第3話

3 信仰はただあなたの為に
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2022/07/05 13:33 更新
私はいつだって、日常を奪われる立場にあるのかもしれない。そう思えて止まなかった。それはつい3日前のこと。夕食の支度をしている時だった。今日はリンクの好きなかぼちゃのシチューにしてみようかな、ヤギのチーズのラクレットも、リンク喜ぶかなぁなんてのんきに野菜を切っていたら、突然扉を激しく叩かれた。リンクと同じ剣士の人だ。額に汗をかき、とても焦った様子に心がざわついた。握りしめられシワになった1枚の紙。学のない私は何が書かれているかわからなかったが、いいことが書かれているわけではないことはわかった。


「リンクが、幽閉された…!」


意味が、わからなかった。あまりにも突然で、唐突で、頭の使う物事に疎い私には到底理解ができなかった。貴族階級の人間に幽閉されたとか。政治に対して全く知識も何もない私だったから、リンクが何を言ったのかわからない。ただただ、どうして私と離れるようないらないことを、偉い人の前で言っちゃうの。それだけだった。偉い人が何考えてるか知らないけど、偉い人は怒らせちゃダメだ。夕飯の支度もそのままに、リンクの同胞に連れられ、リンクのところに向かうも、門番から面会はおろか文通も拒絶、と言われ、ひどく憤慨した。何故、リンクが。きっと嘘、リンクは私と違って賢いから、ちゃんと訳を話して、帰ってきてくれる。だけれど、帰らなかった。待てども待てども、ただいまの言葉を聞くことはなかったし、あの金髪と緑衣を見ることもなかった。ようやく、時間が経って飲み込めた。リンクは、帰ってこないのだと。それから毎日、私は生きた心地がしなかった。死んだほうがマシとさえ思った。また、大切な家族を取られてしまった。また、1人になってしまった。きっと帰ってくると、いつでも帰ってこれるようにと多めに作っていた食事は、食べる量より無駄にする量の方が多かった。具合が悪い、食欲がない。吐き気がする。微熱っぽさが、ずっと続いている。頭痛も酷い。私は、リンクがいないとのんなにもダメになってしまう。


「おめでたですね。」

「…はぁ…」


いくら体を休めても、体調は戻らなかった。リンクと共に騎士を務める戦友に医者をすすめられ、ようやっと診てもらったら、なんと私の中に命が宿っていたらしい。リンクと体を交えて以来行為はしていない。そういえば、生理いつからきてないっけか。リンクと結婚するまで、色んな男に無遠慮に抱かれても毎月必ず生理は来ていたのに、私は不妊ではなかったのか。そうか、私の体に、リンクの子が、いるんだ。愛しさに、自分のお腹に手を当てた。


「リンクのために、頑張らないとな。」


肩を叩かれる。そうだ、リンクは今、私のそばにいない。戻ってくるかもわからないし、生きて出てくるかもわからない。そんな中、私は子を授かってしまった。育てられない、と思った。リンクがいない今、私が1人で身を立てることもできない。不安が押し寄せ、目に涙が浮かぶ。どうしよう、私はこの子を育てることができない。


「…リンク、きっと喜ぶよ。あーあ、リンクに知らせられたらなぁ。」


母ちゃんがそんな弱気じゃだめだぞ、母親なんだから、泣いてらんないだろ。

ハッとした。そうだ、自分ばかりじゃない。この子を育てることは、この子にも関わる。父親であるリンクだって、当然生きていれば切れぬ関係だ。育てられない?育てるしかない。だけれど、私1人の力では、この子は育てられない。育てるには、リンクには出てきてもらわなければ。愛する夫に無事に出てきてほしい、その思いよりも、何そこで腐っている、父親なのだから早く出て稼げ。そんな思いの方が強かった。私はもう、ただの女ではない。母なのだ。


「…絶対に産んで育てます。リンクに、この子の顔を見せてあげるの。」


医者も、リンクの同胞も、自分のことのように喜んだ。とはいえ、身籠った、仮に元々最下層の人間だった私が貴族階級の下に単身乗り込んでも切り捨てられて終わるだけだ。同じ思いを抱く同士を募ってデモを起こしたところで弾圧されて終わり、ともすれば、私にできることなど神頼みくらいしかなかった。幸い、このハイリアの地は神が身近に存在している。きっと、聞き入れられやすいはずだ。人間と神の距離は近い。ごめんねリンク、こんなことしかできなくて。でも、あなたが出てきた時、私も子どももお墓の中だったら、きっとあなたは悲しむだろうから。私も私なりに頑張るよ、できることは全てやる。だから、あなたも頑張って。生きて出てきて、3人で暮らそう。女神様、こんな非力な私だから、女神様の力を借りないと、あの人を救えない。せめて、この願いだけでも、貴女の耳に届きますように。時の神殿、女神像のそびえ立つ広場、リンクが綺麗だと言ってくれた髪を一房切り落とし、風に流して祈りを込めた。

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