第9話

8 [真那side]
51
2018/11/24 14:44
ん…
朝…?
あれ?ここは…
気がついた時には知らないベッドで寝ていて、知らない天井が広がっていて、朝だと思ったけれど外を見たら真っ暗だったので、すぐに夜だとわかった。
頭には包帯が巻かれていて、手も足も、とにかく色んなところを骨折したりしているらしかった。
そうだ、トラックにぶつかったんだっけ、
そこに看護師さんが入ってきた。
看護師さん
あ、宮元さん、目が覚めたんですね
宮元真那
あ、あの…
看護師さん
私、看護師の大越と申します、宮元さんの担当をさせていただいております。
遅くなってしまってごめんなさいね?
宮元真那
あ、どうも
看護師さん
体調とか、どうですか?
宮元真那
あ、えと…ちょっと体が怠いのと痛いのと…あとは少し頭が痛いくらいですかね…
看護師さん
わかりました、何か欲しいものとかないですか?
宮元真那
特には…
看護師さん
あ、そういえば宮元さんが眠っていらっしゃったこの五日間、毎日来てくれていた平田さんっていう子がこれを渡して欲しいって…
宮元真那
紗綾…!
紗綾…毎日来てくれてたんだ…。
私は、辛うじて動く左手でそれを受け取り、慣れない手つきでそのノートを開いた。
中身は日記、というより私への手紙のようなものだった。
宮元真那
あっ…ページが…
看護師さん
お手伝いしますね
宮元真那
あ、ありがとうございます…
本当に毎日来てくれてたんだ…
なんか、今まで眠ってて申し訳ないな…
そうだ、皆にラインしなきゃ!
宮元真那
あのっ…私のスマホとかって…
看護師さん
あ…それなんですけど、事故が起きたとき…あなたの持ち物が全部入っていた鞄が丁度タイヤに轢かれてしまっていて…
宮元真那
そう…ですか…
看護師さん
ご家族への連絡なら、私からしておきますよ?
宮元真那
あ、お願いします…
看護師さん
あの、伝えておきたいこととかありますか?
宮元真那
じ、じゃあ、「皆、心配かけてごめんない。私は元気です」って…
あ!あと、
「紗綾と桐島くんに『私は無事だよ』って伝えてください」って…
宮元真那
………
看護師さん
あと…
宮元真那
…やっぱりそれだけで大丈夫です。お願いします。
看護師さん
はい、わかりました
そうして大越さんは一旦部屋を出ていった。
三十分後、また帰ってきた。
看護師さん
あの、お母様からの伝言で、「仕事が忙しくて中々お見舞にもいけなくてごめんね…とりあえず意識が戻って良かった。」だそうです。
涙を流しながら言ってくださって…
宮元真那
そう…ですか…ありがとうございます…
お母さんは忙しいもんね…
お父さんいないから当たり前か…
私がいないから誰が家事をしてるんだろう、
妹?弟?
でもどっちも小学生だからな…
紗綾…
宮元真那
あの…
看護師さん
はい、なんでしょう
宮元真那
もし、紗綾が…平田紗綾がお見舞に来てくれたときは、私の意識はまだ戻ってないことにしておいてください
看護師さん
どうして…ですか?
宮元真那
なんか…うまくは言えないんですけど…
看護師さん
…わかりました
なんでこんなこと言ったのか、自分でもわからなかったけれど…
気分?なのかな
なんかテンション変だったし…?
宮元真那
あと、そろそろ眠くなってきちゃったので、寝ます…!
看護師さん
あ、はい!わかりました…!
宮元真那
すみません、夜分遅くまで…
看護師さん
いえ、こちらこそ…失礼致します
大越さん…
可愛かったな…
なんかほんのりいい匂いしたし…
同じ波長的なのを感じるからなんか安心する…
星、綺麗だな…
桐島くん、学校来てないの心配だな…
私の…
せい…



         * * *


次の日の午後4時前、目が覚めた。
看護師さん
おはようございます…といっても4時なんですけどね(微笑み)
宮元真那
あ、おはようございます、
微笑みが美しい…
看護師さん
平田…紗綾さんでしたっけ、
その子いつも4:30くらいに来るので、いつも待ってるんです
宮元真那
そうなんですか
看護師さん
はい、それで、まだ寝ていることにするんですよね?
宮元真那
ああ…はい、お願いします…
30分後…
平田紗綾
あ、大越さん、こんにちは
あ、紗綾だ
看護師さん
こんにちは
平田紗綾
あの…まだ真那は…
看護師さん
…そうですね
平田紗綾
そうですか…
看護師さん
でも心拍は安定しているので大丈夫だと思いますよ
平田紗綾
そうなんですか…!
看護師さん
はい、それで、これ今日も書きますよね?
平田紗綾
書きます~
看護師さん
では、私はこれで
平田紗綾
はい、ありがとうございます
大越さんが出ていったあと、病室にはシャーペンの音と、時計の音以外は聞こえなかった。
紗綾は30分かけて例の日記を書いた。
そういえば…一日目の日記に桐島くんとケンカしたみたいなこと書いてあったけど、大丈夫だったのかな?
平田紗綾
よし、じゃあそろそろ帰るね
行っちゃうのか…
そういえば今日は塾があるんだっけ?
平田紗綾
真那…
待ってるからさ、早く帰ろ?
紗綾…
平田紗綾
…なんて言っても聞こえないか、
聞こえてるよ、紗綾
平田紗綾
じゃあ今度こそ帰るわ、塾だし
宮元真那
待っ…て
平田紗綾
…真那?
あ…
もしかして声出しちゃった?
平田紗綾
空耳かなあ、どんだけ真那のこと恋しいんだよ私、ははは…
宮元真那
あっ…
紗綾は笑いながら出ていってしまった。
宮元真那
そんな…
暫くして大越さんが戻ってきた。
看護師さん
今日の日記、読んでみます?
宮元真那
はい、是非



         * * *


次の日の木曜日も、同じ時間に紗綾は来た。
そして日記を書いて帰ってしまった。
いつもより元気がなかった。
大越さんは、私の事故から一週間が経っているのにまだめが覚めていないことが心配だからだと言っていた。



         * * *


また次の日の金曜日、今日は大越さんはいなかったので、一人で紗綾を待っていた。
16:20
いつもより少し早い時間にドアが開く音がした。
桐島優斗
こんにちは…
桐島くん…!
桐島優斗
…誰もいないのか…なんだこれ?
桐島くんは、大越さんが置いていっていた紗綾の日記を手にした。
桐島優斗
毎日来てたのか…
そこに誰かが入ってきた。
平田紗綾
それ…
桐島優斗
えっ?
紗綾…!
平田紗綾
見た…よね、
桐島優斗
うん…
平田紗綾
貸して、今日の分書くから
桐島優斗
あ、はい、
暫くは何も喋らなかった。
二人とも、ケンカのせいか少し気まずい雰囲気に感じた。
病室で、シャーペンと紙の摩擦の音と、時計の音だけが鳴っていた。
ふと、シャーペンの音が止まり、二人の心拍数が上がったような感じがした。
一気に、緊張感が高まった。
そして紗綾が口を開いてこう言った。



































平田紗綾
私ね、真那が好きなんだ



































私はその言葉の意味を、ちゃんと飲み込むことができなかった。





























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