トントンが帰ってくる日。
朝からショッピはそわそわしていた。
「……まだですか」
「あと数時間やって」
「さっきも聞いたでそれ」
ゾムが苦笑する。
ショッピは落ち着かない様子で廊下を行ったり来たりしていた。
本を開いても頭に入らない。
紅茶を飲んでも味が分からない。
時計ばかり見てしまう。
「ショッピくん、尻尾出てますよ」
「……ぇ」
エーミールに言われ、ショッピは慌てて後ろを押さえる。
緊張や感情が強くなると、無意識に猫の特徴が出ることがあるのだ。
黒い尻尾がぴこぴこ揺れていた。
「めっちゃ楽しみにしとるやん」
「ち、違……」
「耳も出とる」
「っ!?」
さらに真っ赤になるショッピ。
幹部達は完全に微笑ましいものを見る目になっていた。
そんな中。
――ブゥン……
基地入り口付近に、車両のエンジン音が響く。
その瞬間。
ショッピの身体がぴたりと止まった。
「……!」
帰ってきた。
そう理解した途端、胸がどくどく鳴り始める。
嬉しい。
安心した。
会いたい。
色んな感情が一気に溢れて、ショッピは気づけば走り出していた。
「うおっ、ショッピ!?」
「はやっ」
幹部達の声を置き去りにし、基地の入り口へ向かう。
扉が開く。
そこには。
「……ただいま」
少し疲れた顔で笑う、トントンがいた。
その姿を見た瞬間。
ショッピの視界が滲んだ。
本当に帰ってきた。
約束を守ってくれた。
「……っ」
言葉が出ない。
ただ胸がいっぱいだった。
トントンはそんなショッピを見て、少し目を見開く。
「……待っててくれたん?」
優しい声。
その瞬間。
ショッピは堪えきれなくなった。
たっ、と駆け寄る。
そして。
ぎゅっ。
「……!」
トントンの服を掴み、そのまま抱きついた。
周囲が静まり返る。
ショッピ自身も、自分が何をしたのか理解して固まった。
だがもう遅い。
離れようとしても、腕に力が入らなかった。
「……おかえり、なさい……」
震える声。
泣きそうな声。
トントンは数秒固まっていたが――やがて、ふっと笑った。
「ん。ただいま」
優しく背中を撫でられる。
その瞬間。
ショッピの目から涙が零れた。
「っ、ぅ……」
安心した。
怖かった。
また戻ってこないんじゃないかって、不安だった。
全部全部、溢れてくる。
「うわぁ……」
後ろでシャオロンが感極まった声を漏らす。
「抱きついた……」
「自分から……」
「成長がすごい……」
「親目線やめろ」
ゾムがツッコミを入れるが、声が少し震えていた。
皆、嬉しかったのだ。
最初は誰にも近づけなかったショッピが。
怯えて隠れてばかりだったショッピが。
今、自分から“離れたくなかった”と伝えている。
それがどれほど大きな変化か。
トントンは泣いているショッピを見下ろし、困ったように笑った。
「そんな心配せんでも帰ってくるって」
「……だって」
ショッピが服を握る力を強める。
「……帰ってこん人、いっぱいおったから……」
その言葉に、場の空気が静かになる。
トントンは少しだけ目を伏せて。
そして、ショッピの頭をぽんぽんと優しく撫でた。
「……これからは帰るよ」
「……」
「お前のところにな」
その一言で。
ショッピはまた泣きそうになった。
“お前のところ”。
それはつまり。
ここが、自分の居場所だと言ってくれているのと同じだった。
ショッピはぐしゃぐしゃの顔のまま、小さく頷く。
「……はい」
その返事に、トントンは優しく笑う。
後ろでは幹部達が。
「尊い……」
「無理しんどい……」
「写真撮っとけばよかった」
「ロボロ黙れ」
いつも通り騒いでいた。
その声を聞きながら、ショッピはそっと目を閉じる。
もう一人じゃない。
怖くても。
不安でも。
帰ってきてくれる人がいる。
“おかえり”を言いたい相手がいる。
その温もりが、どうしようもなく幸せだった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!