遠くで誰かの話声が聞こえる。
なぜだろう、どこか懐かしい声だ。
あぁ、そうだ、この声は昔の菜乃花だ。
多分、小学校1年生くらいの。
小学校に入学してすぐの頃だったと思う。
当時小1だった幼女を誘拐•監禁してわいせつ行為をしようとした犯罪者のニュースが流れてきたんだ。
菜乃花は昔から正義感が強くて、だからこそ犯罪者には人一倍憤慨して怒る。
そして、困っている人がいたら人一倍、いや百倍優しくしてあげられる。
そんな奴なんだ。
どこまでも人のことばっか考えて。
自分のことはいつも後回しで。
どんだけお人好しなんだよ、まったく。
ちょっとほてった顔で、鼻息荒く、目をキラキラさせてそう語る菜乃花はすごく生き生きしてて。
今思うと、全くの子供の戯言である。
でもその戯言が、夢物語が。
僕は何よりも大好きだった。
今度は‥中学生のときの記憶だ。
そういって、彼女は満面の笑みで笑った。
あぁ‥そうだ。
なんで忘れて居たんだろう、約束だったのに。
「みなもは、何があっても笑って生きて」。
そうだった。そうだったんだ。
生きなきゃ。
菜乃花の分まで。
僕が‥僕が。
菜乃花ができなかったことを全部やってやる。
やりたくてもやれなかったことだって、全部。
僕がそうやって生きる事で、
少しでも天国の菜乃花が笑ってくれるなら。
そのことが少しでも、菜乃花を救えなかった、
罪滅ぼしになるのなら。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!