そこは小洒落た調度品も無く、必要最低限の生活用品しか見当たらない殺風景な部屋。
しかしそこに、その場には不相応な二輪の白い花が、それぞれ一輪ずつ花瓶に飾られ古ぼけたテーブルの上に置かれていた。
オレは右側に飾られている花の花弁部分を斬り落とすと、左側の花の花弁をそっと左手で握り締めた。
オレはそう呟き、先程花弁を斬り落とし茎だけの姿になった花に右手をかざす。
右手から柑子色のオーラが放たれると同時に、茎だけになった花は花弁を再生させ元通りの姿になった。
オレは当然の結果の前に特に感情を表に出すこともせず、左手で握り締めていた花から手を放す。
見ると、左側の花は花弁部分がみずみずしさを失い完全に枯れていた。
その時である。玄関ドアからコンコンと誰かがノックする乾いた音が響いて来た。
壁時計に目をやると、時刻は夕方の五時。
オレは予約時間通りだと心の裡で呟いた。
オレが玄関ドアに向かってそう言い放つと、ドアがゆっくりと開かれる。
足音は二つ。視線を向けるとそこには若い男女の姿が見えた。男の右手はギプスで固定されている。一目で今日の依頼主だと分かった。
若い男は不機嫌な表情を露わにオレを睨んで来る。
男の矛先がオレから連れの女に向けられたところで、オレはあからさまに不機嫌な嘆息をする。
若い女━━友里に諭され、ようやく男は引き下がった。
友里はそう言いながらバッグから封筒を取り出しオレに差し出してくる。
その時、男━━トオルの眉が一瞬だけ歪んだのをオレは見逃さなかった。
トオルは吐き捨てるようにそう呟くと、口元に嘲笑を浮かべた。
友里は必死な表情で止めて、と目でトオルに訴えかけた。
オレは無言のままトオルの前に歩み寄ると、一気にギプスで覆われた右腕を掴み上げた。
オレはトオルにではなく、友里に向かって訊ねた。
友里は一瞬の躊躇もなく右手をオレに差し出して来た。
オレは彼女の右手を優しく握りしめた。
オレの両手から柑子色のオーラが放たれる。
すると、それまで悲鳴を上げていたトオルの顔が驚きに包まれた。
オレが二人から手を離すと、トオルは狐につままれたような唖然とした表情で自分の右腕を見つめていた。
友里はそう言って嬉しそうに笑いながら涙を零した。だが、その右腕は力なく垂れ下がっていた。
トオルはじゃあな、とだけ言い残し一人でさっさと部屋から出て行った。
オレは言い淀み吐きかけた言葉を飲み込んだ。
友里は首を傾げると、そのまま一礼してトオルを追いかけるように部屋から出て行った。
それこそどうでもいい話だったと、オレは思わず苦笑した。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。