狛枝くんは苦しそうに息を吐く。
申し訳なくて辛くなって苦しくなって、
死にたくなかった。私も小さく息を吐く。
こうするしか、方法が思いつかなかった。
あのまま彼に捕まっちゃ駄目だったから。
逃げられないと、思ったから。
―――だから、もう、後戻りはできない。
彼の髪を撫でる。これで最後だろうから。
狛枝くんは信じられない者を見るような目で私を見て、
浅い息を吐きながら首を傾げる。
狛枝くんが意味がわからないとでも言いたげに
眉を顰め、また小さく息を吐く。
そう言って薄く笑うと、
彼は何度かけんけんと辛そうに咳をして、
それから掠れた声を出した。
救急車呼ぶ? そう彼に問いかけると、
彼は数秒黙ってから首を振った。
同じ質問をもう一度する。彼が目を見開いた。
言いたいの。そう続く彼の口を見て、笑う。
他の誰よりあなたの方が好きだし、
他の誰より私の方があなたを好きな自信がある。
薄く笑う。彼の頭から手を離した。
立ち上がる。スタンガンをカバンの中に直す。
伝えたいこと、もっとたくさんあるのになぁ。
鼻頭がツンと痛む。視界があなたで滲んで、
浅く吐いた息は震えていた。
私は彼の手のひらを、最後に握る。
私は、笑って首を傾げる。
私は彼から手を離す。カバンを持って、
最後に彼を振り返った。
好きだったよ。
彼が動けないのをいいことに、私は彼を放置して、
家の方向に走り出した。
あのまままだ数十分くらいは動けないだろう。
だから、大丈夫。間に合う。
そういえば、と思い出す。本編では、
確か彼は脳の病気があった気がする。
けれどそれはなかった。彼の口からは確実にない。
それにそんな様子も感じられなかった。なら、
今の、コレが。あの時の風が。彼の、
希望ヶ峰学園からのスカウトに匹敵する、
不運だったりしたのかな。
そんなことを考えてしまって、なぜか、涙が出た。
#73「幸せになってね!」













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。