第33話

32.不器用な掌
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2026/02/23 06:11 更新
夜の帳が完全に下り、森は本来の静寂を取り戻していた。
寿々は伊黒の羽織に包まったまま、暗闇の中でじっと傷の回復を待っていた。
太陽に焼かれた痛みは引いてきたものの、極限まで消耗した体はまだ鉛のように重い。
小築 寿々
小築 寿々
(……やっと、動けるかな。……でも、帰るのが怖いな)
また誰かに狙われているのではないか。
自分の居場所なんて、本当はどこにもないのではないか。
そんな思考が渦巻いていた時、ザッ、ザッ、と落ち葉を踏みしめる荒い足音が近づいてきた。
不死川実弥
不死川実弥
……おい。生きてるか。……立てるか
聞き覚えのある、しわがれた低い声。
寿々がおそるおそる顔を上げると、そこには昼間と同じ、不機嫌そうな顔をした不死川実弥が立っていた。
小築 寿々
小築 寿々
……不死川、さん。……また来たの? さっきは……ごめん。汚いもの、見せて
寿々は無理に笑おうとしたが、まだ再生しきっていない頬が引き攣る。
彼女は実弥が昼間、自分のために激怒して隊士たちを叩き伏せに行ったことなど、露ほども知らなかった。
ただ、自分を嫌っているはずの彼が、なぜまた戻ってきたのかが分からず、怯えるように身を縮めた。
不死川実弥
不死川実弥
……余計な喋りをしてんじゃねェ。さっさと起きろォ、置いていくぞ
実弥はぶっきらぼうに言い放つと、寿々の腕を掴もうとして……、
昼間のあのドロドロに焼けた皮膚の感触を思い出し、一瞬だけ手を止めた。
そして、触れるか触れないかの力加減で、彼女の肘を支えるように力を込めた。
小築 寿々
小築 寿々
……わっ、
寿々は言われた通りに立ち上がろうとした。
だが、膝がガクガクと震え、力が全く入らない。
小築 寿々
小築 寿々
あ……
立ち上がった瞬間に視界がぐにゃりと歪み、寿々はそのまま地面へと倒れ込んだ。
しかし、地面に叩きつけられる前に、大きな、傷だらけの手が彼女の肩をがっしりと受け止めた。
不死川実弥
不死川実弥
……チッ。どこまで無様なんだよ、テメェは
小築 寿々
小築 寿々
ごめん……毒のあとに太陽は、流石にキツかったみたいで……。
……一人で帰れるから、もう行っていいよ。
寿々は申し訳なさに俯いた。
嫌われている自覚があるからこそ、これ以上彼を不快にさせたくなかった。
不死川実弥
不死川実弥
……。…………チッ
実弥は盛大に舌打ちをすると、寿々の目の前で、黙って背中を向け、低く屈んだ。
小築 寿々
小築 寿々
……え?
不死川実弥
不死川実弥
『え?』じゃねェよ。さっさと乗れ。
お館様を待たせるわけにゃいかねェだろォが
小築 寿々
小築 寿々
……お、おんぶ……してくれるの? 僕、鬼だよ?
不死川実弥
不死川実弥
分かってんだよそんなことォ!! 四の五の言わずにつかまれ!! 叩き斬るぞ!!
実弥の凄まじい怒号に、寿々は「ひっ」と短い悲鳴を上げて、慌ててその広い背中にしがみついた。

実弥の背中は、義勇の静かな温かさとは違い、
燃えるような熱量と、無数の戦い抜いた古傷の感触があった。
小築 寿々
小築 寿々
……不死川さん。……ごめんね、ありがとう
不死川実弥
不死川実弥
……。…………ふん
実弥はそれ以上何も言わず、寿々を背負ったまま、夜の森を猛然と駆け出した。
寿々は、なぜ彼がこんなに優しく(彼なりに)してくれるのか分からない。
けれど、背中から伝わってくる「風」のような激しい鼓動が、傷ついた彼女の心を少しだけ温めていた。

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