第10話

第五人格『大切なヒト③』完結
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2023/01/24 02:05
【 注意事項 】 ジャンル … コメディ(感動系?)←?

・元ネタ ⇒ 第五人格
・前回の続きでござんす。最終回。
・第五人格を知らない人でも解説する((
・⚠︎キャラ崩壊の恐れあり
・⚠︎解釈不一致の恐れあり
・⚠︎口調、性格迷子
・キャラの背景推理(過去)のネタバレを含みます
・感動系書くの下手くそです。












マールス
美智子! どこだ、美智子!!










お義父さんからの陰湿な意地悪は、全て夫が居ないときだった。
私と一緒にいる時だけ、気を許した様子では無かったが手を出そうとはしなかった。

でも私のことがよほど気に食わなかったらしい。
そりゃそうだ、まさか自分の息子が異国の人を連れてくるなんて思いもしなかっただろう。
夫は秀才ってわけでもなかったけど、それでも優秀な方だった。
お義父さんは、良いお嫁さんに嫁いでほしかっただろうに。

それなのに、私が―――






荷物をきちんと整えて、別れを告げてから出ていくなんて、
顔を紅に染められたときの私にはそんな考える冷静さは無かった。

一刻も早くここを出たい、夫にこの顔を見られる前に。
逃げるように寝室へ行き、最低限の荷物だけを詰め込むように鞄に入れた。
そのまま顔をタオルで抑えて、人目につかないように家から飛び出した。
幸い目は傷つかなかったが、私の顔には心と同様に深い傷を追った。
逃げるように見知らぬ国をさまよっていた最中に、風の噂で彼のことを聞いた。

どうやらお義父さんは、『雇い者と浮気していて罪悪感で出ていった』と、
仕事から帰ってきた夫のマールスに、悲しみを装うように言ったのだと。
もちろん、内心では喜んでいるだろう。
忌々しい異邦人を追い出せて、自分の息子を救えたことに……

私は悪者でいい、だから、せめてこの無駄だった時間を、
これからの将来のために、夫には、同じ国の綺麗な人と初めから歩み始めてほしい――













私の顔が貼られたポスターを見た。
詳細には、『この女性を探しています』と。
ああ、マールス、お義父さんの言葉を信じなかったのね。
きっと私のことを信用して、私が別の理由で出ていったと信じているのね。

なんて私は幸せ者なんだろう、こんなに愛してくれる夫がいたなんて。
きっとやり直せる、彼に事情を話して、
まだ努力すれば、きっと明るい未来の光が差すはず―――





























この傷が、なければ。











顔を傷つけるのは、女性にとって非常に残酷な事。私も例外では無い。

それに、大きなこの傷。おでこから左耳にかけてまでの、深く大きな傷。
おしろいでなんとか隠している一方だが、きっと夫には気づかれてしまう。
あの人は私をよく見てくれる人だから。

