし
木葉秋紀
木葉秋紀
じゃあ、役に立つまでやれば?
知り合い
……無理だよ
木葉秋紀
木葉秋紀
やる前から決めんなって
木葉は呆れたように笑う。

そして。
木葉秋紀
木葉秋紀
そもそもさ
その少年の頭を軽く叩く。
木葉秋紀
木葉秋紀
**そんなこと考えてるお前なんか、いらないだろ**
少年が顔を上げる。

木葉は続ける。
木葉秋紀
木葉秋紀
でも、お前自身はいらないわけじゃねぇから
映像が止まった。

木葉は黙っていた。
木葉秋紀
木葉秋紀
……そうだった
小さく呟く。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺、あいつに言ったんだ
木兎光太郎
木兎光太郎
……
木葉秋紀
木葉秋紀
『そんなこと考えてるお前なんか、いらない』って
木兎が首を傾げる。
木兎光太郎
木兎光太郎
何が違うんだ?
木葉は少し考える。
木葉秋紀
木葉秋紀
全然違うだろ
木兎光太郎
木兎光太郎
?
木葉秋紀
木葉秋紀
『お前はいらない』じゃない
木葉は黒い葉を見る。
木葉秋紀
木葉秋紀
『お前をいらないって思ってる、その考え方がいらない』って言ったんだ
赤葦京治
赤葦京治
……!
赤葦が息を呑む。

そして。
木葉秋紀
木葉秋紀
それは……
木葉自身にも。

ようやく分かった。
禍名が生まれた原因は。

誰かから投げつけられた言葉ではなかった。

過去の木葉が誰かに与えた言葉でもなかった。

もっと単純で。

もっと根深い。
**「自分に向ける言葉を、自分自身が取り違えていた」**
木葉秋紀
木葉秋紀
……俺
木葉が呟く。
木葉秋紀
木葉秋紀
自分で、自分に言ってたんだな
木兎光太郎
木兎光太郎
何を?
木葉秋紀
木葉秋紀
『お前はいらない』って
誰も答えない。
木葉秋紀
木葉秋紀
誰かに言われたからじゃない
木葉は自分の胸に手を当てる。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺が勝手に、自分をそういう場所に置いてたんだ
その瞬間。

黒い葉が一斉に揺れた。
《Folia Cadentia》

禍名が浮かび上がる。

しかし。

その文字の一部が、白くなっていた。
赤葦京治
赤葦京治
……!
赤葦が目を見開く。
赤葦京治
赤葦京治
木葉さん!
木葉秋紀
木葉秋紀
分かってる
木葉は禍名を見上げる。
木葉秋紀
木葉秋紀
こいつ……
黒い文字。

自分を否定する名前。

それを。

木葉は初めて真正面から見た。
木葉秋紀
木葉秋紀
ずっと俺のこと、落とそうとしてたんだな
黒い葉が荒れ狂う。

まるで否定するように。

木葉の足元から。

黒い影が広がっていく。
木兎光太郎
木兎光太郎
木葉!
木兎が手を伸ばす。
木葉秋紀
木葉秋紀
来るな!
木葉が叫ぶ。
木葉秋紀
木葉秋紀
まだ……!
木兎光太郎
木兎光太郎
木葉!
木葉秋紀
木葉秋紀
俺がやる!
木葉は一人で立った。
木葉秋紀
木葉秋紀
これ……俺の問題だから
黒い葉が木葉を包む。

視界が暗くなる。

木葉はその中心で。

自分自身と向き合った。
『お前なんか必要ない』
木葉秋紀
木葉秋紀
……うるせぇ
『誰かの代わりだ』
木葉秋紀
木葉秋紀
……そうかもな
『もっと上手い奴がいる』
木葉秋紀
木葉秋紀
いるだろうな
『お前じゃなくていい』
木葉秋紀
木葉秋紀
……
木葉はしばらく黙った。

