潾side
暇暗さんに先生から渡してと言われた物を押し付けると走って帰ってきた。
ポストに入れようとしたのにみんなが家から出てきてびっくりした。驚かないやつはいないだろう多分。
心の中でそう呟きながら美味しそうな匂いのするキッチンへ行った。
もちろん笑顔で迎えてくれる成瀬さん。ムカつく誰かの面影が少しあるけど、それ以上にこの笑顔に救われてきた。だから俺も笑う。
声は出ない。心の中で説明するけど伝わらないのが現実。
俺はあたふたしながら近くの紙にペンで説明した。
その紙を見ながら成瀬さんは目を細め、今度は俺を見て頭を撫でてきた。
前髪のピンク色は父譲りだった。本当は切ってしまいたいけれど成瀬さんが言うんだから仕方ない。
母のお見舞いも行きたいけど正直行きたくないのが本音。だからいつものらりくらりとかわす。
会話をすませると部屋に入って着替えをすませる。
別に声を出すことを望んじゃいない。だって声を出そうとすればするほど胸が苦しくなるから。
それに、紙を使えば話もできるし俺、正直言って声なんていらないって思ってる。
成瀬さんのためなら頑張るよ。でもね、無理なものは無理なんだ。
いつからかついた諦め癖。
人生諦めも肝心って言った人、天才だよ。ホントに。
夕飯の時間になって成瀬さんと一緒に食べ始める。
最近ずっと思っていたが成瀬さん、顔色悪いなぁ。クマも酷いし……。
……よし…。
そう書いた紙を渡した。
“友だちがいっぱいだよ”と見せた。
頭の中の妄想の中でだけど。
いや、嘘はついてない。頭の中にいるんだから。
それから、“そう言えば”と続けると最近学校に来ない子がいることを話した。
成瀬さんはどんな答えをくれるのか気になった。
ん???もしかして“友だちがいっぱいだよ ”っての嘘ってバレた?
……そうかもね。
俺はご飯を食べ終わるとすぐに部屋に戻った。
𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝ 『第十五声 学校』
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。