毎週木曜日の放課後に俺は人やゴースト、
ついでに絵画たちもいない、静かな廊下を歩いていく。
今日は本を持っているが違う日はアイマスクやパズル、
ある時はどう頭を捻ってもわからなかった課題を片手に持ち行ったことだってある。
っとそろそろかな?廊下の3番めの曲がり角に印をつけてから曲がる。曲がった先には物置や使われていない教室があり、放課後の暖かい日差しが窓から差し込んでいた。今日はここかな?
いい感じに日差しが当たる場所を見つけたのでそこに入る。机なんぞ置かれていないので床に座り、壁に背を預けて読みかけの本を開く。確かここだったはず。パラパラと本をめぐりやっと呼んでいたページを見つける。栞を挟んだらいいのだろうが無くしたら嫌だという理由でいつもこうだ。
本を読んで30分くらいだろうか急に教室の扉が開き、
見慣れた頭がこちらへ向かってくる。
「お疲れ様。ジェイドくん」
「……………………抱っこ」
「今日は抱っこね、ほらおいで」
自分の隣の床を叩くと、シュバっと音が聞こえてくるような速度で座ってくる。
「じゃあ失礼しまーす」
ジェイドくんの膝の上に座るとすぐにお腹らへんに腕が巻き付いてくる、のでそのまま本を開く。
こんな感じで俺はいつも毎週木曜日の放課後に
ジェイドくんを甘やかして…いる?のかな
きっかけがすごく単純だったからこそ、こうやって長続きしているのかもしれない。
「………__さん」
「んーー?」
「…いつもありがとうございます」
「お互いにwin winだからやってるだけだから
お礼を言われる筋合い的なのはないよ?」
「?__さんはなにも得をしていないような気がするのですが…」
「あーージェイドくん知らないのか」
「何をです?」
「いや…隠してるわけじゃないし、気になるなら調べてみたら?」
「そうします(^^)」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
次の週
「__さんはいつも少し冷たい方なんですね」
ジェイドくんはいつもの教室に来るなり
膝枕を要求したあと、俺のいつものクラスでの態度らしき事をはっきりと口に出す
「…それは物理的にかな?」
「まさか、言動がです。」
「…本当に調べたんだね」
「はい噂から好きなものまでしっかりと」
俺にも噂があるのか…
自分でも把握していないから少し気になる
あと言い忘れたが俺がジェイドくんの膝に頭を乗せている状態だ。
「物好きだねぇー」
「どちらが素ですか?」
「こっち」
素直に答えるとジェイドくんは顎に指を当てた。
何か考えているようだ
「素の方が楽そうですが」
「んー…でもあっちの方が面倒くさくない」
「…人付き合いが、ですか?」
…よく分かっているじゃないか
「アタリ、本当にちゃんと調べたんだね」
「もちろん、あなたのミドルスクールでの事件も」
「そこまでかぁ」
あの事件…というより事故での俺は完全に
巻き込まれた方なんだけどな。
「少し驚きまし「俺がそんな事するなんて?」
被せるようにいえば、少し間を置いて頷かれる。
「信じないかもだけど、俺は被害者の方だよ」
「でしょうね、調べているうちにおかしいところがいくつか出てきました」
「お菓子?」
いつものまったりした雰囲気がどこかへいってしまったため少し茶化すように冗談をいうと少し睨まれてしまった。
「災難でしたね、声と雰囲気が似ているだけで疑われるとは」
「まぁね色んな人にイヤな顔されたし。でも、そのおかげで俺は今がある」
「人をすぐ信じちゃダメだって分かった、
人に疑われるような事をしないようになった、
物事にすぐ首を突っ込まないようになった、
いつでも笑顔でいる方がいいって分かった」
「…僕はいいんですか?」
「ジェイドくんは何かあったらすぐに俺のこと
切り捨てるでしょ?だから大丈夫だよ。」
あの事件は俺の友人関係が広すぎたからこそ起こった。身代わりだなんて最低なことが、だからもういいんだ。自分の身は自分で守れるようになったしね。
「そうですか…」
「フフッ、ほら帰ろ。もう夕方だから」
ジェイドくんのに膝枕してもらっていた体をゆっくりと起こして立ち上がる。
ジェイドくんは俺の頭を撫でていた手をそのまま俺に差し出してくる。
「僕があなたと関わりたくてここにきていたと言ったらどうします?」
「…どう関わりたかったかによるんだけど」
「では恋愛的な意味で」
「何でそれにしたの?んー恋愛的な意味でねー?」
なかなか答えが出なくてつい考え込んでしまう、
とジェイドくんはスラックスについた埃を払いながら
俺に答えを求める。
「どうですか?」
「…たぶん俺はもうここに来ないとしか」
いつのまにか手が顎に添えられていたらしくジェイドくんがよくやるポーズみたいになっていた。
仕草が移るほどそばにいたわけでもないのに…
何でだろ?考え込んでいる俺にそっとジェイドくんが口元に人差し指を立てる。内緒?何がだろう?
「もう少しだけ内緒にしておいた方が
良さそうですね。」
「何が?ここにきてた理由?」
「フフッ、内緒です」
その長い足で教室の扉へ向かいながら振り向き、
こちらへ微笑む人魚はとても綺麗だった。
窓からオレンジ色の柔らかい日差しが差し込んでいて、
ふわふわと淡く光っているように見える。
「…そっか、うん分かった」
自分の心のどこかにいつのまにか生えてしまっていた小さな恋の芽にその恋は叶うことはないのだからと、言い聞かせながら返事をした。
主くん
中学生の時、友達に頼まれた事が原因で
警察沙汰になった。
ただ一言身代わりになって欲しいと言われたから頷いただけ。
ただ一言担任の先生に「アレ、俺がやったんです」と言っただけ、その後のいろいろで人を信用できなくなった。だって怖いんだもん。
話しかけられれば話すし、休んだ時はノートも見せてくれる、でも絶対に頼まれごとは引き受けない。
仕草は無意識、抱っこや膝枕のおねだりはちゃんと聞かないと締められたから。
ジェイドくん
最後の振り返るやつとか、ほとんど確信犯
だって好きなんだもん。落としたい人魚。
調べたら?とか言われる前に調べてるし
主くんに頼み事したやつは三枚に捌いた。
他の人の頼み事は断るのに
自分のは断らない(断れない)ことにご満悦。
仕草が移ってるのに気づいた時心の中で叫んでた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。