だからこそいけないのよ、この傷を見られればきっと見放されてしまう。
彼はそういう人じゃないって分かっているけど、私は信じることができなかった。






今でも私を探している彼には、面目が立たない。
だけど、最初は自分の事を悲観していたけど、いつしか鬼が宿った。

彼が私の事を探してくれる嬉しさに、
どうしてもっと早く気づいてくれなかったのかという怒り。
彼を愛していた、それはもう本当に。

でも、自分の境遇を見ると、どうしても被害者面をしてしまう。
私は努力していた、だからこそ言い訳がしたかった。






























指から離れた蝶が、花を求めて他の所へ飛んでいってしまった。
美智子
……そのまま、気づいたらここに居たのよ。
美智子
……人間だった頃の記憶は薄い。
これ以外に思い出せるものも少ししかない。
美智子
もう、彼は私のことを忘れているかもしれませんね……
マルガレータ・ツェレ
……そんなことない
美智子
?……
憂いた目を伏せる芸者……いや、美智子に対して、
私はいつの間にか涙が乾いた、強い眼差しで瞳を向けた。
マルガレータ・ツェレ
貴女に非なんて無いし、優しい彼なら
きっと貴女の事を思い出してくれるはずよ。
美智子
でも、こんな姿……化け物ハンターみたいな姿、
なおさら彼の前に見せられる顔が無いわ。
マルガレータ・ツェレ
――貴女は美しいわ
口調を少し強くして、更に眼差しを強くする。
マルガレータ・ツェレ
その、マールスって方は、
貴女の顔だけじゃなく、貴女の内面に惹かれた。
だから貴女をめとりたいって思ったんでしょう?
マルガレータ・ツェレ
……大事な人がいて、羨ましいわ
美智子
……貴女にも大切な人が?
マルガレータ・ツェレ
……えぇ
少し強く言い放った後に、ベンチにうずくまるように膝を上げる。
眉を下げて笑う私に、美智子が問いかけるように静かに零す。

私はそれに、少し黙った後に小さく返事をした。
マルガレータ・ツェレ
……でも、大切な人かわからないの。
私にとってはそうだけれど、彼が私を愛してくれていたかは分からない。
マルガレータ・ツェレ
……感情表現が、下手な人だったの。
私を痛めつけては子供のように泣きじゃくるし、
本当、男って生き物はいつまでも子供よね。
マルガレータ・ツェレ
――でも、そんな彼を愛おしいと思ってしまった。
だからこそ彼に依存して離れられなかった、私の非でもあるの。
「世間で言うDVってところかしら?」と私はおかしそうに笑ってみせるが、
美智子は表情を少しも変えずに、真剣そうに話を聞いていた。

なんだか浮かれている自分が途端に恥ずかしくなって、真剣な顔に戻す。
マルガレータ・ツェレ
同じサーカス団の人だったの。
彼は魅力的で、情熱的なアプローチに惹かれたわ。
マルガレータ・ツェレ
……お父さんは認めなかったのよ、
なんせそんな怪しい男と付き合うなって。
マルガレータ・ツェレ
でも、彼は私の父に薬を盛れといった。
恋に夢中になってたお年頃だったのかしら、
少し躊躇はしたものの結局父に、自分の手で睡眠薬を盛った。
過去の記憶が、ムービーのように脳内で再生される。
マルガレータ・ツェレ
そのまま彼と遠い街で暮らしたわ。
その時は本当に彼に酔っていた。
マルガレータ・ツェレ
……でも、暮らし始めてから。
彼が暴力的な人だって気づいてね。
背中の傷を抑えるように、私は自身の背中に手をあてて顔を歪めた。
マルガレータ・ツェレ
本当に彼を愛していたのかは、私自身でも分からない。
でも彼は私の事を愛してくれると言っていたし、同様に私も彼を愛していた。
マルガレータ・ツェレ
……その後は何も言えないわ、
少なくとも彼に何も言わずにここ荘園に来たことだけはそう。
美智子
……貴女たちの感じる幸せに私は何も否定しないけれど、
自分が壊れる前に最善の方法を取ったほうがいいと、私は思います。
マルガレータ・ツェレ
あっはは、大丈夫よ、
私がそうする前に……彼ね。






















長いまつ毛を伏せて、涙の跡がついた頬に髪がたなびく。
マルガレータ・ツェレ
殺されちゃったの。
美智子
…………
マルガレータ・ツェレ
まぁ、目立ちたがりな性格だったから、恨みを買うのも無理はないわ。
そういう所に私は目を瞑った、指摘して彼の気分を害させたくなかったから。
マルガレータ・ツェレ
顔の皮を剥ぎ取られて見つかったらしいの。
私は見なかったわ、誰も見ようとしなかったもの。
マルガレータ・ツェレ
……もちろん悲しかったわ。私ってなんて最低なのかしら。
沢山泣いたのに、数日経つと平気になってしまったの。
マルガレータ・ツェレ
彼を愛していたことには変わりないし、
でも引きずるような悲しみ方はしなかった。
自分の実の父親の死の知らせが届いてもよ。
あっはは、とおかしそうに笑う私に、美智子は黙りこくったままだった。

