前の話
一覧へ
より
ケインの制作者 side
過去に造ったロボットのデータを見ていたら不審な点が目に留まった。不審というよりも、データへのアクセスそのものができなくなっている、といったほうが正解かもしれない。
アクセス権が奪われているということは、改造されたと考えるのが自然だ。
確か此奴は悪が蔓延る街と噂されるロスサントスに警察官として派遣された、唯一にして最高傑作である完成型のはずだ。そう簡単には改造されるとはどうしても思えないのだが。
それでも、一番の気がかりは、悪に染まり人々を恐怖に陥れる存在になっている可能性だ。人を守るために設計したものが真逆の役割を担ってしまっていては元も子もない。
念のため、偵察機を派遣しておこう。ただの取り越し苦労であってくれれば嬉しいのだが。
偵察機を派遣してから、早くも数週間が経った。その間、こちらには特に目立った動きはない。報告も、異常を知らせる通知も入っていなかった。
それが正常なのか、それとも異常なのか、判断はつきにくい。ただ、何も起きていないという事実が、確実にこちらを脅かしていた。
想定していた期間を考えれば、そろそろ帰還する頃合いだ。それまで待つとしよう。
偵察機が帰還したとの報告を受け、即座に情報を確認した。すると、そこには目を疑うような内容が記されていた。完成型はギャングへと改造され、犯罪行為に関与していたのだ。考えうる限りの最悪の事態であった。
誤認や記録ミスの可能性を疑い、報告内容を何度か照合したが、結論は変わらない。よりにもよって、それが最高傑作であったという事実に焦りを覚えた。
すぐにでも討伐隊を送り、排除しないといけないのだが、あいにく現在手元にあるのは試作品のみ。すべては最高傑作の制作に時間をかけ過ぎたせいだろう。その完成度に満足し、次の一手を用意しなかった。今となっては、それが致命的な判断だった。しかし、いまさら後悔したところで、状況が好転するわけではない。
今できることは、残された戦力である試作品を使い、あれを破壊することだけだ。ほかに手段はなかった。いや、ないと信じたいだけかもしれない。仮にあったとしても、今、この状況で実行に移せるものはこれしかないのだ。たとえ、これが最悪の手段であったとしても。
だが、たかが試作品である。完成型の前に造られていた個体であるがために、性能、安定性、プログラム、どれをとっても劣る。つまり、此奴らに出来ることは限られている。
されど試作品。量産型ではないものの、投入できる数は想定以上にあった。個々の戦力は大して高くない。しかし、数をもってすれば、最高傑作の破壊程度なら不可能ではないだろう。
此奴らが壊れたとしても知ったことではない。問題は、最高傑作がさらに暴走し、この研究所の名に傷がつくことだ。それだけは、何としても避けなければならない。一刻も早く動きを止め、事態を収束させ、信頼を取り戻さねばならない。もはや躊躇している時間など無かった。
決断は早かった。いや、考えている余裕がなかったと言ったほうが正しい。早くしなければという思考だけが脳内を巡っていた。
一つずつ、起動させていく。同期率、反応速度、出力安定度、どれも平均値を下回る個体しかいない。だが、それでもやるしかないのだ。まだ致命的な欠陥はない。格納庫の奥で順に起動音がする。
実践を想定して造られていない個体もあるが、選別する時間が無駄だ。それに加え、数は多いに越したことはない。どんな個体であろうと送り込めば問題ないはずだ。問題があったとしても相手にしている時間はない。
転送座標をロスサントスから数キロ離れた海上に設定し、進行ルートは複数に分散させる。
可能であれば、破壊ではなく鎮圧を最優先にしたい。しかし、試作品だけではそこまでの精密な役割は期待できまい。最高傑作の損失は大きいが、今はそれを惜しんでいる場合ではない。今は守るべきものを見誤らないことが一番だ。
介入は完了した。あとは結果を待つだけだ。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。