第104話

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2026/03/06 15:29 更新















 吐いた息が白くなくなってきた時期。



 もう少しで高校生になれるのが嬉しくて
 毎日ぽぽたちに楽しみだって話してた。

 話す度に3人はまたかって呆れていたけど
 それでも頬を緩ませて私の話にずっと頷いてくれて、


 私たちもあなたの新しい制服姿が楽しみだよ、
 新しい友だちができたら連れてきていいし
 気になる人がいたら相談に乗らせてねって。
 
 そんな言葉を掛けてくれる3人が大好きだった。

 一緒に遊んでくれる友だちも、家族も、皆大好き。
 
 


 友だちと遊んで、ぽぽの雑貨屋でイタズラをする。

 そんな毎日が変わったのは、
 いつもと変わらないとある日の帰り道だった。

 ちょっと違うのは、駅前で優しいお姉さんたちから
 風船をひとつもらって、浮かばせて遊んでいたこと。

 


 公園を通るのが家までの近道だったから、
 いつものように陽が沈みはじめて暖かい色に
 染まった公園を走っていた。

 



あなた
っあ…!




 


 ぎゅっと掴んでいた風船の紐が緩く手から離れて
 夕陽の綺麗な大空に向かって飛んでいってしまった。


 家に帰ってお母さんたちに見せるつもりだったから
 私は凄く悲しくなって、
 空に浮かんでいく風船をジッと見つめていた。

 


あなた
…私も空、飛んでみたいな




 能力を持つ友だちは皆楽しそうに空を飛ぶ。

 私は飛べないから、その様子に飛び跳ねながら
 空いっぱいに両手を広げる。


 そんな光景も気に入ってはいたけど
 もし大空を泳げたらどんなに気持ちがいいんだろうと
 そんなありえない体験に想いを馳せた。

 きっと心が良い気持ちで満たされるんだろうな。




 想像することは好きだった。

 もし私が能力者で、怖い怪物に遭遇したら
 どうやってやっつけよう…とか。


 カッコいいやっつけ方がいいな。雷を落とすとか。

 敵の攻撃をコピーしてやり返すのもいいな。


 でも水も自由に動かしてみたいし
 誰かを守るための大きな結界だって作りたい。



 
 小さな公園の空高く上で小さくなっていく
 赤い風船を見送りながらいつもの想像を働かせていて


 ふと、風船が不自然な動きをしているのに気付いた。


 やけに膨らんでいる、それもパンパンに。

 高度にしてはまだまだ低かったし
 風船は今にも割れそうになっていて、








 _____________パァン!!




 …と、割れた音が鳴り響いた途端







 

あなた
……ぇ、?











 周りにとても大きな影が落ちた。


 眺めていた夕陽も大きなナニカに遮られて
 トゲのような視線に睨まれたせいか
 そんな声しか出せなかった。

 そのナニカからは感情が読み取れなくて
 ただずっと大きな目玉が私を捉え続けている。

 意図のわからない視線に鳥肌が立つ。



 小さな公園を覆い被さるぐらい
 巨大な図体の怪物が目の前に突然現れた。

 
 そう気付いた瞬間に、黒い光の玉が眼前に迫って
 身体が思い切り後ろに吹き飛ばされた。


 ガンガンと頭に経験したこともない痛みが襲う。

 酷い金切り音がどこからともなく脳に響く。

 


あなた
ぁ"…っあ……、





 声が震える、瞬きが出来ない、呼吸を忘れる。

 腕のない、その図体に繋がっていない手と
 図体を掴む更に大きな手。



 図体も、祈るように組んでいる両手も、一つ目玉も。

 それを見ていると何処からか鈴の音が聞こえてくる。


 



 感じたこともない身体の震え、本能的な恐怖。

 助けを呼ばないと、逃げないといけないと
 頭が訴えてくるのに身体は言うことを聞かない。

 


 怖い。


 その感情に私の全てを埋め尽くされた途端
 縋り付いていた地面が揺れた。

 辺りで風が強く舞う。空気が沈む。
 私の中に何かが生まれたような気がした。



 呼吸をするように軽く上下する怪物は
 目の前で祈っている両手にグッと力を入れる。

 また私を襲う。嫌だ。怖い。






あなた
っ居なくなってよ"!!




 無理矢理捻り出して、そう声を荒げた。

 

あなた
"私の目の前から消えて"!!!




 言葉に呼応するように、ズンと地面が大きく揺れた。



 纏っていた風は勢いよく辺りに広がって
 遊具や樹木に襲いかかっていく。

 地面に設置されていたベンチが
 風に持ち上げられて宙に舞った。



 綺麗だったはずの夕焼けは黒い雲に覆われて
 雨が降り始めて、酷い雷の音が頭上で響く。






 _________ズドン!!と、横の地面に穴があく。

 怪物はまだ私を標的にして、消えてくれない。




あなた
っ……、!!






 叫んだ。


 怖くて、痛くて、死にたくなくて。

 圧倒的な存在感を放つ怪物に睨まれるその視線は
 平和な生活に浸っていた私には耐えられなくって。


 闇雲に声を荒げて叫んだ。喉を枯らした。



 必死に怪物が消える方法を考えて、また考えて
 近くに落ちる雷に消してくれるようにお願いして。

 轟々と荒れる風に怪物を吹き飛ばしてと願って。

 あちこちのモノが怪物に飛んでいくように
 腕を伸ばして、指でなぞって。



 なんでか周りのものは私が言えばその通りに
 動いてくれていたことは、当時の私にはいっぱい
 いっぱいで周りの被害にも気付けなかった。
 
 


 





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