第55話

Chapter 51 |ニュースの向こう側にいた私たち 
210
2025/07/10 09:00 更新
その報道が流れた瞬間。
世界が、音を立てて崩れたように感じた。

ニュースのテロップ。
SNSのタイムライン。
ファンの叫び。
事務所の沈黙。

でも、一番静かだったのは──

あなたとドヨンのいない、その場所だった。
CLéの宿舎、リビング。

メンバーたちは誰も口を開かなかった。
テレビはずっと同じ映像を繰り返している。

     《人気アイドルグループのメンバー、突然の訃報》
      《ファンによる過激な行為の可能性が浮上》
         《心よりご冥福をお祈りします》
エリが、ミナの手をぎゅっと握っていた。
ハルは声も出さず、うつむいたまま震えていた。
ユリは今にも泣きそうな顔を浮かべている。
そして、ユリが静かに立ち上がる。
ユリ
ユリ
…あなたは、最後まであなただった。
ユリ
ユリ
どんな時も、誰より人を想ってた。
ユリ
ユリ
だから私たちも、彼女の代わりに伝えていこう。
ユリ
ユリ
この世界に“愛してる”を残すって、
あの子が選んだ道だったんだから
その言葉が、全員の胸にしみ込んだ。
一方、NCT127の宿舎。

誰も、何も、言葉にできなかった。

ジョンウが泣いていた。
ジェヒョンは黙ったまま、膝を抱えていた。
テヨンは部屋を出たり入ったりして、感情を抑えきれないようだった。

そして、マークがポツリとつぶやいた。
マーク
マーク
ヒョンは…“ちゃんと愛せた”って思ってるかな


テーブルの上には、ドヨンが使っていたスマホ。
そのロック画面には──
あなたがふざけて撮った、ふたりの後ろ姿が写っていた。
笑ってる、背中越しのふたり。
その画面を見て、悠太がぽつりと呟く。
悠太
悠太
なあ、あいつさ……
悠太
悠太
本当は、結婚しようと思ってたんだよ…
誰も返事はしなかった。
でも、全員がその言葉を“知ってた”ように黙ってうなずいた。



──2人は、未来を見ていた。
たとえ、それが儚く終わる運命だとしても。
たとえ、その約束が永遠に叶わないものだとしても。

「“名前を呼び合う人生”を選んだふたりだった」
それから3ヶ月。
世間の喧騒は静まり、事件は“過去”として整理されていった。

けれど、2人を知るすべての人にとって、
その存在は今も、光のように消えずに残っていた。


そして──

数十年後、遠く離れた場所で、2人の知らない街で。
まったく別の人生を生きていた“ふたり”が、
ゆっくりと目を覚ましはじめていた。

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