第2話

綺麗な花には毒がある
283
2026/03/08 00:57 更新
独りで山に来ていた私は、山の奥にある大穴を目指して四六時中走り回っていた。

そして夕方頃、やっと大穴を見つけた私は達成感と共にのしかかってきた疲労に襲われ

意識は途絶える——————


……
…………
………………

(なまえ)
あなた
*……!!
闇の奥から6人程度の誰かに一人一人名前を呼ばれた気がして、勢いよく目を開く。
視界が黒と黄色に染まる。ピントが合わない。
そのまま仰向けになり、上半身だけ地面と垂直になるように持ち上げた。目を擦って視界をはっきりさせてから周囲を確認する。
遥か頭上には橙色の空を覗かせた大きな穴が、私の体の地面の間には黄色い花が絨毯のように敷き詰められている。
そして冷たい風が吹いてくる先には進めそうな先の暗い道があるのが確認できた。
状況を整理する為、取り敢えず立ち上がり、部屋を軽く探索しながら曖昧な記憶を遡る。
(なまえ)
あなた
*(たしか私山に登って……)
(なまえ)
あなた
*(……)
(なまえ)
あなた
*(いやいや、
 まさかそんな運の悪いこと……)
頭上には大きく開いた穴あった。そこからは橙色の斜陽が差し込んでいて、穴の上空を一羽の鳥が影を落としながら横切っていく。
(なまえ)
あなた
*(……)
私は確信した、穴の底に落ちたのだと。
そもそもなんで私は一人で山に登ろうとしたんだ??
(なまえ)
あなた
*(運の悪いこった)
こうなってしまえば仕方がない。すこし痛む足を無理やり動かして暗い道を暫く進むと、荘厳で大きな門があった。
(なまえ)
あなた
*(……行くしかない……よね)
ケツイを固め、入り口の奥の闇へ身を投じた。


……
…………

門をくぐり終えると辺りの暗い空間に出る。その中でポツンと明るく照らされた所があった。
そこには一輪の黄色い花が生えていた。真ん中には笑った顔がついている。
身構えて歩み寄ると、その花は私に話しかけてきた。
フラウィ
フラウィ
*ハロー!
*ボクはフラウィ。
*お花のフラウィさ!
(なまえ)
あなた
*えぇ?あー……は、はろー?
身構えていたので驚きはしなかったけれど、発せられる声は思った以上に明るく活発だった。戸惑う私を気にも止めず、可愛らしい声でフラウィは話を続ける。
フラウィ
フラウィ
*君は……
*この地底の世界に落ちてきた
 ばかりだね?
小さく頷いて肯定する。
不思議と笑った顔には温度が無いように見えた。
フラウィ
フラウィ
*そっか、じゃあ嘸かし
 戸惑ってるだろうね。
フラウィ
フラウィ
*この世界のルールも知らないでしょ?
(なまえ)
あなた
*ま、まぁ、うん。
フラウィ
フラウィ
*それなら、ボクが教えてあげよう。
*準備はいい?
(なまえ)
あなた
*えっ……いや……
フラウィ
フラウィ
*いくよ!
何も言っていないのに勝手に始められてしまった。無理やりってやつだね。
胸を穿たれる様な感覚に襲われ反射的に胸元を見ると赤いハートが浮かんでいた。
私の視界の端には、黄色いバーが表示されている。右隣には20/20、左隣にはHPと書かれている。
胸元の紅いハートをつつきながら
「*これは……?」と訊いてみた。
フラウィ
フラウィ
*そのハートはね、
 キミのタマシイさ。
*キミという存在そのものと
 いってもいい。
フラウィ
フラウィ
*始めは凄く弱い……
 けど、LVがたくさん上がると
 どんどん強くなれるんだよ。
フラウィ
フラウィ
*LVっていうのは「LOVE」つまり、
 「あい」のことさ!
フラウィ
フラウィ
*キミもLOVEが欲しいでしょ?
フラウィ
フラウィ
*待ってね……
 今、ボクがLOVEを
 分けてあげるから!
するとフラウィはウインクした。
ひとつの小さな星が出てきてすぐに消える。
次は5個の小さな粒が出てきて、フラウィの頭上でクルクル回った。
フラウィ
フラウィ
*この世界ではねLOVEは
 こんなふうに……
フラウィ
フラウィ
*白くて小っちゃな……
 「なかよしカプセル」に入れて
 プレゼントするんだ。
(なまえ)
あなた
*白くて小ちゃな“なかよし”カプセル……
フラウィ
フラウィ
*それじゃあ、いくよ?
(なまえ)
あなた
*う、うん
フラウィ
フラウィ
*さあ!カプセルを追いかけて!
 いっぱい、いーっぱい拾ってね!
フラウィが話し始めた瞬間、「なかよしカプセル」は一斉に私の方へ近づいてくる。
私は疑いもせず「なかよしカプセル」へ近づき、手を差し伸べる。
(なまえ)
あなた
*ッ!?
カプセルが勢いよく向かってきて、そこかしこを強く打たれた。「なかよし」の「な」の字もない。なんなら殺意の方が合ってるのでは??花ってもっとふんわりしたイメージなんだけど…。
体力は20/01で、もしもう1発食らったら確実にさようならである。不安と焦りで脂汗が滲む。
フラウィ
フラウィ
*バカだね。
フラウィは可愛さの欠片も無いドスの効いた声で冷たく突き放した。
フラウィ
フラウィ
*この世界では殺すか殺されるかだ。
*こんな絶好のチャンスを、逃す訳
 ないだろ!
さっき私に当たるとダメージを与えた白い粒が、私のタマシイを中心にして輪状に並び、逃げ場がなくなる。どうにか生きながらえようと踠くが何故か体は動かなかった。
フラウィ
フラウィ
*しね
フラウィの言葉を合図にして白い粒の輪がゆっくり小さくなってゆく。
彼は楽しそうに声を上げて嘲笑する。
不運だ。理不尽だ。よりによって初めて会うヤツがコイツだなんて。
私は怖くなって目を瞑った。

