ん…
朝…?
あれ?ここは…
気がついた時には知らないベッドで寝ていて、知らない天井が広がっていて、朝だと思ったけれど外を見たら真っ暗だったので、すぐに夜だとわかった。
頭には包帯が巻かれていて、手も足も、とにかく色んなところを骨折したりしているらしかった。
そうだ、トラックにぶつかったんだっけ、
そこに看護師さんが入ってきた。
紗綾…毎日来てくれてたんだ…。
私は、辛うじて動く左手でそれを受け取り、慣れない手つきでそのノートを開いた。
中身は日記、というより私への手紙のようなものだった。
本当に毎日来てくれてたんだ…
なんか、今まで眠ってて申し訳ないな…
そうだ、皆にラインしなきゃ!
「紗綾と桐島くんに『私は無事だよ』って伝えてください」って…
そうして大越さんは一旦部屋を出ていった。
三十分後、また帰ってきた。
お母さんは忙しいもんね…
お父さんいないから当たり前か…
私がいないから誰が家事をしてるんだろう、
妹?弟?
でもどっちも小学生だからな…
紗綾…
なんでこんなこと言ったのか、自分でもわからなかったけれど…
気分?なのかな
なんかテンション変だったし…?
大越さん…
可愛かったな…
なんかほんのりいい匂いしたし…
同じ波長的なのを感じるからなんか安心する…
星、綺麗だな…
桐島くん、学校来てないの心配だな…
私の…
せい…
…
* * *
次の日の午後4時前、目が覚めた。
微笑みが美しい…
30分後…
あ、紗綾だ
大越さんが出ていったあと、病室にはシャーペンの音と、時計の音以外は聞こえなかった。
紗綾は30分かけて例の日記を書いた。
そういえば…一日目の日記に桐島くんとケンカしたみたいなこと書いてあったけど、大丈夫だったのかな?
行っちゃうのか…
そういえば今日は塾があるんだっけ?
紗綾…
聞こえてるよ、紗綾
あ…
もしかして声出しちゃった?
紗綾は笑いながら出ていってしまった。
暫くして大越さんが戻ってきた。
* * *
次の日の木曜日も、同じ時間に紗綾は来た。
そして日記を書いて帰ってしまった。
いつもより元気がなかった。
大越さんは、私の事故から一週間が経っているのにまだめが覚めていないことが心配だからだと言っていた。
* * *
また次の日の金曜日、今日は大越さんはいなかったので、一人で紗綾を待っていた。
16:20
いつもより少し早い時間にドアが開く音がした。
桐島くん…!
桐島くんは、大越さんが置いていっていた紗綾の日記を手にした。
そこに誰かが入ってきた。
紗綾…!
暫くは何も喋らなかった。
二人とも、ケンカのせいか少し気まずい雰囲気に感じた。
病室で、シャーペンと紙の摩擦の音と、時計の音だけが鳴っていた。
ふと、シャーペンの音が止まり、二人の心拍数が上がったような感じがした。
一気に、緊張感が高まった。
そして紗綾が口を開いてこう言った。
私はその言葉の意味を、ちゃんと飲み込むことができなかった。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。