意外と気持ちいいかも、なんて思った。
トイレの便器に肘をついて、指を噛まないように口の中に入れた。喉が締まる感覚、フェラする人ってこんな気持ちなのかな。
「ゔ、あは、咥えたくねぇ〜」
自分が女に生まれたことに後悔しながら上を見た。柔らかい光がスポットライトみたいで、情けないと、ふと感じた。こんな役者がいてたまるか。
食べたらトイレに行く、一つの習慣だった。
それはスマホを見るためでもあるし、食べたものを吐き出すためでもあった。トイレの端に置いてある紙袋を見て、ため息をついた。女ってつらい、嫌な事ばっかりだ。
同年代の男性が嫌いだった。胸と尻にしか興味がないように見えた。人を貶めて笑う生物だと思った。心の底から分かり合えなかった。会話をしても、嫌悪感しか生まれなかった。優しい人だっている、親切にしてくれる人もいる。分かってる。でも、それをしてくれるのは同年代の人間ではなかった。
同年代が気も使えないバカとしか思えなかった。敬語も使えない、小学生気分の生き物。呆れて、疲れて、学校に行けなくなった。1年経って、やっと精神科に行った。障害だった、何とは言われなかったが。
「子分〜?どこにいるんだゾ?」
吐くだけ吐いて、トイレから出た。グリムは私の癖を知っている。鼻をひくつかせて、顔を顰めるグリムは私に小言をこぼした。この時だけは立場が反対になる。ヘラヘラと笑いながら謝ると呆れた顔で見られた。だって、しょうがないじゃん。
9月の1日、異世界の男子校に手違いで入学した私に、学園長とかいうクソカラスは男のフリをしろと言った。ふざけている。声を無理して低く出した。男らしい立ち振る舞いで、自慢の髪も切った。胸は元々そんなになかったからサラシを巻いて潰した。
住居と生活費をもらえているだけまだマシ、ここに保護してもらわないと世界の常識も知らない私はすぐに騙されて風俗店行き、それか実験に使われるか。
制服に着替えて、生理的に出てきた涙を拭いた。
カバンを持って、グリムに声をかける。今日は帰りにミステリーショップ寄らなきゃ。生理用品がもう無くなりかけてる。閉店ギリギリに行けば人もいないだろうし、バイト終わりだな。
「グリム、今日は」
「バイトか?」
「うん。賄い持って帰るけど、どうする?」
「夜食にするんだゾ!」
「食べ盛り、いや、食いしん坊か。」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。