発作を起こした日から、数日後。
ショッピは以前より少しだけ、周囲を頼るようになっていた。
「ショッピくん、お茶淹れましたよ」
「……ありがとうございます」
「お、素直」
「なんですかそれ」
エーミールからカップを受け取り、ショッピがむっと眉を寄せる。
だが、その反応に皆どこか安心したように笑った。
あの日以来、ショッピは無理に“平気”を装わなくなった。
怖い時は「怖い」と言う。
不安な時は、少しだけ頼る。
それは幹部達にとって、とても大きな変化だった。
「……でも」
ソファに座りながら、ショッピがぽつりと呟く。
「頼るんって、難しいですね」
その場が静かになる。
ショッピは膝を抱え、小さく眉を下げていた。
「迷惑かけてる気ぃするし……」
「かけろかけろ」
即答したのはゾムだった。
「むしろもっと来い」
「雑すぎません?」
「でも本音やで」
ロボロもうんうん頷く。
「ショッピ全然甘えへんし」
「……甘えてますけど」
「足りん」
「足りんね」
「足りてないですねぇ」
全員一致だった。
ショッピが絶句する。
「えぇ……」
「もっと頼ってええんやで?」
チーノが心配そうに言う。
ショッピは視線を逸らした。
“甘える”。
それが、まだよく分からない。
昔は誰かに頼れば怒られた。
泣けば鬱陶しがられた。
だから、一人で耐える癖がついている。
すると。
「……よし」
トントンが何か思いついたように立ち上がった。
「ショッピ、練習するか」
「……は?」
「甘える練習」
数秒の沈黙。
「なんですかそれ」
ショッピが真顔になる。
後ろでは幹部達が「おもしろそう」とざわついていた。
「例えばやな」
トントンはショッピの前にしゃがみ込む。
「撫でてほしい時、ちゃんと言う」
「無理です」
即答。
「なんでや」
「恥ずかしいからです」
「もう撫でられとるやん普段」
「それとこれとは別です!」
顔を真っ赤にするショッピ。
するとゾムがニヤニヤしながら口を開く。
「じゃあ抱っこは?」
「論外です」
「猫姿でも?」
「…………」
黙った。
「今否定せんかったな?」
「うるさい……」
耳まで赤い。
図星だった。
猫姿の時は、トントンに抱えられると安心する。
でもそれを認めるのは悔しい。
「ほらショッピくん」
エーミールが優しく笑う。
「嫌なことは嫌って言えてるじゃないですか」
「……」
「それも立派に頼れてるってことですよ」
その言葉に、ショッピは少し目を瞬かせた。
頼る、って。
もっと大きなことだと思っていた。
でも。
「怖い」「嫌」「そばにいて」
そう言うことも、頼ることなのかもしれない。
「……難しいです」
ぽつりと呟く。
するとトントンが、ふっと笑った。
「ゆっくり覚えたらええ」
ぽん、と頭を撫でられる。
温かい手。
ショッピは少しだけ目を細めた。
その瞬間。
「今の顔やば」
「安心しきっとる」
「かわい〜」
騒ぎ始める幹部達。
「……うるさいです」
ショッピが顔を隠そうとした時。
ぐい。
「わっ」
突然、トントンに引き寄せられる。
気づけば、隣に座らされていた。
「ちょ、トントンさん!?」
「甘える練習」
「違いますって!!」
慌てるショッピ。
だがトントンはどこ吹く風だ。
「嫌か?」
その問いに、ショッピは固まる。
嫌なら離してくれる。
それが分かっていた。
だから。
「……嫌、では」
小さな声。
その瞬間、周囲がざわつく。
「許可出た」
「貴重」
「記念日や」
「騒がんでください!!」
真っ赤になって抗議するショッピ。
でも、不思議だった。
以前なら、こんな風に近くにいられるだけで怖かったのに。
今は。
トントンの隣が、安心する。
その事実に気づいてしまって、胸がむず痒くなる。
「……ショッピ」
「なんですか」
「ちゃんと甘えられとるよ」
優しい声だった。
ショッピは目を見開く。
そして。
少しだけ迷ってから。
そっと、トントンの服の袖を掴んだ。
「……これ、くらいなら」
控えめな甘え。
けれどショッピにとっては、大きな一歩だった。
トントンは少し驚いて――嬉しそうに笑う。
「ん。十分や」
その笑顔を見て。
ショッピも、ほんの少しだけ笑った。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。