第61話

"察しろ”の裏側にある全部
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2025/09/14 10:00 更新
「……千空……?」


私が思わず口にした名前に、その人は何も答えなかった。


ただ、羽京の腕を掴んだまま、眉間にしわを寄せて、じっと睨むように見てる。


「……おい……」


そう言いかけて、そのまま言葉が止まった。


目が合った。


私でも、はっきりわかる。


……顔、真っ赤。


でも、それを誤魔化すでもなく、ただ、なにか言いたげにして……


「いや……なんだよそれ、てめぇ、なにしてんだよ……」


語気は強いのに、まるで正体のわからない感情を、無理やり言葉にしようとしてるみたいで。


「あー……いや……」


自分でも混乱してるのか、千空の目が泳いでた。


羽京は、微笑んでるような、
でも少しだけ悲しそうな目で千空を見てた。


「どうしたの、千空?」


その穏やかな一言が、逆に追い打ちになる。


「は?……なんも、なんもねぇよ……!!」


千空の言葉は、まるでぐちゃぐちゃに絡まった紐みたいだった。


羽京はその手を、ゆっくりと、でもしっかりした力で解くように、千空の手から自分の腕を外した。


「千空、君はちゃんと自分の感情に向き合ったほうがいいよ」


その声は、千空の怒りも、混乱も、全部見抜いたうえで、それでも向き合えって促すような、静かで優しい声だった。


「じゃないと、僕も……もう次はないからね?」


一拍の間。


千空は目を見開いたまま、何も返さなかった。


羽京もそれ以上何も言わず、静かに、くるりと背を向けて歩き出す。


「じゃあね、あなた」





羽京が去ったあと、その場には私と千空だけが残った。


気まずい沈黙。


千空は少し下を向いたまま、まだ何か言いたそうな顔をしていて……



でも、何も言ってこなかった。


私も何も言えなかった。



(……無言が長い……)

(しかもこの状況、私がなんとかしないと永遠に終わらないやつ……)


しびれを切らして、私はわざと軽い口調で言った。


「……あ、じゃあ、私も戻ろっかな。作業、途中だし!」


気まずさをごまかすように笑いながら、その場を後にしようと背を向けた、ちょうどその時。





「……毎回、気になんだよ」



ぴたりと足が止まった。


「お前が、どこで何してんのか。
誰と喋ってんのか、何考えてんのか……」


そのまま、言葉を続ける。



「バカみてぇに無理してねぇかとか、またどっかで派手に転んでねぇかとか……気にしてねぇフリして、ずっと勝手に見てんだよ。

……気づけよ、たまには」



その優しい声色に、心臓が大きく鳴った。


私は、ゆっくりと振り返って、顔がにやけるのを止められないまま聞いた。




「……それって、好きってこと?」




ちょっと冗談っぽく、でも内心バクバクしながらそう聞いた私に……

千空は、視線を逸らしながら、小さく舌打ちみたいな呼吸をひとつ。




「……いちいち言わせんなよ。
今のでわかるだろ、察しろ……文句あっか」




ぶっきらぼうで、言葉足らずで、でもそれが、

千空の精一杯の、“答え”だった。


「…………っぷ」


笑った。


なんかもう、嬉しくて、嬉しすぎて、顔が勝手にゆるんでくの止められなかった。


「ふふっ、文句なんかあるわけないじゃん!」


そのまま、反射的に、私は、千空に飛びついた。


「わー!!千空だいすきーーー!!!」

「わっ、ちょっ、てめぇ……!」

「いいじゃーん、言わせといて!抱きつくのも許してー!」

「うるせぇ……っ!!誰か見てたらどうすんだよっ!!」

「見せつけてやるぅ〜〜!!」

「ただのバカが本格的にバカになった……」


それでも千空は、無理やり私を引き剥がすことはなくて。


顔真っ赤にしながら、小さくため息をついて、
「……ったく」と呟く。



その目は、ちょっとだけ、やさしかった。


3700年後のこの世界で、


まさかこんなふうに笑える日がくるなんて、思ってもなかった。


でも今、こうして笑ってる私を、たぶん千空も……ちゃんと見てくれてる気がした。


世界の全部が石になっても。
言葉が足りなくても。


この人が言ってくれた、たった一言。
“察しろ”の裏側にある全部が、私の心をちゃんと満たしてくれていた。






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お話は、もうすこーしだけ続きます☺️


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