第11話

既成事実
104
2022/08/27 10:00
翼
あーくんおっはよ〜!
亜藍
亜藍
…翼
翌日。
翼がスッキリした顔で俺を迎えに来る。
亜藍
亜藍
…身体、大丈夫か?
どこか痛かったりしないか?
翼
全然大丈夫だよ!元気元気!
確かにいつにも増して元気そうに見える。
亜藍
亜藍
…それなら良かった
無理はするなよ
翼
うん!ありがとうあーくん!
そしてほどなくして学校に着き、廊下で別れる。
翼side
教室に入っていくあーくんの背中を目で追う。
翼
…あ〜…
…やばい、今の僕絶対ニヤけてる。
今までも基本一緒にいたし、付き合ってもあんまり関係変わらないのかなって思ってたけど…これは確実に変わってる。
僕といる時のあーくんが、今までより限りなく穏やかになってる。
今までは女の子に告白されるのにうんざりしてて、疲弊しきってる感じだったけど…今日のあーくんめちゃくちゃ優しかったもん!
マネージャー
マネージャー
…翼くん?教室入らないの?
翼
!あ、浅見さん!
やば、人に見られてた…
僕は出来るだけ平静を装って、教室に入った。
サツキ
サツキ
…ふふん、あーくんまだかな〜♪
今日は放課後デートの約束なので、女装した姿であーくんが出てくるのを待つ。
「わ…あの子可愛い…」
「この学校に彼氏いるとか?」
「え、なら絶対彼氏もイケメンじゃん!」
周囲から自分のことだと思われる内容の話し声が聞こえる。
ふふん、その通り!僕の彼氏はとびきりイケメンなんだよ〜♡
「あの…すみません、亜藍くんの彼女さんですか?」
後ろから声をかけられ、振り向くと…
…え、浅見さん⁉︎
マネージャー
マネージャー
…あの
サツキ
サツキ
!え、あ、はいそうです…
咄嗟のことに驚きながら答える。
え、浅見さん知ってたの⁉︎
「え、あの子が遠山くんの彼女ってまじ⁉︎」
「嘘でしょ…今までそんな気配なかったのに…」
マネージャー
マネージャー
…騒ぎになってきましたね
こっちに来てください
サツキ
サツキ
!え…
僕は、浅見さんに手を引かれて走り出した。
サツキ
サツキ
………ん、んぅ…
僕が目を覚ますと…真っ暗な部屋の中にいた。
…え、待って、こんなところに来た覚え…
「あ、やっと目覚めたね」
部屋の奥から声がして、足音が近づいてくる。
サツキ
サツキ
…浅見さん…?
一瞬浅見さんに見えたけれど、近づいてきた人物は別人だった。
「君が知ってる浅見真譜はオレの姉さんだね」
サツキ
サツキ
…あなたは?
衣吹
衣吹
オレは浅見衣吹いぶき
姉さんのフリして君をここに閉じ込めたのはオレだよ
…てか、オレの名前なんか知りたがってる場合?
そんな惨めな格好させられてるのに
サツキ
サツキ
…え…っ⁉︎
身体を見ると…両手両足を鎖で繋がれ、服が脱がされている。
サツキ
サツキ
な…にこれ…⁉︎
衣吹
衣吹
フフ、惨めな姿だね…
これを君の彼氏に見せたらどんな反応をするのかな…
サツキ
サツキ
…え、彼氏…って…
衣吹
衣吹
遠山亜藍
君と付き合ってるんでしょ
サツキ
サツキ
っ⁉︎
あーくんはどこに…⁉︎
衣吹
衣吹
遠山亜藍は今頃姉さんのところにいるはずだよ
オレが家に誘っておいたからね
サツキ
サツキ
え、浅見さんのところ…?
衣吹
衣吹
姉さんの方がずっとあいつを好きなのに、ポッと出のアンタが姉さんから遠山亜藍を奪ったのがいけないんだよ
サツキ
サツキ
…っ
…ってことは、今あーくんは浅見さんと二人きりで…⁉︎
そうなったら、あーくんは…浅見さんの方に行ってしまうんじゃ…
衣吹
衣吹
…アンタ、彼氏の心配してる場合?
オレに拉致されてんのに
サツキ
サツキ
っ⁉︎
衣吹に顔を触られる。
何これ…あーくんに触れられた時と全然違う…
冷たくて…怖い…!
衣吹
衣吹
…ふーん、結構可愛いね、顔
言われないと男って分からなそう
サツキ
サツキ
…っ…な、何…
衣吹
衣吹
こんくらいならまあ我慢すれば出来るか
サツキ
サツキ
え…?出来るって…
衣吹
衣吹
アンタのこと、汚せるかなって
サツキ
サツキ
へ…んっ⁉︎
指で背筋をなぞられる。
衣吹
衣吹
浮気したって遠山亜藍が知ったら、どんな顔するだろうね
サツキ
サツキ
!んんっ…
お願い…助けて…あーくん‼︎
『___翼‼︎』
バンッ。
勢いよく部屋のドアが開かれる。
サツキ
サツキ
!あ、あーくん!
パサッ。
あーくんが優しく僕の身体に上着を被せる。
衣吹
衣吹
え…なんでここに…
亜藍
亜藍
浅見が教えてくれたんだよ!
つかそれよりお前コイツに何した⁉︎
衣吹
衣吹
え…いやまだ何も…
あーくんに圧倒されて、衣吹がうろたえる。
亜藍
亜藍
…翼、それは本当か?
サツキ
サツキ
え…う、うん
亜藍
亜藍
…良かった…
あーくんが安堵のため息をこぼす。
よく見たら、あーくんすごく汗だく…
必死に走って来てくれたんだ…
なのに僕は、あーくんの気持ちを疑ったりして…
サツキ
サツキ
…あーくんごめんなさい〜〜〜
亜藍
亜藍
!ちょ、泣くなよ…
そして、僕は手と足の鎖を外してもらい、衣吹に謝罪された後、あーくんにおぶられながらその場を去った。
サツキ
サツキ
…あーくん?僕歩けるよ?
亜藍
亜藍
…大人しくおぶられてろ
あーくんは振り返らずにそう言う。
でも…あーくんの背中温かいな…
サツキ
サツキ
…あ、あーくん
亜藍
亜藍
何だ
サツキ
サツキ
あーくん、さっき浅見さんに教えてもらってあそこに来たって言ってたよね
…浅見さんのお家に行ったの?
亜藍
亜藍
ああ…「家に来ないと彼女を攫う」って浅見の格好したあいつに脅されてな
まあ門前払い食らったけど
サツキ
サツキ
そっか…
部屋まで行ったわけじゃないんだ…良かった…
亜藍
亜藍
…浅見には感謝しないとな
サツキ
サツキ
…え?
亜藍
亜藍
一度俺が振った相手なのに、俺の彼女のことまで心配してあいつの場所を教えてくれた
サツキ
サツキ
…そっか、そうだね
なんだか申し訳ない気持ちになってくる。
亜藍
亜藍
礼しないとな
サツキ
サツキ
うん…
この時僕はあーくんの言う「礼」を軽い気持ちで受け流してしまった___

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