第12話

Six.
27
2023/12/19 12:59 更新
四角い箱の中で、俺達は静かに立っていた。
誰かもわからない人を4人も集めて、一体何をしようというのだろう。
俺たちはそれぞれ色のついたアクセサリーを付けさせられていた。
壁にもたれて気怠そうに腕を組んでいる人の手首には、赤いブレスレット。
どうにか外に出られないかと壁に両肘をついている人の指には、黒い指輪。
足元が気になるのかずっと俯いている人の足には、黄色のアンクレット。
そして、そんな3人をひたすらに観察している俺の耳には、青いピアス。
この重い雰囲気に似つかわしくない、陽気で単調な音楽が、さっきからずっと部屋に鳴り響いている。どこかで聞いたことがあるような気もするが、記憶が曖昧ではっきりと思い出すことができない。
ふと。
「うわぁっ、!?」
上から、何かが降ってきた。
黒と黄色の間に落ちてきたそれは、ちょうど俺たちの腰辺りまでの高さがある。
一体何なんだ、と呆然と見つめていると。
グシャッ…
「っひ…!?」
俺と黒の間、…黄色の真上から、それが降ってきた。
俺よりもずっと背の高いそれは、あっさりと黄色を踏み潰し、…。
ゴゴゴッ、と音が聞こえてくる。俺は咄嗟に赤の腕を掴んで引き寄せた。
上から、それが落ちてくる。ちょうど、赤がいたところに。
振り返った赤は顔を青ざめさせていた。俺が引き寄せていなければ、赤も、あの黄色のように、…。
高い場所にいる方が安全だと判断した俺は、先程赤を潰しかけたブロックの上に登った。ブロックが落ちてくるまでのスパンが早すぎるから、たったこれだけで確実に助かるとは言えないが…やらないよりはましだろう。せめてこの3人だけでも、生きて外へ出たい。
コンクリートのように硬いブロックは、上から落とされればひとたまりもないだろう。何が起こっているかも理解できないまま潰されていった黄色のことを考えると胸が痛んだ。
俺がいた場所に落ちてきたブロックに赤が登る。その上から岩が落ちてきて、…。
グシャッ…
「っ…!」
赤の下半身が、踏み潰された。反動で動いた上半身の上から、また次のブロックが降って…。
ゴキッ…
嫌な音を立てて、ブロックはすっぽりと穴に収まった。
赤の死を悼む間もなく、ブロックが頭上から降ってくる。
慌てて逃げると、真ん中のブロックに身体がぶつかった。
先程落ちてきたブロックに乗りながら、俺は黒のことを考えていた。あのブロックのせいで見えなかったが、黒は生きているんだろうか。もしかしたら、この無限に落ちてくるブロックのせいで、もう…。
高いところ、できるだけ高いところへ登っていくうち、あの黄色を潰したブロックの上へ登っていた。見下ろすと、小さなブロックの上に乗って何かを呆然と見下ろしている黒の頭頂部が見える。
「っ、高いところへ登れ!」
生きていてよかった、と感動を嚙み締めるより先に、俺はそう叫んでいた。
どんどん落ちてくるブロックは、どうやら俺の方に集中していたらしい。黒がいるところは、まだ白い床が半分以上見えていた。
ゆるゆると顔を上げた黒の真後ろにブロックが落ちる。ちょうど、黒と同じくらいの大きさのブロックが。
生命の危機を感じたのか、黒は随分と鈍い動きでブロックに登っていく。まるで意思を持ったかのようなブロックは、黒の体すれすれを何度も通り過ぎていった。
黒に手を伸ばす。黄色も赤も潰されてしまったけれど、せめて黒だけは…。
黒が俺の手を握る。身体が一段上に来ようとした時、…。
グチャッ…
いきなり、掴んでいた手が軽くなった。まさか、と、自分の右手を見る。俺が掴んでいたのは__。
だった。
中指に付けられていた黒の指輪が、生気をなくした黒の頭が、静かに俺を見つめている。
「っうわぁっ゛、!!」
思わず、腕を投げ捨てる。放物線を描いて遠くへ飛んで行った腕も、俺を見つめていた頭も、大きなブロックによって潰された。
壁際のブロックにもたれて、両手で口を覆う。
潰された。目の前で。
俺がもっと、早く腕を掴んでいれば。
もっと、力が強ければ。
「っう゛……」
吐き気が襲ってくる。掴んだ腕の生暖かさが、俺と同じ腕の感触が、やけに綺麗だった指が、何度もフラッシュバックした。
ガン!ガシャン!
「っ……」
絶え間なく鳴り続ける陽気な音楽に苛立ちを覚える。
ふと前を見ると、壁際はとっくにブロックが敷き詰められていて、俺のいる場所が一番低く、危険だった。
目の前の段差に飛び乗ると、俺のいた場所にブロックが降ってくる。
上へ、上へと上がるたびに、目の前で死んでいった3人の、目を見張った表情が思い出される。
俺も、あんな風に潰されてしまうんだろうか。
本当に、ここから出られるんだろうか。
逃げ惑う意味は、あるんだろうか。
自然と、身体が重くなっていくような感覚に襲われる。いや、実際、酷く鈍い動きをしていたんだろう。
グシャッ…
「っ゛…ぃ゛……っ!!」
段差に掛けていた下半身の感覚が失われたと同時に、この世のものとは思えないほどの鋭い激痛が突き抜けたのだから。
せめて…せめて、俺だけでも、…外に出ないと……
ゴゴゴ……
それから、上半身が潰されるまでは一瞬だった。
グチャッ…
陽気で単調な音楽は、途切れることなく流れ続けている。
ガン!ガン!
ブロックがぶつかり合う音と、陽気な音楽を聴きながら、俺は意識を失った。

____


「っ、!」
目覚めると、四角い部屋にいた。
あの単調な音楽が、優しく鼓膜を震わせる。
赤いブレスレットをつけた赤が壁にもたれていて、黒い指輪を付けた黒が壁に両肘を付いていて、黄色のアンクレットを付けた黄色が足元を見つめていて、…。
「うわぁっ、!?」
ガン!
あのブロックが、黄色と黒の間に落ちる。
って、ことは、……。
「っ、黄色、!!」
グシャッ…
ブロックの下でゆっくりと、黄色が潰れた。





__end.

プリ小説オーディオドラマ