そして。
木葉秋紀
木葉秋紀
それでも
顔を上げる。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺は、俺なんだよ
黒い葉が揺れる。
木葉秋紀
木葉秋紀
木葉秋紀は、木葉秋紀だ
『――』
木葉秋紀
木葉秋紀
木兎よりエースじゃなくても
一歩。
木葉秋紀
木葉秋紀
赤葦より頭が良くなくても
また一歩。
木葉秋紀
木葉秋紀
猿杙より器用じゃなくても
さらに一歩。
木葉秋紀
木葉秋紀
鷲尾より安定してなくても
木葉は笑った。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺は俺だ
その瞬間。

禍名に亀裂が走った。

《Folia Cadentia》

――パキッ。
木葉秋紀
木葉秋紀
……!
木葉が息を呑む。

だが。

亀裂は広がっただけだった。
仮面の男
仮面の男
まだ……
男が呟く。
仮面の男
仮面の男
足りない
木葉秋紀
木葉秋紀
……何が?
仮面の男
仮面の男
他人に必要とされていることを認めるだけでは、その真名は戻りません
木葉が振り返る。
木葉秋紀
木葉秋紀
じゃあ何が必要なんだよ
男は答えた。
仮面の男
仮面の男
あなた自身が――
一拍。
仮面の男
仮面の男
**自分を必要とすることです。**
木葉秋紀
木葉秋紀
……俺が?
仮面の男
仮面の男
ええ
木葉秋紀
木葉秋紀
自分を?
仮面の男
仮面の男
そうです
木葉は黙った。

それが一番難しい。

誰かに必要だと言われるより。

誰かに背中を押されるより。

自分自身で。

自分の存在を肯定する。

それが。

木葉には何より難しかった。
木葉秋紀
木葉秋紀
……俺
木葉は俯く。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺さ
木兎を見る。

赤葦を見る。

そして。

黒い葉を見る。
木葉秋紀
木葉秋紀
ずっと、勘違いしてた
赤葦京治
赤葦京治
……?
木葉秋紀
木葉秋紀
『必要とされる』って、すごい奴になることだと思ってた
誰も口を挟まない。
木葉秋紀
木葉秋紀
エースになったり
木兎光太郎
木兎光太郎
……
木葉秋紀
木葉秋紀
試合を決めたり
赤葦京治
赤葦京治
……
木葉秋紀
木葉秋紀
誰よりも上手くなったり
木葉は笑う。
木葉秋紀
木葉秋紀
でも違うんだな
その声は。

少しだけ晴れていた。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺が俺として、ここにいたいと思えるなら
一歩。
木葉秋紀
木葉秋紀
それでいいんだ
木葉の胸元。

《Folia Cadentia》が大きく震えた。

そして。

その文字から。

黒い色が剥がれていく。
木葉秋紀
木葉秋紀
……戻れ
木葉が言った。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺の名前
黒い葉が舞う。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺は――
木葉は胸に手を当てる。
木葉秋紀
木葉秋紀
落ちるために生きてるんじゃねぇ
その瞳に。

赤い光が戻る。

けれど。

今度は禍名に支配された赤ではない。

木葉自身の意志が宿った瞳。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺は――
《Auctor Folia》
真名が。

蘇った。
黒い葉が砕ける。

その一枚一枚が。

黒から深い緑へ変わっていく。

体育館いっぱいに舞っていた葉は。

やがて。

木葉の周囲を静かに旋回し始めた。
赤葦京治
赤葦京治
……綺麗
赤葦が呟いた。

木兎も目を輝かせる。
木兎光太郎
木兎光太郎
木葉!
木葉秋紀
木葉秋紀
……うん
木葉は自分の手を見る。

そこには。

緑色の葉が一枚。

乗っていた。
木葉秋紀
木葉秋紀
……戻ったのか?
男が答える。
仮面の男
仮面の男
完全ではありません
木葉秋紀
木葉秋紀
え?
仮面の男
仮面の男
禍名は一度発症すると、完全に消えるわけではない
木葉の表情が曇る。
木葉秋紀
木葉秋紀
じゃあ……
仮面の男
仮面の男
今のあなたなら
男は微笑む。
仮面の男
仮面の男
禍名を『力』として扱える可能性があります
木葉秋紀
木葉秋紀
力?
仮面の男
仮面の男
ええ
黒い葉が一枚。

