第7話

こころから
124
2018/03/28 14:10
「体への負荷が少々大きかったです。
…しかし、なんとか成功しました」
その結果を聞いた時どんなに安心したか。
一気に肩の力が抜けて思わず膝をついたほどだ。
あなた

…………っ

柊弥の手を優しく、だが強く握る。
目を覚まして。
お願いだよ-
医師
2日以内に目を覚まさなければ、人工呼吸器を外すつもりです
-人工呼吸器を外せば、柊弥は死ぬ。
-死んで欲しくない。
………………………
-真っ白な空間。
『また』、ここなのか…。
手術が終わったり、死にかけたりする度に-ここに来ている気がする。
後ろを見ると、花が咲いていた。
1輪の小さな、本当に小さな花。
-ミニヒマワリ。
だけど元気が無さそうだ。
柊弥はそっとミニヒマワリのもとへ歩み寄る。
そして、そっとそれに触れようとした時-
あっ…………
ミニヒマワリは音もなく静かに消えた。
虚無感が柊弥を襲った。
あなた…………あなた…………あなた……あなた…
あなたは何処?
こんな不思議な空間にいないことはわかっていても、無意識のうちにその名を呼び、恋しくなる。
何処………何処にいるんだ…
しばらく歩いていると、花畑と川が現れた。
-まだ、ここを渡るわけにはいかない。
もう一度、もう一度だけあなたに会いたい。
だが-
嘘…だ………なんで足が勝手に………………やめろ、やめろよ…!
僕はまだ死なないだろ!
あなたを残して逝かないだろ!
そう……決めた、のに………っ!
不可抗力。
どうしようもない。
勝手に足が川に浸かる。
ちゃぷ、じゃぶ……。
一歩、また一歩と歩みは止まらない。
あなた

………!?
み、脈が……遅くなって-

その頃ずっと柊弥の手首を握っていたあなたが脈が遅くなったことに気付く。
ここを離れてしまったら、離れてしまっている内に柊弥は死んでしまうかもしれない。
…それなら、せめて最期の時は一緒に居る。
でも-
あなた

死なないで……っ

ピク、と僅かに柊弥の手が動いた。
あなた

………柊弥

………………………あなた
掠れた声で柊弥は名前を呼んだ。
かき消されそうなその声は、しっかりあなたに届いていた。
あなた

柊弥………!

………………好きだよ、あなた。
……………ありが……と……………
その瞬間、あなたは1番聞きたくない電子音を耳にした。
柊弥の命の終わりの音。
-彼は、逝ってしまった。
その瞬間、あなたは堪えていた涙を存分に流した。
あなた

あぁ……ああぁぁぁっ……………………柊弥あぁぁっ!

なんで。どうして。
手術は成功したって聞いたのに。
なんで。どうして。
どうして。どうして。ねぇ、どうして。
どうしてこんなに人は呆気なく死んでしまうの。
あなた

あ……………

また枕の下に…手紙。
あなた

もっと、この名前を呼べばよかったと今になって後悔している僕がいる
あなた、あなた、あなた
僕の好きな人。
たったひとりの、大切な人。
明るい笑顔は変わらないままだった君は、今どんな気持ちで読んでる?
僕はもう死んだかもしれないけど、君は今僕の隣にいるんじゃないかな
鬼ごっこでも、何でも負けたら悔し泣きする泣き虫なあなただから、今までで1番泣いてるんじゃない?平気?
僕は……寂しいな
もっと長く生きたかったし、もっとあなたを好きでいたかった
あなた、君は僕のことどう思っていたかはもう僕にはわからないかもしれないけれど、僕はきっと世界で誰よりも君を好きでいた人間だったと胸を張って言えるよ
あなた、死ぬ前にまた会えて良かった
僕の天使。僕の最愛の人。
大好きだよ、あなた
どうか僕の分まで生きて
どうか僕の分まで世界を見て
話疲れるくらいのお土産話を持って、僕のところまで来て
ずっと待ってるから
ずっと見守ってるから
あなたはひとりじゃないから
-最期まで、【最愛の人】を想い続けた。
その【最愛の人】は、私だった。
あなたは気付く。
この感情が何なのかを。
あなた

柊弥………私、私も-

この感情は、
あなた

大好きだよ………大好きだったよ…

-即ち【好意】であると。














……ごめんねあなた
その頃柊弥は花畑の中に居た。
引き返そうとしたが、さっきよりも何故か流れが強くて進めなかった。
-引き返すな。
そう川が告げているように感じた。
だが-
あなた

大好きだよ、大好きだったよ……

………!
あなた………
あなたの大好きだけはちゃんと聞こえた。
-今はそれでいいと思った。
何十年かしたらあなたも来てくれる。
その時に、どんなことがあったかをたっぷり聞けばいい。
今はその時を待つだけだ。
あなた

………忘れちゃってて、ごめんね…柊弥

記憶が、全て蘇った。
事故のことも。
小学校の頃のことも。
たしかに、柊弥は居た。生きていた。
それを思い出せて良かった。

-今を生きよう。

柊弥が待ってくれている。
自分の人生を、自分の在り方を、存分に発揮して存分に楽しもうじゃないか。
あなた
あなた

柊弥

2人は別々の場所で同じことを言った。




-【心から愛している】と。






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