第2話

第二章 変わりたい理由
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2025/11/18 07:33 更新
放課後。

渚は保健室の鏡の前で自分を見つめていた。

壁にもたれて立つその姿は、情けないほど細い。

頬はこけ、前髪は目を覆い、猫背がさらに弱さを際立たせる。

——さっき紬に助けられた時の光景が、何度も頭に浮かぶ。

冷たい風の中、迷いなく自分を助けてくれた強さ。

怖い目つきなのに、掛ける言葉は驚くほど優しくて。

(俺、男なのに守られるとかダサいな…)

胸の奥がじんわりと痛む。

悔しさと、情けなさと、そして——惹かれた気持ち。

気づけば、渚は呟いていた。

「強くなりたい……紬さんみたいに。」

その瞬間、胸が熱くなる。

ただいじめられたくないとか、見返したいとかじゃない。

——紬さんの隣に、並びたい。

——紬さんに、もっと堂々と胸を張って向き合いたい。

——あの時の自分みたいな、弱い俺じゃいたくない。

渚は鏡から視線をそらし、拳を握った。

「絶対変わる。」

決意は静かだったが、揺るぎなく強かった。

その日から渚の生活は一変する。

・朝はランニング
・放課後は筋トレ
・食事はタンパク質中心
・姿勢も意識して直す

やり方は全部独学。

最初は腕立ても十回できなかった。

走れば息が切れて膝が痛んだ。

だが渚は、折れなかった。

——紬の「大丈夫?」が何度も胸に響いたから。

何かを守る人の声だった。

その優しさに救われた自分が、いつまでも弱いままじゃ嫌だった。
数週間が経つころ。

体育館の隅で腕立てをしていた渚に、クラスメイトの男子が声をかける。

「原田、お前最近なんか頑張ってるな。」

クラスメイトに声をかけられることが増えた。

周囲の目が少しずつ変わっていく。

渚自身も、鏡を見るたびに小さな変化を感じた。

背筋が伸びた。

体が締まってきた。

そして——髪を切った。

前髪で隠れていた目がはっきり見えるようになると、女子からもちらほら声が飛ぶ。

「原田くん、雰囲気変わったね!」

「前より話しやすくなった〜!」

嬉しいはずなのに、渚の胸はなぜか軽くも重くもなかった。

頭に浮かぶのは、いつも——

あの日まだ弱かった自分を助けてくれたあの人だった。

(紬さんに……振り向いてほしい。)

でも同時に分かっていた。

——紬には男性が苦手だという噂がある。

触れようとすれば怯えるのかもしれない。

笑いかけても警戒されるかもしれない。

それでも渚は思う。

(苦手でもいい。嫌われてもいい。俺は紬さんに近づきたい。ちゃんと話したい。彼女のこと……もっと知りたい。)

そしてある日の放課後——

渚は勇気を振り絞り、紬のいる図書室へと向かう。

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