木葉の指先に現れる。

しかし。

今度は木葉の意志で消える。
仮面の男
仮面の男
真名と禍名は、必ずしも敵ではありません
木葉秋紀
木葉秋紀
……
仮面の男
仮面の男
人間の弱さも、その人間自身の一部だからです
木葉はその言葉を聞き。

少しだけ考える。

そして。
木葉秋紀
木葉秋紀
……なるほどな
仮面の男
仮面の男
理解しましたか?
木葉秋紀
木葉秋紀
いや
木葉は苦笑した。
木葉秋紀
木葉秋紀
半分くらい
仮面の男
仮面の男
……
木葉秋紀
木葉秋紀
でも
木葉は緑の葉を見る。
木葉秋紀
木葉秋紀
俺の中に『落ちたくなる自分』がいることくらいは、覚えとく
赤葦が頷く。
赤葦京治
赤葦京治
それで十分だと思います
木兎光太郎
木兎光太郎
木葉!
突然。

木兎が木葉の肩を掴んだ。
木兎光太郎
木兎光太郎
お前すげぇ!
木葉秋紀
木葉秋紀
うわっ!
木兎光太郎
木兎光太郎
真名戻った!
木葉秋紀
木葉秋紀
ちょ、痛い痛い!
木兎光太郎
木兎光太郎
よかったー!
木葉秋紀
木葉秋紀
お前、さっきまで俺のこと置いてくなって言ってたくせに、今度は俺を潰す気か!?
木兎光太郎
木兎光太郎
だって心配だった!
木葉秋紀
木葉秋紀
……
木葉は呆れた顔をする。

そして。
木葉秋紀
木葉秋紀
……ありがとな
小さく言った。
木兎光太郎
木兎光太郎
ん?
木葉秋紀
木葉秋紀
何でもねぇ!
木兎光太郎
木兎光太郎
えー! 今言ったじゃん!
木葉秋紀
木葉秋紀
忘れろ!
赤葦はそのやり取りを見ながら。

静かに笑った。
しかし。

そのとき。

体育館の窓の外。

暗闇の中で。

何かが光った。

赤い瞳。

それは。

木葉たちを遠くから見つめていた。
?
……興味深い
先ほどのヴァンピールが振り返る。
?
まさか《禍名》から自力で戻るとは
赤葦京治
赤葦京治
……?
赤葦が振り返る。
赤葦京治
赤葦京治
どうしました?
仮面の男
仮面の男
いえ
男は窓の外を見る。
仮面の男
仮面の男
少々、予定が変わりました
赤葦京治
赤葦京治
予定?
仮面の男
仮面の男
あなた方はまだ知る必要がありません
男は背を向ける。
仮面の男
仮面の男
ただ――
木葉を見る。
仮面の男
仮面の男
木葉秋紀
木葉秋紀
木葉秋紀
……何だよ
「あなたの真名は、普通のヴァンピールとは少し違う」
木葉秋紀
木葉秋紀
……どういう意味だ?
仮面の男
仮面の男
いずれ分かります
そして。

