朝の仕事を終えた頃。
私は使用人部屋でエプロンを外していた。
コンコン。
そう思いながら応接室へ向かう。
コンコン。
部屋へ入ると、蓮はソファに座って資料を読んでいた。
私は自分の服を見る。
確かに、持っている服は数着だけ。
30分後。
黒塗りの高級車がショッピングモールへ到着した。
ブランド街に連れて行かれると思っていた。
店内。
蓮が一着手に取る。
私は値札を見る。
3万円。
周りのお客さんがクスッと笑う。
結局。
私が選んだのは五千円ほどのワンピース。
蓮は黙ったまま別の商品を見る。
数分後。
会計。
店員が袋を差し出す。
「ありがとうございました。」
私は袋を受け取り、頭を下げた。
店を出ようとした、その時。
蓮は何事もないように歩いている。
蓮は当然のように答えた。
私の足が止まる。
蓮は不思議そうに振り返る。
執事の言葉を思い出したのか、それとも本心なのか。
私の頬が少しだけ赤くなる。
蓮は本気で分かっていない。
帰りの車。
静かな空気。
私は袋を膝の上に置いていた。
嬉しかった。でも
隣を見る。
蓮は窓の外を眺めている。
私は小さく笑った。
その声に蓮は少しだけこちらを見る
それだけ。
でも、その返事はどこか柔らかかった。
車は夕日に染まる街を走り抜けていく。
二人ともまだ気づいていない。
この何気ない買い物が、少しずつお互いの距離を縮め始めていたことを。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!