第14話

第十四声 『諦めが肝心』
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2024/05/06 08:00
潾side
 
 暇暗さんに先生から渡してと言われた物を押し付けると走って帰ってきた。
ポストに入れようとしたのにみんなが家から出てきてびっくりした。驚かないやつはいないだろう多分。
咲宮 潾(さきみや らん)
「…………」

(成瀬さん。ただいま〜)
 心の中でそう呟きながら美味しそうな匂いのするキッチンへ行った。
もちろん笑顔で迎えてくれる成瀬さん。ムカつく誰かの面影が少しあるけど、それ以上にこの笑顔に救われてきた。だから俺も笑う。
成瀬さん
「あら、おかえり潾。遅かったね。もう六時半よ」
咲宮 潾(さきみや らん)
(違うんだよ。クラスメイトに渡す物を渡してきたらこんな時間になって…………)
 声は出ない。心の中で説明するけど伝わらないのが現実。
俺はあたふたしながら近くの紙にペンで説明した。
成瀬さん
「そうだったのね。それにしても………」
 その紙を見ながら成瀬さんは目を細め、今度は俺を見て頭を撫でてきた。
成瀬さん
「あの子に似てきたわね。字も顔も………。前髪はアイツ譲りだけど。私とも同じで嬉しいよ。…………最近行った?お見舞い」
 前髪のピンク色は父譲りだった。本当は切ってしまいたいけれど成瀬さんが言うんだから仕方ない。
母のお見舞いも行きたいけど正直行きたくないのが本音。だからいつものらりくらりとかわす。
咲宮 潾(さきみや らん)
<体育大会の練習とか忙しくなるし……。行ける日に行くよ>
成瀬さん
「そう?あの子、潾のこと大好きだから。それだけは忘れないで?声もきっと出るわよ」
咲宮 潾(さきみや らん)
<うん>
 会話をすませると部屋に入って着替えをすませる。
別に声を出すことを望んじゃいない。だって声を出そうとすればするほど胸が苦しくなるから。
それに、紙を使えば話もできるし俺、正直言って声なんていらないって思ってる。
成瀬さんのためなら頑張るよ。でもね、無理なものは無理なんだ。
いつからかついた諦め癖。
人生諦めも肝心って言った人、天才だよ。ホントに。
 夕飯の時間になって成瀬さんと一緒に食べ始める。
成瀬さん
「そうだ、潾。明日の晩御飯何がいい?」
咲宮 潾(さきみや らん)
(明日ねぇ……)
 最近ずっと思っていたが成瀬さん、顔色悪いなぁ。クマも酷いし……。
……よし…。
咲宮 潾(さきみや らん)
<考えとくね>
 そう書いた紙を渡した。
成瀬さん
「そっか、わかった。それより学校どう?」
 “友だちがいっぱいだよ”と見せた。
頭の中の妄想の中でだけど。
いや、嘘はついてない。頭の中にいるんだから。
それから、“そう言えば”と続けると最近学校に来ない子がいることを話した。
成瀬さんはどんな答えをくれるのか気になった。
成瀬さん
「そうなの……。その子不登校気味なのね。潾と同じじゃない。…………私にその子のことを話すってことは、潾はその子のこと少しは気になってるんじゃない?」
 ん???もしかして“友だちがいっぱいだよ ”っての嘘ってバレた?
成瀬さん
「まったく、この私にかかれば潾のことなんてお見通しよ。少なくとも、今のその子の心情を分かってあげられるのは潾しか居ないんじゃない?」
 ……そうかもね。
咲宮 潾(さきみや らん)
<ありがとう成瀬さん>
 俺はご飯を食べ終わるとすぐに部屋に戻った。
 




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