君はもう、忘れてしまったかな
夏に、校舎横の木陰に座ったまま氷菓を口に放り込んで風を待っていた。
木陰でないと、日焼けして私の白い肌がこんがりとした茶色になってしまう。褐色肌に山羊角付きショートヘアなんて、ソシャゲでしか見たことがない。
そんなことを考えていると、君が来て、
「世の中って全部嘘だらけ。」
開口一番にそう言い放った。
何があったのかと問うと、君はこう答えた。
今日も、散々だった
と。
彼女の心中を察するには、その一言で充分だった。
こうして、学生でありながらこんな真昼間に二人で駄弁る異様な空間は、梅雨の低気圧のような重さで形成された。
そのあとも、特に中身のある話はしなかった。私が絵を描いている横で、君が私とは縁もゆかりも無いような事を喋っている。非常に贅沢な時間の使い方だが、私達、少なくとも私はそれで良かった。その時間の使い方に本当の価値があると私は思っている。
ある日、君は来なくなった。いつもと何も変わらない、日常のはずなのに、いつまで経っても来なかった。私はそのうち待ちくたびれて、そのあとの記憶は定かではない。
もう、忘れてしまったかな。
夏の木陰に座ったあの頃、遠くの丘から顔を出した雲があった事を。君は、それを掴もうとして、馬鹿みたいに空を切った手で
私は紙に雲ひとつを書いて、笑って握って見せた。
私は、子供が好きでよく遊んでいたので、絵に関してはそこそこの自信があった。
それを見ると君は、
「」
と言ってくれた。
それを聞いて、私は安心した。
私にもまだ、生きている意味があった、と。
誰かを支える事を慶びとし、生きがいとする私にはとても嬉しかった。そのあとはまた、中身のない話を延々とした。
気が済むまで、ずっと。忘れないように。色褪せないように。
そんなことを考えているとふと、君の顔、君の言葉が記憶から欠落していることに気づいた。君は笑ってる。ただ、笑ってる。それしか思い出せない。まるで、歴史に残るものが全てではない、と言われているかのように。
私は、夏になったら思い出せるようになるだろうと考え、
夏を待つことにした。
忘れないように、色褪せないように。
心に響くものが全てではないから、君との想い出を忘れないように。
だからこそ、今も見るんだよ。夏に咲いてる花に、金髪のショートヘアのよく似合う、私の「」の亡霊を。
木陰に座って、氷菓を口に放り込みながら私を待ってくれる君はもう居ない。それは分かっている。
だからこそ、言葉じゃなくて時間を。時間じゃなくて心を。
絶対に忘れないように、描く。
一つ、浅い呼吸をする。汗を拭って夏めく。
夏の、匂いがする。
もう、忘れてしまったかな。
夏の木陰に座ったまま、氷菓を口に放り込んで、風を待っている。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。