「……千空……?」
私が思わず口にした名前に、その人は何も答えなかった。
ただ、羽京の腕を掴んだまま、眉間にしわを寄せて、じっと睨むように見てる。
「……おい……」
そう言いかけて、そのまま言葉が止まった。
目が合った。
私でも、はっきりわかる。
……顔、真っ赤。
でも、それを誤魔化すでもなく、ただ、なにか言いたげにして……
「いや……なんだよそれ、てめぇ、なにしてんだよ……」
語気は強いのに、まるで正体のわからない感情を、無理やり言葉にしようとしてるみたいで。
「あー……いや……」
自分でも混乱してるのか、千空の目が泳いでた。
羽京は、微笑んでるような、
でも少しだけ悲しそうな目で千空を見てた。
「どうしたの、千空?」
その穏やかな一言が、逆に追い打ちになる。
「は?……なんも、なんもねぇよ……!!」
千空の言葉は、まるでぐちゃぐちゃに絡まった紐みたいだった。
羽京はその手を、ゆっくりと、でもしっかりした力で解くように、千空の手から自分の腕を外した。
「千空、君はちゃんと自分の感情に向き合ったほうがいいよ」
その声は、千空の怒りも、混乱も、全部見抜いたうえで、それでも向き合えって促すような、静かで優しい声だった。
「じゃないと、僕も……もう次はないからね?」
一拍の間。
千空は目を見開いたまま、何も返さなかった。
羽京もそれ以上何も言わず、静かに、くるりと背を向けて歩き出す。
「じゃあね、あなた」
羽京が去ったあと、その場には私と千空だけが残った。
気まずい沈黙。
千空は少し下を向いたまま、まだ何か言いたそうな顔をしていて……
でも、何も言ってこなかった。
私も何も言えなかった。
(……無言が長い……)
(しかもこの状況、私がなんとかしないと永遠に終わらないやつ……)
しびれを切らして、私はわざと軽い口調で言った。
「……あ、じゃあ、私も戻ろっかな。作業、途中だし!」
気まずさをごまかすように笑いながら、その場を後にしようと背を向けた、ちょうどその時。
「……毎回、気になんだよ」
ぴたりと足が止まった。
「お前が、どこで何してんのか。
誰と喋ってんのか、何考えてんのか……」
そのまま、言葉を続ける。
「バカみてぇに無理してねぇかとか、またどっかで派手に転んでねぇかとか……気にしてねぇフリして、ずっと勝手に見てんだよ。
……気づけよ、たまには」
その優しい声色に、心臓が大きく鳴った。
私は、ゆっくりと振り返って、顔がにやけるのを止められないまま聞いた。
「……それって、好きってこと?」
ちょっと冗談っぽく、でも内心バクバクしながらそう聞いた私に……
千空は、視線を逸らしながら、小さく舌打ちみたいな呼吸をひとつ。
「……いちいち言わせんなよ。
今のでわかるだろ、察しろ……文句あっか」
ぶっきらぼうで、言葉足らずで、でもそれが、
千空の精一杯の、“答え”だった。
「…………っぷ」
笑った。
なんかもう、嬉しくて、嬉しすぎて、顔が勝手にゆるんでくの止められなかった。
「ふふっ、文句なんかあるわけないじゃん!」
そのまま、反射的に、私は、千空に飛びついた。
「わー!!千空だいすきーーー!!!」
「わっ、ちょっ、てめぇ……!」
「いいじゃーん、言わせといて!抱きつくのも許してー!」
「うるせぇ……っ!!誰か見てたらどうすんだよっ!!」
「見せつけてやるぅ〜〜!!」
「ただのバカが本格的にバカになった……」
それでも千空は、無理やり私を引き剥がすことはなくて。
顔真っ赤にしながら、小さくため息をついて、
「……ったく」と呟く。
その目は、ちょっとだけ、やさしかった。
3700年後のこの世界で、
まさかこんなふうに笑える日がくるなんて、思ってもなかった。
でも今、こうして笑ってる私を、たぶん千空も……ちゃんと見てくれてる気がした。
世界の全部が石になっても。
言葉が足りなくても。
この人が言ってくれた、たった一言。
“察しろ”の裏側にある全部が、私の心をちゃんと満たしてくれていた。
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お話は、もうすこーしだけ続きます☺️













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。