「ゴホッゴホッ」
「なんやひとらん、風邪か?」
「んー、畑いじりの時に体冷やしちゃったかなぁ……ちょっと部屋で休んでくる」
「おう」
そんなただの会話が、異変の始まりだった。
「ね、ねぇ、これ……」
翌朝、勢いよく部屋から出てきたひとらんが掌を見せてそう言った。その掌には黒い、禍々しい紋様。まるで悪魔が宿っているようで、4年前にも経験したとてつもない不快感が、体を襲った。
成長しているからか気絶はしなくなってるが、それが逆にキツイ。どれだけ気持ち悪くても、気絶には至らない弱さで、いたぶられている様な気がした。
「と、とりあえず水……それも、聖水で洗ってみましょう」
エーミールがそう言うと、オスマンが「シスター呼んでくる!」と飛び出して行った。……4年前、真っ先に倒れていた二人だ。二人が頑張って耐えているのに、俺がこんなのに耐えられないなんて、情けなさすぎる。
「俺はペ神を──」
「待て」
そんなグルッペンの低い声に、周りの空気がずん、と重くなる。それは、一瞬息ができなくなる程の圧で、ペ神を呼びに行こうとした事すら、頭から無くなってしまうほどだ。
飛び出して行ったオスマンと、グルッペンを除いて10人。全員がグルッペンを見つめていた。
グルッペンはただ優雅にコーヒーを飲んでいる。みな、その口が開かれるのを待っていた。
グルッペンはただゆっくりと茶菓子を口に運んだ。一人、また一人となかなか話し出さないグルッペンにイラつき、静かだった空間に少しの雑音が混じり始める。どこからか小さなため息も聞こえた。
グルッペンはまた、コーヒーを口元へ持ってきて──
「えぇい洒落臭い!勿体ぶらずに早う言えや!!!」
それを、コネシマに止められた。グルッペンは少し眉をひそめ顔を上げ、ようやっと口を開く。
「俺はただ待てと言っただけだが?他に言う事も無いだろう。」
「いやいや何言うとんねん。止めた理由はちゃんと言ってもらわな、げどちゃんやって不安なってまうやろ。」
続けて、鬱がそう言い放った。
ひとらんをチラリと見たが、顔を下に向けていて表情は分からなかった。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。