……
…………
……が、想像していた筈の痛みは一向に襲ってこない。
周囲を確認しようと目を開くと、フラウィが火の玉で飛ばされて場外へ消えていくのが目に入った。
体力がマンタンになる。火の玉が飛んできた方向には紫色の服を着た羊のような姿の女の人が立っていた。どこからか物寂しい音楽が流れ始める。
正義のヒーローが遅れてやって来るのはどこにいても共通らしい。
「*情け無いわね……
 罪も無い子供を虐めるなんて……」

と正義のヒーローは優しい声音でそう言った。
トリエル
トリエル
*怖がらなくても大丈夫よ。
*わたしはトリエル、
 この遺跡の管理人です。
トリエル
トリエル
*毎日ここを見回って、落ちて来た子が
 居ないか確認しているの。
トリエル
トリエル
*ニンゲンがこの世界に来たのは、
 本当に久しぶり。
トリエル
トリエル
*さ、行きましょう!遺跡を案内して
 あげるわ。
トリエル
トリエル
*こっちよ。
そう言うとトリエルは私と同じ歩く速さで、道の前を歩き出す。私はそんな彼女の袖を引っ張って話しかけた。
トリエルが振り向く。
トリエル
トリエル
*どうしたの?
(なまえ)
あなた
*そ、その……助けてくれて
 ありがとう……ございます……。
しどろもどろにお礼を述べると、彼女は一瞬驚いた後、優しい微笑を浮かべて「*いいのよ」と返した。
トリエル
トリエル
*私のやっていることなんて
 ただのお節介に過ぎないもの。
(なまえ)
あなた
*でも……!そのお節介で
 ホントに、助かったから……
自嘲気味に俯いて言った彼女に反論すると、また一瞬驚いた。
トリエル
トリエル
*そう……
トリエル
トリエル
*それなら助けた甲斐があったわね。
*ありがとう。
 嬉しいわ。
笑いながらそう言って、トリエルはまた改めて道を歩いた。
花が喋り、羊の大きなお姉さんがいる。
もしかしたら私は、昔話にあるモンスターの居る地下の世界に落ちてしまったのかもしれない。否、実はまだ気絶していて、これも夢の中なのかもしれない。

ココが何処で何なのかはまだ分からないし、恐怖だって不安だってある筈なのに、場違いにも口元は綻んでいた。

プリ小説オーディオドラマ