第5話

記憶の中で
12
2023/06/02 13:34
遠くで誰かの話声が聞こえる。

なぜだろう、どこか懐かしい声だ。
囃坂 菜乃花
ねぇねぇ、きのうのニュースみたぁ?
深谷 水面
みたよ!
あぁ、そうだ、この声は昔の菜乃花だ。
多分、小学校1年生くらいの。
囃坂 菜乃花
あの、ヨージョ幼女ユーカイ誘拐ジケン事件
おかーさんが言ってた、ゆーかいっていうのはすごぉくいけないことなんだって。
ゆーかいされた人はそのことをずぅーっとイヤだとおもいながら生きてくことになっちゃうんだって。
小学校に入学してすぐの頃だったと思う。
当時小1だった幼女を誘拐•監禁してわいせつ行為をしようとした犯罪者のニュースが流れてきたんだ。
囃坂 菜乃花
ひどいよね!
ユーカイされた子はこのあともずぅーっとイヤなおもいしなきゃいけないのに、そのユーカイをした人はそれよりもっともっとみじかい時間ケイムショ?に入ってればいいんだから。
囃坂 菜乃花
こんなのふこうへー不公平じゃん!
深谷 水面
そうだね、
菜乃花は昔から正義感が強くて、だからこそ犯罪者には人一倍憤慨して怒る。
そして、困っている人がいたら人一倍、いや百倍優しくしてあげられる。
そんな奴なんだ。
どこまでも人のことばっか考えて。
自分のことはいつも後回しで。
どんだけお人好しなんだよ、まったく。
囃坂 菜乃花
わたしね、おーきくなったらいっぱい人を守れて、人に誰よりも優しくよりそえるそんな人になりたいの!
囃坂 菜乃花
みーんな助ける、だれよりもかっこいい人に!
囃坂 菜乃花
それでねそれでね、ゆーかいとかを全部やめさせるの!
そんなことしないでみんな仲良く、楽しく、笑ってすごせたらいいよね!
ちょっとほてった顔で、鼻息荒く、目をキラキラさせてそう語る菜乃花はすごく生き生きしてて。
今思うと、全くの子供の戯言である。
でもその戯言が、夢物語が。
僕は何よりも大好きだった。

囃坂 菜乃花
ねぇねぇ!みなも!
深谷 水面
ん、なに
今度は‥中学生のときの記憶だ。
囃坂 菜乃花
みなもは、何があっても笑って生きてね!
深谷 水面
は?
なに急に‥
囃坂 菜乃花
なんでもいいから!
深谷 水面
お、おう‥
わかった。
囃坂 菜乃花
本当に?ほんとのほんと?
深谷 水面
ほんとのほんと!
囃坂 菜乃花
良かったぁ。約束だよ?
そういって、彼女は満面の笑みで笑った。

あぁ‥そうだ。
なんで忘れて居たんだろう、約束だったのに。
「みなもは、何があっても笑って生きて」。
そうだった。そうだったんだ。
生きなきゃ。
菜乃花の分まで。
僕が‥僕が。
菜乃花ができなかったことを全部やってやる。
やりたくてもやれなかったことだって、全部。
僕がそうやって生きる事で、
少しでも天国の菜乃花が笑ってくれるなら。

そのことが少しでも、菜乃花を救えなかった、
罪滅ぼしになるのなら。

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