彼の話を聞き、俺は息を呑んだ。
『愛』。
これよりも俺が嫌悪しているものは無かった。
彼は優しげな、でも有無を言わせない口調で言う。
俺はしばらく黙って彼の瞳を見つめていた。
彼は聞いた。
寂しげな瞳をしていた。
俺はふう、息を吐いた。
俺は言う。
呟くように。
彼は何かを言おうとした。
だが、思い直したように口を閉じる。
長い、永遠にも感じられるほどの沈黙の後。
彼は曖昧な笑みを浮かべて言った。
俺は黙っていた。
息を吸う。
吐き出す。
彼の視線を感じた。
話したいわけではない。
あまり、話したくはない。
思い出したくないから。
でも、話そうと思った。
なぜだろう。
なぜだろうか…。
俺ははぁっ、と息を吐いた。
思い出す。
あの時の、ことを。
(モブは使い回してるけど全部別人だと思ってください…)
確か、俺が中2になったあたりだろうか。
弟が、いじめに遭っていると知った。
身体のでかい数人の男子たちに囲まれているところを。
見てしまったのだ。
俺は、建物のかげからそっと覗いていた。
スマホを取り出した。
その現場を撮影して、大人に言うつもりだった。
畜生。
許せない…。
どろどろした溶岩のような怒りを感じながら、俺はそれを見つめていた。
弟が、その場を1人で離れていった。
聞いたところ、飲み物を買いに行かされたらしい。
その時だった。
ばし、と背中を叩かれる。
俺は黙っていた。
そいつらは本当に年下かよってなるくらい、身体がでかい。
それに、威圧感。
勝てない。
喧嘩しても、絶対に勝てない。
どん、と胸元を押されて、後ろに倒れる。
見下ろされる。
この、威圧感、圧迫感。
凄まじい恐怖。
唇を噛む。
何も、できない。
俺には…。
つい思わず心の中の声を出してしまった。
1人が、俺の胸ぐらを掴む。
そして、俺の頬を力任せに殴った。
乾いた音が響き渡る。
痛みに顔を歪める。
頭がくらくらする。
視界がぼやける。
耳鳴りがする。
口のどこかが切れたらしく、血の味がする。
頬を抑える。
俺は呆然としていた。
そこにあるのは理不尽な事実に他ならなかった。
そして、弟を守ることもできない、弱虫な兄だった。
俺の胸には、無力感と怒りが混ざり合って広がっていった。

















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!