-side:深澤辰哉-
(あれは、ねぇわ...)
タクシーの中で髪をかきあげ、窓の外を眺める。
脳裏にはっきり浮かぶのは、阿部ちゃんの戸惑った目。
(ゆらゆら揺れてた。)
あの目を思い出すだけで、後悔の念がじわりと滲む。
(...なにも、言わなかったな)
この発言で、カマをかけたつもりだった。
「んなわけないでしょ!」って、冗談で返されて、笑い話になれば上等。
「...うわ、自意識過剰...」なんて、辛辣な目で見られることも覚悟してた。
これはほんとに、
ほんとに1ミリの可能性だけど、
阿部ちゃんが俺の事を見てて、
あわよくば、この発言で
少しは意識してくれたらなーなんて思ったら
(そしたら、アレだもんなー)
効果はてきめん。
いつもはクレバーで頭が良く回る
あの阿部ちゃんが
言葉もなく動揺してた。
(まじで期待しちまうぞ?)
同期組だし、入所22年になるし、
人生の半分以上、同じ時を積み重ねて来てるのに
まだ、足りない。
むしろどんどん、足りなくなってきてる。
毎日会いたい、
いまこの時に隣に居ないのが寂しい
今何してる
何考えてる
(もう、ぐちゃぐちゃになりそ)
あー明日何してるのかなー
なんてメンバーのスケジュールが見れるアプリを起動する。
ふと、また阿部ちゃんの表情を思い出した。
(....困った顔してたな)
いっそ、困らせてでも
(俺の事ばっか、考えてればいいのに)
深緑の木々の隙間からゆらゆらと差す日差しのように
揺れた君の瞳が反芻して
俺はその日 罪悪感と多幸感に包まれながら眠った。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。