ㅤ彼もまた、グリムの兄弟が描く狂気的で官能的な童話に心身を溺れさせる毎日だった。
ㅤ容姿の良い異性を捕まえては躾、捨ててはまた捕まえて。何度同じ事を繰り返しても彼の心は満たされなかった。
ㅤ彼が探していたのは、紛れもないラプンツェルのようなお姫様。淡くも美しく、哀しい彼女。
ㅤだが、彼には一つ悩みがあった。それは、物語の中にも描かれている人間の心の変化。永遠でなければ意味がない。物語も美しさも。
ㅤだから彼は、“彼女”に出会った時、決心した。自分への愛情を失う前に、永遠にすると。
ㅤ────俺のお姫様、可愛いでしょ?
ㅤハゲタカのようにズル賢い“弟”に、彼は自慢げにそう言った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!