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第17話

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2026/06/25 11:04 更新
その日の基地は、朝から慌ただしかった。

「第一部隊、至急準備!」

「補給班急げ!!」

廊下を走る兵士達。

飛び交う怒鳴り声。

緊急任務だった。

隣国との小規模衝突。

本来なら幹部だけで十分対処できる程度のものだが、敵の動きが予想以上に不安定らしい。

談話室にいたショッピは、その騒がしさに肩を震わせた。

「……」

胸がざわつく。

戦場。

任務。

その言葉だけで、嫌な記憶が蘇る。

すると。

「ショッピ」

トントンが部屋へ入ってきた。

すでに軍服へ着替えている。

ショッピの心臓が、どくんと跳ねた。

「……行くんですか」

「ん。すぐ終わると思うけどな」

そう笑うトントン。

けれどショッピは笑えなかった。

怖い。

また帰ってこなかったら。

怪我したら。

消えてしまったら。

不安ばかりが膨らむ。

「……」

俯くショッピに、トントンは少し困ったように眉を下げた。

「大丈夫やって」

「……大丈夫って」

ショッピの声が掠れる。

「それ、皆言うんです」

トントンが目を見開く。

ショッピはぎゅっと拳を握り締めていた。

「大丈夫やって言って……帰ってこんかった人、おったから……」

静かな告白だった。

けれど、その言葉の重さに場が静まる。

ショッピの中には、まだたくさんの喪失が残っている。

信じたいのに、怖い。

期待した分だけ傷つくと知っているから。

「……ショッピ」

トントンがゆっくり近づく。

ショッピは逃げなかった。

その代わり、不安そうに見上げる。

するとトントンは、そっと片手を差し出した。

「約束する」

「……」

「絶対帰ってくる」

真っ直ぐな声。

ショッピの瞳が揺れる。

「……でも」

「それでも不安なんやろ?」

図星だった。

ショッピは小さく頷く。

すると。

ぎゅ。

「……!」

トントンが、ショッピの手を握った。

温かい。

大きな手。

以前なら、触れられるだけで怖かったのに。

今は、その温もりに安心してしまう。

「帰ってきたら、また“ただいま”聞かせて」

優しい声。

ショッピの胸が苦しくなる。

離れたくない。

行ってほしくない。

そんな子供みたいな感情が溢れてくる。

「……っ」

気づけば。

ぎゅっ、とショッピも手を握り返していた。

「……ちゃんと、帰ってきてください」

震える声。

懇願するみたいな言葉。

トントンは少し目を丸くして――柔らかく笑った。

「ん」

「約束ですからね……」

「破らへんよ」

そのやり取りを後ろで見ていた幹部達は。

「うわぁ……」

「信頼が……」

「成長感じて泣ける……」

「お前ら親か」

ゾムが呆れながらも、少し目を細めていた。

ショッピが“帰ってきて”と言えるようになった。

それはつまり、“帰ってくると信じたい”と思えたということだから。

出発時間が近づく。

トントンは最後にもう一度、ショッピの頭を撫でた。

「待っててな」

「……はい」

トントンが背を向ける。

離れていく温もり。

その瞬間。

「……トントンさん!」

ショッピが思わず呼び止めた。

トントンが振り返る。

ショッピは少し迷って――。

そして、小さく口を開いた。

「……好きです、その……手」

数秒の沈黙。

「…………」

トントンが固まる。

後ろの幹部達も固まる。

ショッピ自身も「何言ってるんや自分」と顔が真っ赤になった。

「ち、違……! 変な意味ちゃうくて……安心するっていうか……」

慌てて言い直す。

すると。

トントンがふっと笑った。

優しく、嬉しそうに。

「そっか」

その笑顔に、ショッピの心臓が跳ねる。

「じゃあ、帰ったらまた握ったる」

「っ……!」

ショッピは耳まで真っ赤にしながら、俯いた。

だが。

小さく、小さく頷く。

その姿に幹部達が一斉に顔を覆った。

「無理……」

「尊すぎる……」

「しんどい……」

騒がしい声が響く。

でもショッピはもう、少しだけ分かっていた。

大切な人を信じるのは怖い。

それでも。

“帰ってきてほしい”と思える相手がいることは、きっと幸せなのだと。

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