相談をしてからというもの、ドラコは私に付きっきりだった。
どこへ行くにも、ドラコが隣にいた。
寮が違うので、どうしても授業は別になることがある。そんなときでも、休み時間を狙って様子を見に来てくれた。
ドラコが顔を上げると、目の前には女子トイレがあった。入り口の前で苦笑いをするあなたを見て、ハッと気づいた。
しばらくしてトイレから出ると、少し離れたところでドラコは、壁に寄りかかって待っていた。
気を遣ってくれたのか、思ったより遠くで待ってくれている姿に、笑みが溢れた。
私たちは当たり前のように、手を繋いだ。
日が落ちて、あと1時間ほどで夕食の時間。
大体の生徒は寮で過ごしたり、すでに大広間で集まっていたりと過ごし方は様々だが、人気の少ない廊下、
手を繋いで歩くのは絶好のチャンスだった。
11月下旬というのに、珍しく暖かい夜。
廊下の柱の隙間から、月明かりが見え隠れしていた。雲一つない夜空に思わず息を呑んだ。
こんな日にドラコと想いを伝えあったな…っと思い出にふけていると、居ても立っても居られなかった。
私が外を指さすと、「あの場所か」と気づいたのか、ドラコは進んでいた向きとは反対に足先を向け、外に続く階段へ連れて行ってくれた。
木に寄りかかりながら座ったドラコ。
その隣に座ろうとすると、腕を引っ張られてドラコの足の間に座らされた。
背中から彼の温もりを感じた。
ドラコの腕が回ってきて、ギュッと抱きしめてきた。
そして、私の肩に頭をそっと置いた。
新学期が始まってから怒涛の日々を過ごしていたが、嬉しいことに毎日ドラコとは顔を合わせていた。だけど、こうしてゆっくりする時間は取れてなかったんだと、より一層今になって感じた。
ドキドキするのに、何故かすごく落ち着いて、心地いいこの時間が幸せだった。
私の肩に顔をうずめながら、小さな声で言った。
ドラコはクスッと笑った。
きっと例の嫌がらせのことだろう。
ドラコが付きっきりで隣にいるからなのか、どうかは分からないけど、ここ2週間は特に何も起こらなかった。
嫌がらせなんてされてなくて、本当にたまたま不思議なことが続いただけなんじゃないかな、と思えてきた。
ドラコは「スカートももう少し下にズラせないのか、短いな」と嫌そうな顔をしながら、私のスカートの裾を引っ張った。
複雑そうな表情をしながら、ドラコは頭をかいた。
そのときドラコの手首に光るブレスレットが、視界に入った。
思わず腕を掴んで、空に向かって掲げた。
私はズンっと後ろに寄りかかり、更にドラコの腕の中に深く包まれた。
月明かりでキラキラとストーンが光った。
ドラコは私の首元に手を伸ばして、ネックレスに優しく触れた。
ネックレスを見つめながら、優しく呟く彼の声に、ドキドキして心臓の鼓動の音がうるさい。
ネックレスのことを言ったと分かっているのに、まるで自分に言われたかのように思ってしまう。
徐々に体温が上がっていった。
ドラコはネックレスから手を離して、私の首元に触れた。
その手はゆっくりと上に上がっていき__
頬に触れた。
触れているドラコの手に力が入り、ぐいっと後ろに引き寄せられた。自然と目が合った。
恥ずかしくて思わず視線を逸らそうとしてしまったが、ドラコの瞳に吸い込まれるように、しばらく見つめあった。
甘い時間が流れていた。
ドラコの指が、私の唇にそっと触れた。
胸が苦しい。
見つめられるだけで、
名前を呼ばれるだけで、
愛おしさが込み上げてくる。
そんな愛しい人に、愛されている私はもう何も怖いものはないんじゃないか。
月明かりに照らされた二つの影は、ゆっくりと一つに重なった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。