オレは、無敗の王者と戦うことを諦めた。
手にはあなたが表紙を飾る雑誌の数々。
メディアにもSNSにも公表せずに、
ガラルが寝静まった深夜にオレは。
ひっそりと、ガラルを出た。
導かれるようにオレの足はカロスに向かった。
1度だけ案内されたエイセツシティ。
オレはエイセツジムの扉を、
恐る恐る開いた。
まともに顔は見れなかった。
オレが、あなたを守れなかったから。
ウルップさんにさえ顔向け出来ないのに。
あなたの親父のカビゴンに、
オレはどんな顔で会えばいいのだろう。
そんな葛藤が頭の中をぐるぐる巡った。
久しぶりのポケモンの村。
風がどこか心地よかった。
オレは真っ直ぐにあの櫓へ向かう。
途中で言葉を詰まらせても、
カビゴンは真剣な表情でオレを見ていた。
カビゴンは全てを受け入れるように、
オレの肩に手を置いて抱きしめた。
そこで、ようやく気が付いた。
オレがボロボロと泣いていることに。
独りで居る時は全く泣けなかったのに。
火葬でも葬儀でも泣けなかったのに。
今はこのあなたの父親から感じる想いが、
オレの凍った心を溶かしているようだった。
怒っている様子にも見えないカビゴンは、
ただ静かに深呼吸をして空を見上げた。
オレも同じように空を見上げると、
綺麗な白い雲が靡くようにゆっくりと流れていた。
それはまるであなたのあの白髪のようで。
オレはそれを掴もうもしたんだ。
フラッシュバックする。
あなたが刺されたあのシーン。
目の前を赤が飛び散るスローモーション。
我を忘れて天に手を指し出した時だった。
突如、突風が吹いて、
雲は流れ、空は青くなってしまった。
でもこの場所にいれば、
いつか雲になったあなたが姿を見せてくれる。
例えそれが妄想だとしても。
例えそれが幻覚だとしても。
例えそれが呪いだとしても。
オレは、今、あなたの見てた世界を、
こんなにも美しい場所から眺められる。















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!