第2話

幼かった僕ら
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2024/10/11 07:31 更新



『お前がイフリート?』





初めて彼奴と出会ったのは、僕がまだ子供だった頃。彼奴は僕よりも少しだけ先にあの場所に居て…僕よりも少し背が高かった






「誰お前」



『いや…無愛想すぎんでしょ』






名を聞くならば、自分から名乗れ。僕がそう言えば彼奴は少し驚いた後、ニッと笑顔を浮かべ自分の拳を僕の前に突き出した






『俺はあなた。今日からお前の兄ちゃんな』



「……は?」



『いや、は?じゃなくて……今日から俺がお前の兄ちゃん。いやぁ、俺ずっと弟が欲しかったんだよね』



「はぁ?」







初対面だというのにふざけた事をいけしゃあしゃあと吐かすあなたに対して、僕はただひたすら苛立ちを募らせる。身振り手振りでなにか言ってはいるが全く意味が分からない。対面早々今日から兄だ?僕が弟だ?お前の??歳なんて変わらないのに?背だって数cmか数mmかしか違わないというのに?





『って事で、今日から仲良くしような』



「……が…だ」



『ん?…』



「なにが…っ、仲良くだ!!」





差し伸べられた手を叩き落し、目を瞬かせるあなたの胸ぐらを掴む。おぉ?と短く驚嘆した声を漏らしてはいたが、その瞳は何処か愉しげに歪んでいた







「黙って聞いていれば兄だ弟だと意味が分かんない事ばっか言いやがって!…僕とお前なんて歳も背もたいして変わんないだろ!」



『やだー、普通初対面の相手の胸ぐら掴む?』



「おまっ……お前が最初にふっかけて来たんだろうが!」



『えぇ〜、ヤダなー、人聞きの悪い』










僕の言葉をちゃんと聞いているのかいないのか、あなたはヘラっと笑顔を浮かべ両手を胸の前で軽く振る。その態度がやたらとムカついて、腹が立って、怒り任せにその身体を地面に倒してやろうと体重を掛けた僕だったが……次の瞬間には地面に尻もちをついていた






「……えっ」






何が起きたのか理解出来ず間の抜けた声が溢れる。状況を整理しようとした矢先、頭の上から笑い声が聞こえ僕はバッと顔を上げた





『あはははっ、良いねー、その顔。……絵に書いたような間抜け面』


「…お前っ…」


『おっと、ごめんごめん。そう睨むなよ………言っただろ?仲良くしようってさ』





此方を見下ろし笑っていたあなたは僕の肩にポンと手を置き耳元で囁いた。背筋がゾワッとなって振り払うけれどあなたはそんな僕の手を掴みグッと背の方に捻りあげる。普通なら捻らない方向に腕を捻られて痛みに声をあげそうになるが、下唇を噛んでそれを耐えた




『お!?すごいじゃん!いきなりやられて声も漏らさないなんてさ』


「…っふ…」


『でもこれは?これならどう?』


「っぐ…ぅ」



言うと同時に更に強く腕を捻りあげられ、噛み締めた隙間かはくぐもった声が漏れ出す。これ以上捻られたら肩が外れるんじゃないか…と最悪な考えが頭を過ぎったがそれと同時に拘束が解かれ、体に自由が戻って来た




『なんてね。おーしまい、これ以上やったらお前の骨折っちゃうし』


「……くそやろう…」



嗚呼ほらな、やっぱり。あれ以上やられてたら肩が外れるどころではなかったらしい。忌々しげに睨みつけてやるが、この男はそんな事は気にも留めていない様子でヘラヘラと笑っている





『さっきも今も…お前が俺にしてやろうって事が見え見えなんだよ』



「…何のこと」



『一丁前にすっとぼけちゃって』



「だから歳なんて変わんないでしょ、上から目線やめろ」



『あははっ、こわ〜い』





これっぽっちも怖がってなんかいないくせに…あなたはヘラヘラと笑いながら芝生に落ちていた小石を拾い上げると其れを手の中で遊ばせ始める。上に投げ、落ちてきた所を拾い…投げる真似をしては止め、また投げる真似をしては止め……かと思えばその小石を僕の方へ放ってくる。反射的にキャッチした石に視線を落とせばあなたは僕の名を呼んだ





「…」


『さっきの話に戻るけど……視線と表情から、魂胆が見え見えだよ。やるならもっと上手く隠さないと相手にすぐバレる』







こっちに投げ返せ、というジェスチャーに従い小石を投げ返せばあなたはそれをキャッチし、再び僕に投げてきた







「…どうやって僕の事地面に倒したの」



『俺は倒してないよ。俺はただお前が足を踏み込んだと同時に身体を流し、そのままお前が掛けてくる体重を利用した。お前が自分から倒れただけだ』



「ふぅん……理屈は分かったけど、それってそう上手くやれるもの?」



『そんな訳ないじゃん。タイミングが外れれば俺だって地面に倒れてたよ』



「…どうしてタイミング分かったの?」



『んー?……そりゃあ、お前の目、かな。すげぇ怒ってるなぁと思ったら急に怒りが落ち着いたから……なんかしてくるなと思ってさ。そしたら見事大当たり!ってわけ』











すげぇだろ、と歯を見せて笑うその顔に先程迄の軽薄さは無い。屈託のない笑顔に毒気を抜かれてしまう





「…すごいね」



『だろ?…まぁ……お前ならすぐ出来そうだけどな』



「そうかな」



『そうだよ。だってお前、石投げてんのに全然怯まねぇし毎回キャッチしてる。それほど良く視てるってことだろ』



「……」




……先程から投げ合っているこの小石は固く重く…少しでも手元を狂わせれば大怪我になる。確かに怪我をしたくないから見てはいるけれど…キャッチ出来ているのは、あなたが確実に僕の手元に収まるように緩く放ってくれているからだ








『どうした?』



「……いや、なんでもない」



『なんでもないって顔じゃねぇだろそれ』



「なんでもないってば」



『おい待て、どこ行くんだお前……ちょっ……待って!何!ほんとどこいくの!』










小石を持ったまま走り出せば、背後から慌てた声が聞こえてくる。振り返ればあなたが後ろを追いかけて来ていて、思わず笑みが零れた





「教えてやんない!」



『はぁあ!?このッ…………逃げ足速ぇなおい!!』



「知りたかったら捕まえてみろ!」



『上等だっ…!』





自分の呼吸とあなたの呼吸……芝生を踏みしめる音と共に草の青臭さが鼻に届く。暫くして僕の背をあなたの手が掴み、2人揃ってその場にバランスを崩し倒れ込む。痛いと鼻を抑えるあなたを見て笑い声をあげれば、あなたもまた僕を見て笑い声をあげる。……たったさっき会ったばかりだけど…この数十分でよく分かった……あなたとは仲良くやっていけそうだ




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