北斗side
コーヒー豆を挽く音が、店内に一定のリズムで響く。
この時間帯は、いつも落ち着いている。
……はずだった。
さっきから、妙に気になる。
カウンターの向こう、いつもの席に座るあなたの下の名前の様子。
静かに過ごしている。
いつもと、変わらない。
それなのに、
目を伏せる時間が、少しだけ長い。
声をかける理由は、特にない。
だから、何も言わない。
——言わないけど、分かる。
この店で過ごす時間を、
あなたの下の名前が“特別”として扱い始めていること。
それは、俺も同じだった。
店員と客。
その関係があるから、
越えない線も、守ってきた。
でも最近、その線の向こう側に
「未来」が見える。
この席が、
一時的なものじゃなくて、
帰ってくる場所だったらいい。
そう思う自分に、
驚きはなかった。
コーヒーを置くと、
あなたの下の名前は小さく会釈をする。
その一言が、胸に残る。
……もし、この店を離れる日が来たら。
それでも、
同じ時間を過ごしたいと思える相手。
答えは、もう出ている。
ただ、急がない。
この人には、
静かな歩幅が似合うから。
——“変わらない”ことを守りながら、
少しずつ、先へ。
それが、俺の選び方だった。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。