『無個性だよ。』
そう言った天鬼の顔は気味が悪いほどに笑顔だった。
「む、無個性……!?」
切島が驚いたように呟く。
他のみんなも同様に、ありえないと言った顔をしている。
『そんなにおかしいかな。…ああ、そうだった!』
『この世界では無個性って馬鹿にされるものなんだっけ。』
笑顔とは裏腹に、氷のように冷たい声に、全員は黙るしか無かった。
「…だが、無個性だったら推薦はありえないと思うんだが。」
沈黙を破ったのは、推薦入学者の轟。
"ありえない"
その言葉を聞いた瞬間、天鬼は顔を歪めた。
『……うん、そっか。そうだね。』
「ありえねーだろ、無個性の雑魚が!!」
『──初日だが、やっぱり私は君達が嫌いだ。』
天鬼はそれ以上口を開くことは無かった。
「(嫌いって……じゃあなんでここに来たんだろう…)」
天鬼の傍から離れた後も、天鬼を除いて全員が話をしていた。
「お友達ごっこしたいなら他所へいけ。ここはヒーロー科だぞ。」
どこからともなく声が聞こえてきて、緑谷と麗日が下を向くと、
「(なっ…なんかいるぅぅぅ!!!)」
「担任の相澤消太だ。よろしくね。」
『(プロヒーロー……)』
「早速だが、コレ着てグラウンドに出ろ。」
相澤が寝袋の中から体操服を取り出し、言った。
『(普通の高校の最初の行事を全部すっ飛ばすってか。)』
天鬼がじっと相澤を見ていると、相澤は小さく会釈をしてきたので、天鬼も返した。
『(更衣室行くかぁ…。)』
天鬼は誰にも気付かれずに、更衣室へ向かい、誰よりも早くグラウンドに来ていた。
そこには先程も見た相澤先生がいた。
「どうも。鬼殺隊の方ですよね。」
『まあ、はい。ですが学校内では教師と生徒の関係ですので、他の生徒と同じ扱いをして下されば大丈夫ですよ。』
「…そうか。なら好き勝手呼ばせてもらう。」
『はい。』
相澤と会話をしている天鬼はあまりにも大人びており、もう立派な大人じゃないかと、相澤は思った。
天鬼は教師からしても異質な存在となっていた。
『(遅……。)』
数分後、ぞろぞろと皆が集まってきたが、天鬼とは話そうとしなかった。
それが天鬼には好都合なのだが。
余談ではあるが。
天鬼が更衣室へ行くまで、あの爆豪が話しかけてきたのだった。
初め、天鬼は露骨に嫌そうな顔を隠そうともせず、振り返った。
『なんだい、爆豪君。』
「チッ…その呼び方やめろや。……お前、さっきヒーロー嫌いとか言ってただろ。」
『そうだけど、問題はある?』
「…何が理由でヒーローが嫌いなのか、何でここに来たのかは知らねーが、」
「俺はお前に、推薦ってだけで強いと思われる奴に負けるつもりはねぇぞ。」
そう言う爆豪の目には、闘志がメラメラと燃えていた。
天鬼は、嫌いだと思った。
『ああ、こちらも負ける気はない…というか、』
『負ける気がしない。』
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アンケート
主人公ちゃんの学年(音駒高校です!)
高1
65%
高2
24%
高3
11%
投票数: 1273票
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。