第5話

監督生の悩み
41
2023/12/18 22:46
「…ハァ、綺麗なお姉さんにヨシヨシされたい。」

朝から忘れ物を取りに行ったり、マブ達がやらかしたり、嫌な先輩と出会ったり、喧嘩を売られたりしていつの間にかライフポイントが0になっていたらしく溜息と一緒に出た言葉に頭が痛くなった。

ヨシヨシされたいのは本当だ、ただただ頭を撫でてほしい。
急に異世界に飛ばされて頼もしい友達ができたと思いきや面倒事ばかり持って来たり魔法が使えないのを馬鹿にされたり基礎の基の字も知らないのにテストを受けたりと常識が通じない世界でそれなりに頑張って来たのだ。
最初は魔法なんて本の中の世界だったし、ワクワクして仕方がなかったけど魔法で攻撃されてからはいつアレが自分に向けられるのか不安で仕方がない。
オーバーブロットも魔法が使えない身からしたらどれだけ情けなくても逃げ出したいのに足は固まり、身体が勝手に指示を出して逃げ出せなくなる。

それに最近学園長から貰える生活費が少なくなってきてモストロラウンジで働かないとグリムのご飯が買えない。サムさんからはいくつものオマケを貰っている。
オンボロ寮も修繕工事しないとだし、石鹸じゃなくてシャンプーを使いたい。服もマブ達に貰うのが申し訳なくなってきた。

「かえりたい…」

図書室の机に体を預けながらボソリと呟いたら最後、次々と弱音が出てくる。
家族に会いたい、友達に会いたい、常識が通じる場所に行きたい、動きたくない、休みが欲しい、美味しいものが食べたい、甘やかされたい、低反発のベットで寝たい、ゲームしたい。
マイナスな考えが頭を支配してくる。

働きたくない、
クレーマーが魔力がないからって馬鹿にしてくるし、頭を叩かれても相手が悪くても謝らなきゃいけない。それに…グリムのためにも働かなければ。

勉強したくない、
元の世界で一切使わない数式を覚えて何になるんだ、なんで知らない世界の歴史を覚えるんだ。
…知らないからこそ覚えなきゃ、役に立たなくてもね。

生きていたくない、
知らないよ。そんな事。

疲れたと動きたくない、その他の感情が背中にのしかかってくる。なんで俺なんだよ…意味分かんない。

…じゃあもしここに来たのが女の子だったら?
あのカラスのことだ、男装して通わせるに決まってる。女の子だから俺よりもっと大変だろうな。
服とか、月経とか、甘いものだって食べたいだろうし女友達と遊びたいと感じるだろう。
子供とか女性はきっとこんな生活に耐えられなくて、俺より辛い目に遭うだろうな。

ああ、ここに来たのが俺でよかった。
男子高校生なら多少の事は耐えられるし命よりも大切な何かがまだ何もないからもし帰れなくなってもほんの少し辛いだけだ。だから、まだ大丈夫。

目を開けて時間を確認するとバイトに向かうには丁度いい時間だった。俺は身体を起こして席から立った。

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