その異変は、誰の目から見ても明らかになりつつあった。
ここ数週間の吉田仁人は、明らかに体調を崩していた。
いつもなら楽屋の隅々まで響き渡る小気味いいツッコミが鳴りを潜め、少しの移動でも肩を大きく揺らして息を切らしている。
ダンスレッスンでは、普段なら絶対にあり得ないようなステップの踏み外しを見せ、スタジオの床に激しく膝をつくことも増えていた。
🤍「よっしー、大丈夫……? 最近ずっと顔色悪いよ。今日も全然ご飯食べてないし」
山中柔太朗が心配そうに覗き込む。
仁人の顔は土気色に濁り、唇の端には乾いた血の跡があった。
💛「あぁ……ごめん、柔太朗。ちょっと最近、寝不足が続いててさ。口内炎もできちゃって、上手く喋れんわ」
仁人は無理に口角を上げて笑おうとしたが、その表情は痛々しく歪んでいた。
初期症状は、確実に、そして容赦なく仁人の体を蝕んでいた。
最初は、ただの風邪だと思っていた。
微熱が何日も下がらなくなり、体が鉛のように重くなった。
それだけならまだしも、ここ数日は異常なまでの「出血」が仁人を追い詰めていた。
歯磨きをするたびに血が止まらなくなり、大してぶつけた記憶もないのに、腕や足には不気味なほど紫色の大きな青あざがいくつも浮かび上がっている。
骨の奥からじわじわと突き上げてくるような、鈍い痛み。
何かがおかしい。そう自覚しながらも、仁人は「ツアー前だから」「リーダーだから」という責任感だけで、ボロボロの肉体を繋ぎ止めていた。
しかし、限界は突然訪れる。新曲のプロモーション撮影の日。
楽屋で衣装に着替えていた仁人は、突然激しいめまいに襲われた。
地面が大きく傾く。
💛「が、はっ……、ぁ……っ」
激しい耳鳴りと共に、喉の奥から熱い塊が込み上げてきた。
慌てて手で口を覆ったが、指の隙間からどくどくと鮮血が溢れ出す。
💙「仁人――っ!?」
隣にいた塩﨑太智の悲鳴のような声が響いた。
仁人はそのまま、糸が切れた人形のように床へと崩れ落ちる。
意識が遠のく視界の中で、太智が必死に自分の名前を叫び、佐野勇斗が血相を変えて駆け寄ってくるのが見えた。
曽野舜太の震える声と、柔太朗が自分の体を支えてくれる温かい感触を最後に、仁人の意識は深い闇へと沈んでいった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!