第16話

16
117
2026/06/19 08:06 更新
発作を起こした日から、数日後。

ショッピは以前より少しだけ、周囲を頼るようになっていた。

「ショッピくん、お茶淹れましたよ」

「……ありがとうございます」

「お、素直」

「なんですかそれ」

エーミールからカップを受け取り、ショッピがむっと眉を寄せる。

だが、その反応に皆どこか安心したように笑った。

あの日以来、ショッピは無理に“平気”を装わなくなった。

怖い時は「怖い」と言う。

不安な時は、少しだけ頼る。

それは幹部達にとって、とても大きな変化だった。

「……でも」

ソファに座りながら、ショッピがぽつりと呟く。

「頼るんって、難しいですね」

その場が静かになる。

ショッピは膝を抱え、小さく眉を下げていた。

「迷惑かけてる気ぃするし……」

「かけろかけろ」

即答したのはゾムだった。

「むしろもっと来い」

「雑すぎません?」

「でも本音やで」

ロボロもうんうん頷く。

「ショッピ全然甘えへんし」

「……甘えてますけど」

「足りん」

「足りんね」

「足りてないですねぇ」

全員一致だった。

ショッピが絶句する。

「えぇ……」

「もっと頼ってええんやで?」

チーノが心配そうに言う。

ショッピは視線を逸らした。

“甘える”。

それが、まだよく分からない。

昔は誰かに頼れば怒られた。

泣けば鬱陶しがられた。

だから、一人で耐える癖がついている。

すると。

「……よし」

トントンが何か思いついたように立ち上がった。

「ショッピ、練習するか」

「……は?」

「甘える練習」

数秒の沈黙。

「なんですかそれ」

ショッピが真顔になる。

後ろでは幹部達が「おもしろそう」とざわついていた。

「例えばやな」

トントンはショッピの前にしゃがみ込む。

「撫でてほしい時、ちゃんと言う」

「無理です」

即答。

「なんでや」

「恥ずかしいからです」

「もう撫でられとるやん普段」

「それとこれとは別です!」

顔を真っ赤にするショッピ。

するとゾムがニヤニヤしながら口を開く。

「じゃあ抱っこは?」

「論外です」

「猫姿でも?」

「…………」

黙った。

「今否定せんかったな?」

「うるさい……」

耳まで赤い。

図星だった。

猫姿の時は、トントンに抱えられると安心する。

でもそれを認めるのは悔しい。

「ほらショッピくん」

エーミールが優しく笑う。

「嫌なことは嫌って言えてるじゃないですか」

「……」

「それも立派に頼れてるってことですよ」

その言葉に、ショッピは少し目を瞬かせた。

頼る、って。

もっと大きなことだと思っていた。

でも。

「怖い」「嫌」「そばにいて」

そう言うことも、頼ることなのかもしれない。

「……難しいです」

ぽつりと呟く。

するとトントンが、ふっと笑った。

「ゆっくり覚えたらええ」

ぽん、と頭を撫でられる。

温かい手。

ショッピは少しだけ目を細めた。

その瞬間。

「今の顔やば」

「安心しきっとる」

「かわい〜」

騒ぎ始める幹部達。

「……うるさいです」

ショッピが顔を隠そうとした時。

ぐい。

「わっ」

突然、トントンに引き寄せられる。

気づけば、隣に座らされていた。

「ちょ、トントンさん!?」

「甘える練習」

「違いますって!!」

慌てるショッピ。

だがトントンはどこ吹く風だ。

「嫌か?」

その問いに、ショッピは固まる。

嫌なら離してくれる。

それが分かっていた。

だから。

「……嫌、では」

小さな声。

その瞬間、周囲がざわつく。

「許可出た」

「貴重」

「記念日や」

「騒がんでください!!」

真っ赤になって抗議するショッピ。

でも、不思議だった。

以前なら、こんな風に近くにいられるだけで怖かったのに。

今は。

トントンの隣が、安心する。

その事実に気づいてしまって、胸がむず痒くなる。

「……ショッピ」

「なんですか」

「ちゃんと甘えられとるよ」

優しい声だった。

ショッピは目を見開く。

そして。

少しだけ迷ってから。

そっと、トントンの服の袖を掴んだ。

「……これ、くらいなら」

控えめな甘え。

けれどショッピにとっては、大きな一歩だった。

トントンは少し驚いて――嬉しそうに笑う。

「ん。十分や」

その笑顔を見て。

ショッピも、ほんの少しだけ笑った。

プリ小説オーディオドラマ