翌日。
翼がスッキリした顔で俺を迎えに来る。
確かにいつにも増して元気そうに見える。
そしてほどなくして学校に着き、廊下で別れる。
翼side
教室に入っていくあーくんの背中を目で追う。
…やばい、今の僕絶対ニヤけてる。
今までも基本一緒にいたし、付き合ってもあんまり関係変わらないのかなって思ってたけど…これは確実に変わってる。
僕といる時のあーくんが、今までより限りなく穏やかになってる。
今までは女の子に告白されるのにうんざりしてて、疲弊しきってる感じだったけど…今日のあーくんめちゃくちゃ優しかったもん!
やば、人に見られてた…
僕は出来るだけ平静を装って、教室に入った。
今日は放課後デートの約束なので、女装した姿であーくんが出てくるのを待つ。
「わ…あの子可愛い…」
「この学校に彼氏いるとか?」
「え、なら絶対彼氏もイケメンじゃん!」
周囲から自分のことだと思われる内容の話し声が聞こえる。
ふふん、その通り!僕の彼氏はとびきりイケメンなんだよ〜♡
「あの…すみません、亜藍くんの彼女さんですか?」
後ろから声をかけられ、振り向くと…
…え、浅見さん⁉︎
咄嗟のことに驚きながら答える。
え、浅見さん知ってたの⁉︎
「え、あの子が遠山くんの彼女ってまじ⁉︎」
「嘘でしょ…今までそんな気配なかったのに…」
僕は、浅見さんに手を引かれて走り出した。
僕が目を覚ますと…真っ暗な部屋の中にいた。
…え、待って、こんなところに来た覚え…
「あ、やっと目覚めたね」
部屋の奥から声がして、足音が近づいてくる。
一瞬浅見さんに見えたけれど、近づいてきた人物は別人だった。
「君が知ってる浅見真譜はオレの姉さんだね」
身体を見ると…両手両足を鎖で繋がれ、服が脱がされている。
…ってことは、今あーくんは浅見さんと二人きりで…⁉︎
そうなったら、あーくんは…浅見さんの方に行ってしまうんじゃ…
衣吹に顔を触られる。
何これ…あーくんに触れられた時と全然違う…
冷たくて…怖い…!
指で背筋をなぞられる。
お願い…助けて…あーくん‼︎
『___翼‼︎』
バンッ。
勢いよく部屋のドアが開かれる。
パサッ。
あーくんが優しく僕の身体に上着を被せる。
あーくんに圧倒されて、衣吹がうろたえる。
あーくんが安堵のため息をこぼす。
よく見たら、あーくんすごく汗だく…
必死に走って来てくれたんだ…
なのに僕は、あーくんの気持ちを疑ったりして…
そして、僕は手と足の鎖を外してもらい、衣吹に謝罪された後、あーくんにおぶられながらその場を去った。
あーくんは振り返らずにそう言う。
でも…あーくんの背中温かいな…
部屋まで行ったわけじゃないんだ…良かった…
なんだか申し訳ない気持ちになってくる。
この時僕はあーくんの言う「礼」を軽い気持ちで受け流してしまった___
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。