第75話

#73「幸せになってね!」
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2026/08/24 13:19 更新



あなた
ちゃんとした日本の専門店で買ったから、
後遺症は絶対残らないよ。安心してね。
狛枝 凪斗
……っ、ふ…
あなた
……もう少しで、話せるようになるから。
数十分は、体は動かせないと思うけど。


狛枝くんは苦しそうに息を吐く。
申し訳なくて辛くなって苦しくなって、
死にたくなかった。私も小さく息を吐く。

こうするしか、方法が思いつかなかった。
あのまま彼に捕まっちゃ駄目だったから。
逃げられないと、思ったから。


―――だから、もう、後戻りはできない。


あなた
ねえ、ちょっと話そっか。


彼の髪を撫でる。これで最後だろうから。

あなた
狛枝くんはさ、前世って信じる?
狛枝 凪斗
……?


狛枝くんは信じられない者を見るような目で私を見て、
浅い息を吐きながら首を傾げる。

あなた
私ね、前世のこと覚えてるんだ。


狛枝くんが意味がわからないとでも言いたげに
眉を顰め、また小さく息を吐く。

狛枝 凪斗
………は、
あなた
……もうそろそろ、声出るかな。


そう言って薄く笑うと、
彼は何度かけんけんと辛そうに咳をして、
それから掠れた声を出した。

狛枝 凪斗
………あなたの名字、さん。
あなた
うん。よかった。
パニックとかも、大丈夫そうだね。


救急車呼ぶ? そう彼に問いかけると、
彼は数秒黙ってから首を振った。

あなた
じゃあ、話続けるね。
あなた
狛枝くんは気になってたんでしょ。
私がどこで、あなたを知ったのか。
あなた
ねえ、狛枝くん。
前世って、信じる?


同じ質問をもう一度する。彼が目を見開いた。

あなた
……なんてね! 嘘だよ。信じないで。
狛枝 凪斗
………何が、


言いたいの。そう続く彼の口を見て、笑う。

あなた
……狛枝くん。
あなた
好きだよ。世界で一番、
誰よりもあなたが好き。


他の誰よりあなたの方が好きだし、
他の誰より私の方があなたを好きな自信がある。

あなた
私にとっては、あなたが、
あなただけが私の希望だった。
でも、希望じゃないあなたも好きだよ。
あなた
普通の高校生のあなたも好き。
何をしてても好き。希望でも英雄でも、
なんでもないあなたが好き。
狛枝 凪斗
何を、
あなた
あなたが好きだよ。狛枝くん。
私はあなたを、幸せにしたかった。


薄く笑う。彼の頭から手を離した。

あなた
覚えていて。狛枝くん。
あなた
この広い世界で、
いつか壊れるこの世界で、
あなた
あなたを愛する人間がいること、
あなたの幸せを願う人間がいることを。


立ち上がる。スタンガンをカバンの中に直す。

あなた
……、狛枝くん。
あなた
予備学科のこと、
あんまり毛嫌いしちゃ駄目だよ。
いつかあなたの友達になる人がいるの。
あなた
いつか世界全体があなたを、
あなたたちを許さなくなるけど、
私はそれでもあなたが好きだよ。
あなた
えっと。希望ヶ峰には、
素敵な人がいっぱいいるよ。
左右田くんとか、
あんまり怖がらせないようにね。
あなた
それで、えっと……


伝えたいこと、もっとたくさんあるのになぁ。
鼻頭がツンと痛む。視界があなたで滲んで、
浅く吐いた息は震えていた。

あなた
……これで、私はもう消えるから。
ねえ、約束してくれない?
狛枝 凪斗
ま、って。待ってよ。話が、見えない。
キミは。あなたの名字さんは、これから、
あなた
――狛枝くん。死なないで、いてくれる?


私は彼の手のひらを、最後に握る。

あなた
……ううん。嘘。忘れて、
狛枝 凪斗
守ったら、

狛枝 凪斗
守ったら。また、会える……よね?


私は、笑って首を傾げる。

あなた
……どうだろう。
狛枝 凪斗
まっ、


私は彼から手を離す。カバンを持って、
最後に彼を振り返った。

あなた
狛枝凪斗くん!

好きだったよ。

あなた
ごめんね!


彼が動けないのをいいことに、私は彼を放置して、
家の方向に走り出した。
あのまままだ数十分くらいは動けないだろう。
だから、大丈夫。間に合う。

あなた
ごめんね、


そういえば、と思い出す。本編では、
確か彼は脳の病気があった気がする。

けれどそれはなかった。彼の口からは確実にない。
それにそんな様子も感じられなかった。なら、

あなた
ごめんね……


今の、コレが。あの時の風が。彼の、
希望ヶ峰学園からのスカウトに匹敵する、
不運だったりしたのかな。

そんなことを考えてしまって、なぜか、涙が出た。





#73「幸せになってね!」

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