夜明け前の屋上。
冷たい風が吹き抜ける。
木葉秋紀と、その兄。
十年ぶりに並んだ二人の前には、無数のヴァンピールが立っていた。
兄が低く言う。
木葉は即答した。
兄が眉を寄せる。
秋紀は一歩前へ出た。
木葉は笑った。
その言葉に。
兄の表情が止まった。
秋紀は拳を握る。
兄の瞳が揺れる。
黒い葉が舞う。
緑の葉が重なる。
木葉は兄を見る。
兄の《禍名》が大きく揺れた。
黒い魔力が噴き出す。
兄が叫ぶ。
秋紀が足を止める。
兄の身体を。
黒い葉が覆い始めていた。
黒い紋様が腕から肩へ広がる。
兄は苦しそうに息を吐く。
黒い魔力がさらに膨れ上がる。
秋紀は目を見開いた。
兄が顔を上げる。
秋紀は静かに言った。
兄が驚く。
木葉は自分の胸元へ手を当てる。
背後から。
木兎の声が飛んできた。
木葉が振り返る。
赤葦も頷く。
猿杙が笑う。
鷲尾も静かに続ける。
秋紀の目が少し潤む。
木兎が笑う。
拳を突き上げる。
兄は。
その光景を見ていた。
秋紀が笑う。
兄は。
ほんの少し目を伏せた。
木葉は手を伸ばす。
その瞬間。
兄の手が。
木葉の手を掴んだ。
**ドクン。**
二人の《禍名》が共鳴する。
黒い葉が舞い上がる。
赤葦が叫ぶ。
木葉は叫ぶ。
一瞬。
木葉が笑った。
兄の《禍名》が。
完全に姿を現した。
黒い翼のような魔力。
木葉の《禍名》と呼応する。
二つの禍名。
二つの魂。
十年間分の痛み。
恐怖。
孤独。
後悔。
すべてが一気に流れ込んでくる。
秋紀は息を呑んだ。
頭の中に。
兄の記憶が流れ込む。
一人。
暗い部屋。
少年だった兄。
木葉が眠っている隣で。
一人泣いている。
小さな声。
場面が変わる。
兄が敵に囲まれている。
兄が笑う。
そして。
場面が変わる。
木葉が遠くからバレーをしている姿。
兄は物陰から見ている。
声は届かない。
また。
別の日。
木葉が試合で失敗する。
悔しそうに俯く。
兄は遠くで拳を握る。
誰にも聞こえない声。
秋紀の目から。
涙が落ちた。
兄も同じように泣いていた。
木葉は手を離さない。
黒い魔力が。
一気に膨れ上がる。
ヴァンピールたちが騒ぎ出す。
一斉に襲いかかる。
木兎たちが前へ出る。
木兎が叫ぶ。
赤葦も続く。
木葉は。
兄と手を繋いだまま。
目を閉じた。
秋紀は笑う。
木葉の《永名》が輝く。
三つの名前。
真名。
禍名。
永名。
それぞれが。
二人の間で共鳴する。
そして――
**新しい魔力の輪が生まれた。**
兄が呟く。
秋紀が目を開く。
二人の魔力が。
黒と緑の螺旋になる。
秋紀が言う。
兄が続ける。
木葉が笑う。
二人の声が重なる。
**――轟ッ!!**
屋上を覆っていた黒い魔力が。
一瞬で。
巨大な樹木へと変わった。
黒い幹。
緑の葉。
白い花。
その中心に。
二人が立っている。
ヴァンピールたちは。
誰も動けなかった。
赤葦が呟く。
木兎が笑った。
木葉が叫ぶ。
兄は。
自分の手を見る。
黒い紋様が。
少しずつ薄くなっている。
兄は自分の胸に手を当てる。
木葉が笑う。
秋成は照れくさそうに笑った。
その直後。
屋上の向こうから。
拍手が聞こえた。
全員が振り返る。
そこに。
一人の男が立っていた。
昨日、木葉の前に現れた男。
> 挿入されたアイテム
男は微笑む。
兄が前に出る。
男の胸元。
三つの名前。
しかし。
その一つが。
異様なほど黒く染まっている。
兄が息を呑む。
男は笑う。
一瞬。
風が止まる。
木葉の顔が強張る。
兄も。
明らかに動揺していた。
木葉が問う。
男は答えない。
ただ。
秋紀へ一枚の紙を投げる。
木葉が受け取る。
古い記録。
そこには。
一つの名前。
そして。
その横に書かれた文字。
《永名適性者・木葉秋紀》
・ **第一継承者**
木葉が呟く。
兄の表情が変わる。
兄が低い声で言う。
木葉は紙を見る。
頭の中が真っ白になる。
ゆっくり顔を上げる。
男が答えた。
男は笑う。
秋紀は。
紙を握りしめた。
兄が隣に立つ。
秋紀は兄を見る。
そして。
笑った。
朝日が昇る。
二人の影が。
地面に並んで伸びていく。
十年ぶりに。
兄弟の影が。
同じ方向へ。


















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。