友達にあげちゃうんじゃないのが、女の子の気持ちも大切にしてあげていてなんとも目黒くんらしい、とまたどきどきと心臓が鳴る。でもそれより、気になるのは。
「本命チョコ、は?」
『んー、俺のこと好きじゃないのかも』
「え?!」
少しびっくりして飛び上がる。そりゃあ、目黒くん以外の男の子が好きになる子だって、いるけれど。わたしの友達みたいに。でも、 そんなことって、目黒くんでもあるんだ、驚きを隠せない。
『まーいいけど』
「そうなの?」
『俺、好きな人には諦め悪いし』
ハッと鼻で笑ったけれど、目黒くんみたいな人でも片思いしたりするんだな、なんて思っていたらつい口からぼろり、 言葉が溢れた。
「目黒くんが彼氏で、そんな風に思ってもらえたら、 幸せだろうね」
『.....それ、本気で言ってる?」 「え、あ、ごめん、 なんか」
『あなたさんは、好きな人にチョコ、 あげたの』
「んー、やっぱり無理だった、勇気出して、持ってきたんだけど」
『あなたさんからのチョコだったら、 板チョコ1枚でも嬉しいのに』
「え?」
『もらえるならすげ一嬉しいって、俺、言わなかった?』
あれ、アピールしたつもりだったんだけど。
好きな人、誰なの?
なんて聞いてくる目黒くんの言葉が頭に入ってこない。
「ま、って」
『なに、どした?』
「わたし、 目黒くんに渡したかったの」
利那、目が見開かれてびっくりした表情、のち、 満面の笑みの目黒くん。バッグの奥からそっと箱を渡すと『嘘だろ』『めっちゃ嬉しい』と喜びながら箱を開けて、ひとくち。
『んまい、』
ふふふふ、身体中から 「嬉しい」が伝わってきて、わたしもつられて笑う。ふたり歩いて下駄箱をくぐると、 そっと繋がれた手。帰っている人 もたくさんいるけれど、一部の人からひそひそ声。明日が土曜日でよかったと思う。それから、 『噂とか、なんか嫌なことあったらすぐ俺に言って』そんな目黒くんで、よかった、と思う。 家まで送ると言ったその手を、ぎゅっと強く握った。
バレンタイン当日が初デートになったのも、それを目撃されて月曜日に周りから質問攻めにあったのも、 その質問攻めの中、 『あなた、行く ぞ、』なんて初めて呼び捨てわたしを教室から連れ去ったのも、全部、全部、それまでのわたしには想像なんて付かなかった話。目黒くんに翻弄されていく日々が、続いていく。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!