男は闇の中へ消えていった。
木葉秋紀
木葉秋紀
……何だったんだ、あいつ
木葉が呟く。

赤葦も答えられない。

ただ。

木葉の胸元には。

もう一度。

小さく真名が浮かんでいた。
《Auctor Folia》

**――生み出す者。**
そしてその下に。

ごく小さく。

消え残った文字が一つ。
《Folia Cadentia》

**――落ちゆく葉。**
木葉はそれを見つめた。

そして。
木葉秋紀
木葉秋紀
……まあ
小さく笑った。
木葉秋紀
木葉秋紀
落ちたら、また拾えばいいか
木兎光太郎
木兎光太郎
木葉
木葉秋紀
木葉秋紀
ん?
赤葦が言う。
赤葦京治
赤葦京治
それなら、僕たちが拾います
木葉秋紀
木葉秋紀
……
木葉は一瞬、呆気に取られ。

それから。

いつものように笑った。
木葉秋紀
木葉秋紀
……そりゃ反則だろ、赤葦
赤葦京治
赤葦京治
何がです?
木葉秋紀
木葉秋紀
そういうこと真顔で言うの
赤葦京治
赤葦京治
事実ですから
木葉秋紀
木葉秋紀
……ったく
木葉は頭を掻いた。
木葉秋紀
木葉秋紀
ほんと、お前らには敵わねぇな
その日。

木葉秋紀の《禍名》発症事件は終わった。

完全な克服ではない。

これからもきっと。

木葉の心が揺らぐたび。

《Folia Cadentia》は姿を現す。

けれど。

もう、それは木葉を飲み込むだけの名前ではない。

**「落ちることを知っている者」だからこそ。**

木葉は。

誰かが落ちそうになったとき。

その手を取ることができる。

それが――

彼の真名。

《Auctor Folia》

**「何かを生み出す者」**

の、本当の意味だった。
――数日後。

梟谷学園。

体育館。
赤葦京治
赤葦京治
木葉さん!
木葉秋紀
木葉秋紀
ん?
赤葦京治
赤葦京治
今日の調子はどうですか?
赤葦が聞く。
木葉秋紀
木葉秋紀
普通
赤葦京治
赤葦京治
禍名の兆候は?
木葉秋紀
木葉秋紀
今んとこなし
赤葦京治
赤葦京治
本当に?
木葉秋紀
木葉秋紀
本当
木葉は笑う。
木葉秋紀
木葉秋紀
……まあ
少しだけ間を置いて。
木葉秋紀
木葉秋紀
昨日、練習でミスったとき、一瞬だけ『俺ってやっぱ――』って思ったけど
赤葦の顔が険しくなる。
赤葦京治
赤葦京治
木葉さん
木葉秋紀
木葉秋紀
待て待て!
木葉が両手を上げる。
木葉秋紀
木葉秋紀
その先は言わなかった
赤葦京治
赤葦京治
……
木葉秋紀
木葉秋紀
自分で止めた
赤葦京治
赤葦京治
そうですか
赤葦が頷く。

木葉は照れ臭そうに笑った。
木葉秋紀
木葉秋紀
だから大丈夫
そのとき。
木兎光太郎
木兎光太郎
木葉ァァァ!!
体育館の反対側から木兎が飛び込んでくる。
木兎光太郎
木兎光太郎
今日俺めちゃくちゃ調子いい!
木葉秋紀
木葉秋紀
はいはい
木兎光太郎
木兎光太郎
俺のスパイク見て!
木葉秋紀
木葉秋紀
練習しろ!
木兎光太郎
木兎光太郎
見てって!
木葉秋紀
木葉秋紀
はいはい!
赤葦京治
赤葦京治
全く…………
いつもの騒がしい体育館。

いつもの梟谷。

木葉は、その真ん中に立っていた。

そして。

誰にも見えないところで。

胸元の真名が。

ほんの少しだけ。

淡く光った。
山本文(木兎文)
山本文(木兎文)
赤葦ぃぃ
山本文(木兎文)
山本文(木兎文)
いや、梟谷イケメンだわ
山本文(木兎文)
山本文(木兎文)
それでさ
山本文(木兎文)
山本文(木兎文)
こんなとこで終わると思うなよ?

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