独りで山に来ていた私は、山の奥にある大穴を目指して四六時中走り回っていた。
そして夕方頃、やっと大穴を見つけた私は達成感と共にのしかかってきた疲労に襲われ
意識は途絶える——————
……
…………
………………
闇の奥から6人程度の誰かに一人一人名前を呼ばれた気がして、勢いよく目を開く。
視界が黒と黄色に染まる。ピントが合わない。
そのまま仰向けになり、上半身だけ地面と垂直になるように持ち上げた。目を擦って視界をはっきりさせてから周囲を確認する。
遥か頭上には橙色の空を覗かせた大きな穴が、私の体の地面の間には黄色い花が絨毯のように敷き詰められている。
そして冷たい風が吹いてくる先には進めそうな先の暗い道があるのが確認できた。
状況を整理する為、取り敢えず立ち上がり、部屋を軽く探索しながら曖昧な記憶を遡る。
頭上には大きく開いた穴あった。そこからは橙色の斜陽が差し込んでいて、穴の上空を一羽の鳥が影を落としながら横切っていく。
私は確信した、穴の底に落ちたのだと。
そもそもなんで私は一人で山に登ろうとしたんだ??
こうなってしまえば仕方がない。すこし痛む足を無理やり動かして暗い道を暫く進むと、荘厳で大きな門があった。
ケツイを固め、入り口の奥の闇へ身を投じた。
……
…………
門をくぐり終えると辺りの暗い空間に出る。その中でポツンと明るく照らされた所があった。
そこには一輪の黄色い花が生えていた。真ん中には笑った顔がついている。
身構えて歩み寄ると、その花は私に話しかけてきた。
身構えていたので驚きはしなかったけれど、発せられる声は思った以上に明るく活発だった。戸惑う私を気にも止めず、可愛らしい声でフラウィは話を続ける。
小さく頷いて肯定する。
不思議と笑った顔には温度が無いように見えた。
何も言っていないのに勝手に始められてしまった。無理やりってやつだね。
胸を穿たれる様な感覚に襲われ反射的に胸元を見ると赤いハートが浮かんでいた。
私の視界の端には、黄色いバーが表示されている。右隣には20/20、左隣にはHPと書かれている。
胸元の紅いハートをつつきながら
「*これは……?」と訊いてみた。
するとフラウィはウインクした。
ひとつの小さな星が出てきてすぐに消える。
次は5個の小さな粒が出てきて、フラウィの頭上でクルクル回った。
フラウィが話し始めた瞬間、「なかよしカプセル」は一斉に私の方へ近づいてくる。
私は疑いもせず「なかよしカプセル」へ近づき、手を差し伸べる。
カプセルが勢いよく向かってきて、そこかしこを強く打たれた。「なかよし」の「な」の字もない。なんなら殺意の方が合ってるのでは??花ってもっとふんわりしたイメージなんだけど…。
体力は20/01で、もしもう1発食らったら確実にさようならである。不安と焦りで脂汗が滲む。
フラウィは可愛さの欠片も無いドスの効いた声で冷たく突き放した。
さっき私に当たるとダメージを与えた白い粒が、私のタマシイを中心にして輪状に並び、逃げ場がなくなる。どうにか生きながらえようと踠くが何故か体は動かなかった。
フラウィの言葉を合図にして白い粒の輪がゆっくり小さくなってゆく。
彼は楽しそうに声を上げて嘲笑する。
不運だ。理不尽だ。よりによって初めて会うヤツがコイツだなんて。
私は怖くなって目を瞑った。
……
…………
……が、想像していた筈の痛みは一向に襲ってこない。
周囲を確認しようと目を開くと、フラウィが火の玉で飛ばされて場外へ消えていくのが目に入った。
体力がマンタンになる。火の玉が飛んできた方向には紫色の服を着た羊のような姿の女の人が立っていた。どこからか物寂しい音楽が流れ始める。
正義のヒーローが遅れてやって来るのはどこにいても共通らしい。
「*情け無いわね……
罪も無い子供を虐めるなんて……」
と正義のヒーローは優しい声音でそう言った。
そう言うとトリエルは私と同じ歩く速さで、道の前を歩き出す。私はそんな彼女の袖を引っ張って話しかけた。
トリエルが振り向く。
しどろもどろにお礼を述べると、彼女は一瞬驚いた後、優しい微笑を浮かべて「*いいのよ」と返した。
自嘲気味に俯いて言った彼女に反論すると、また一瞬驚いた。
笑いながらそう言って、トリエルはまた改めて道を歩いた。
花が喋り、羊の大きなお姉さんがいる。
もしかしたら私は、昔話にあるモンスターの居る地下の世界に落ちてしまったのかもしれない。否、実はまだ気絶していて、これも夢の中なのかもしれない。
ココが何処で何なのかはまだ分からないし、恐怖だって不安だってある筈なのに、場違いにも口元は綻んでいた。

















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。