MENさんが少し嬉しそうに呼んでいる。
何かいいことがあったのかもしれない。
ドズルさん(と時々ぼんさん)は、大抵1日中外にいる。
ドズル社が表でも裏でも有名になってきたからだ。
そのせいで二人は主にアンダーグランドで奔走している。
その「お掃除」ではお金が入らない為、ぼんさんはたまに文句をたれているが。
やはり考えることは同じ様で、二人共ニヤッと笑う。
実は他の四人が忙しすぎて、専ら夕食を作るのは僕たち二人の役目なのだ。
だから、四人の中で夕食までに帰れない人がいれば冷めても美味しいものが食卓に並ぶ。
逆に全員揃うとなれば豪華な内容になるのが常だった。
生憎僕はいいメニューが思い浮かばない。
いつもいいアイディアを出してくれるのはMENさんだ。
ビーフシチューはドズル社メンバー全員が好きなものだ。
あっという間に脳がビーフシチューの気分に切り替わる。
流石MENさんだ。
僕も貢献したかったので、サイドメニューを提案した。
微力にも程があるとは思ったが。
ただし、結局いいことを言うのはMENさんだ。
いいワインとか楽しみすぎる。
因みにアンダーグランドには年齢制限なんて存在しないので、おんおらの二人も好んで飲んでいる。
僕はきちんと計量すれば必ず成功する料理は得意だ。
逆に適量とかひとつまみとかは全く解らない。
だからバゲットは得意な部類に入るだろう。多分。
MENさんは返事をしながら外に出ていった。
文字通り爆速だ。流石自称有言実行の男。
買い物はMENさんに頼んでしまったが、せめてバゲットは僕が完璧に焼かなくては。
ガチャリとドアを開け、MENさんが満足げに帰ってきた。
声色から何となく結果は判るが敢えて訊いてみる。
やはりいい買い物が出来たらしい。
得意そうに掲げたのは、高級白ワインだった。
しかも美味しいと有名な、評価の高い銘柄。
高級白ワインを半額に、という所にデジャヴを感じた。
確か知り合いの酒屋に、そんな人物がいた。
店主の泉さんは、50代くらいのお爺さんで、人柄がいい。
よくまけてくれるし、年齢確認なんて不粋な事をしない。
年齢確認に関しては「裏社会だから」かもしれないが。
MENさんも少し心配らしい。
そう、あの人は見た目がガタイの良い優しい爺なのだ。
だから、初見だとここに似つかわしくないと思ってしまう。
その場に居合わせれば納得の怖さなのだ。
その眼力といったら、どんな893も蛇に睨まれた蛙の様になる程。
僕には判らなかったが、MENさんは見抜いたらしい。
それは流石に危ないだろう。
MENさんは観察眼が鋭いのもあるが、念には念を入れないと。
いい酒屋が潰れるのはこっちだって嫌だ。
一度、会話が途切れる。
二人共、真剣に具材を切っているからだ。
MENさんも丁寧に玉ねぎを刻んでいて、涙を堪えている。
静かなのもそれが理由かもしれない。
相変わらず玉ねぎを睨みながら軽口を叩く。
目線の真剣さと声色が全く違って面白い。
おんりーさんはケーキをよく買ってきてくれる。
だから、本人を怒らせた人は許して貰えるまでケーキの類を食べることが出来ない。
おらふくんは恋人故、よく怒らせているが。
あの二人はカプレーゼが大好物だ。
ワインを用意すると大抵帰りがけに材料を買ってくるくらい。
バジルは材料に含まれない事が多いが。
因みにMENさんは謎の拘りでカプレーゼを正式名称で呼んでいる。
僕とドズルさんはバジルが好きなので、僕はバジルをこっそり常備している。
MENさんが作るとバジルは抜かれてしまうが、僕が作るときはバジルをちゃんと(?)入れる。
そして僕は今日バジル入りのカプレーゼが食べたい。
MENさんが作るポテトサラダは絶品で、ドズル社メンバー全員の好物だ。
だからそれ自体は嬉しい。……のだが。
明らかに作る料理の難易度が違う。
しかも歳下のMENさんに多分気を遣われてしまった。
これは素直に頼もう。
ふと思い出して鍋を覗くが変化が判らない。
ビーフシチューはやはり料理にわかには難しいと思う。
流石の知識だ。
目測で煮込み時間を計算だなんて僕には出来そうにない。
作るポテトサラダは下ごしらえが必要なんだった。
すっかり忘れて頼ってしまっていた事に気づき慌てる。
不安は残るが、あと少し余計な事をしなければ完成する。
メインメニューだけに、失敗しないといいが。
因みに私は地震の被害受けてません!無事です!














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!