第17話

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2021/05/29 05:06 更新
この世の道理を無視したことなんて幾度となくあるけれど。無視した後のことが思った通りに動かなかったことなど、これまであったのだろうか。彼の金色の瞳に映った自分を見るとふと、そんなことを考えてしまった。
相方さとしくんの言い出した、分からないことが分かる世界。成績不振からの発言だった。これはまたいいネタが降ってきたぞと、ここを逃さぬように契約を交わし世界を変えた。さとしくんの成績は学年どころか世界を押さえた。世界の不可思議な現象も解明、難病を克服する薬までもを開発して。世界中で彼を知らない者はいない。また、この操作は世界の物事だけでなく、人の心の模様にも影響を及ぼすように動かした。自分でも気づかなかった感情、相手への深層的な思いにも気付くような細工を。そうして彼の出した結論は、全てを知ると全てが無駄に感じる、と孤独に陥った。人間の裏側を暴いた炎ターテインメント。これもまた、YouTubeに納めておかなければ。編集が楽しみだと、操作を解除しようとする。が、手が止まる。またなんかやってんの?と聞き慣れた声に反射的に肩がかすかに跳ねてしまった。振り返れば、見慣れた銀髪、気怠そうな睫毛に金色の、宇宙の模様をした瞳。今、彼のことをきちんと認識してはいけない。考える前に世界を戻す。さとしくんの功績も孤独も、世間の称賛も記憶も全てなかったことに。柄にもなく、心の臓の奥がじくじくと痛い。ひどく、焦った。顔には見せずに動画の撮影を♪とひょうきんに言ってのければまたかよ、と失笑されて。
(なまえ)
あなた
ホント…ろくでもないことばっかりするよなぁ、アンタら
ブラック
ブラック
最高の炎ターテインメントじゃあないですか!いい動画が撮れました♪
(なまえ)
あなた
フゥン…?あんまりやり過ぎると愛想尽かされるよ、相方クンにさ
嗜める肩を軽く叩かれて体が強張る。ああ、ダメだ、今触れられてしまっては。クソ、世界の操作はこの上なく娯楽に満ちているが、操作側は全ての事柄を覚えているのが厄介だ。編集に移る、とさとしくんを連れて飛び立つ。バイバイ、と手をひらひらと振る彼を、一瞥することさえも躊躇われて、そのままその場を発ってしまった。やっぱり、分からないことがある方が面白いや、なんていい感じに落とし込んださとしくんに、ああそうですか、と適当な相槌しか打てずに。アホな彼でも違和感には気づいたらしい。一人になりたい。カメラちゃんを連れて自室に篭り編集を始める。パソコンに繋がれて大人しく鼻提灯を膨らませるカメラちゃんを時々見つめながら、考えるのはサムネイルや魅せ方、などではなく。彼の、あなたくんの姿を見て浮かんだ事。そういえば、世界を操作したら、自分に適用されるのか、なんて考えたことがなかったかもしれない。己は悪魔だから、とたかを括っていた。完全なる、油断だ。結論はざわついた気持ちが物語っていたけれど。このざわつきの意味を知ってしまったら、今までの己の行動までもが意味を持ってしまうような気がした。
ブラック
ブラック
…なんて、面倒で厄介な。
流石に、自身の記憶を改竄する術はない。自分は何も認識していない、何も認知していない。そう、嚥下して。…きっと、疲れているのだろう。眠ってしまおう。今日は編集に手がつかない、保存をしてシャットダウンする。目を閉じてそっと入眠を待つ。その間も、あの堕天使の影が、瞼の裏に張り付いていた。…あの子の言う通り、分からないことはあるべきだ。今回ばかりは、クソ雑魚少年の言葉に賛同する。

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