訴えるように、思い出すように大声で喋る。
頬を何かがつたる、けれど口角は上がったままだった。
マルガレータ・ツェレ
……涙と一緒に、感情も枯れちゃったみたい。
マルガレータ・ツェレ
だから、嫌いだったのよ。この日が。
私には大切と言える人がいないと思うから。
マルガレータ・ツェレ
きっと彼だと思う、でもなんだか違う。
同じサーカス団の友人も、なにか違う。
父親って言うわけでもない、もう私には……










マルガレータ・ツェレ
……何が大切か、分からなくなったわ
美智子
…………
美智子
……大切な人は、過去だけってことはありませんよ
美智子
自分が何を愛しているか知ること難しいことだけど、
少なからず貴女の事を愛してくれている人はいると思います。
マルガレータ・ツェレ
……? 誰なの? それは……
美智子
……館に戻ってみて、仲間達と喋ってみればいいですよ
そこまで喋って、美智子がすっとベンチから立ち上がる。
綺麗に背筋を伸ばした、気品に満ち溢れた美智子の後ろ姿は――

――息を呑むほどに美しかった。
美智子
随分と長くなってしまいましたね。
そろそろお昼でしょうか、私も館に戻ります。
美智子
――次は、決して迷わないように、
気をつけて庭園をご覧になってくださいね。
マルガレータ・ツェレ
み、美智――
マルガレータ・ツェレ
――!
その瞬間にざあっと風が吹いて、思わず目を閉じてしまう。
髪が目にかかる、はっとして目を開けるが、そこに美智子の姿は無かった。

蝶のように、どこかへ行ってしまった。
ベンチにぽつんと一人残された私も、少し呆けた後に立ち上がった。
マルガレータ・ツェレ
……館の、仲間ねぇ





その意味はよく分からないけれど、
昔の不満を話せて、少し心が軽くなったかもしれない。

心のモヤが、消えはしないけど、微かに霧が晴れた。
トレイシー・レズニック
あっ、マルガレータだ!
マルガレータ・ツェレ
ぁっ……
館に戻ると、さきほどの四人と遭遇してしまった。
しまった、今朝の事で気まずいんだった……

「あの、その……」とモゴモゴとしていると、
突然エマがこちらに来て手を引く。
エマ・ウッズ
皆んなで探してたなの、見つかって良かったの!
マーサ・べハムフィール
探してたわよ、どこ行っちゃってたの?
マルガレータ・ツェレ
ぁ……その、散歩っていうか、あの……
まさかハンターと会って話していた、なんて言えるわけがない。
エミリー・ダイアー
まぁ良かったわ、そろそろお昼になるから呼ぼうとしていたのよ。
マルガレータ・ツェレ
……あ、あの、私……
トレイシー・レズニック
? どした?
意思を決めて、顔を上げてきちんと目を合わせて言う。
特にエマに目線を合わせると、キョトンとした表情をされた。
マルガレータ・ツェレ
ご、ごめんなさい、今朝ぶつかって……!
機嫌が悪かったって言うと、言い訳になるかもしれないけど……
エマ・ウッズ
あー……
忘れていたようで、数秒間黙った後に「あー!」とパッと顔をあげた。
エマ・ウッズ
全然気にしてないなの、むしろこっちも、
人が通れないくらい広がってたのが悪かったの、こちらこそごめんなさいなの。
マルガレータ・ツェレ
エマ……
マーサ・べハムフィール
……さ! まぁ仲直りもできたことで、
もう皆んな席に座っていると思うから行きましょ!
マルガレータ・ツェレ
!……えぇ












人の好意に気づかなかった。

こんなにも愛されていたのに、私は過去の事ばかり目を向けて、
今に目を見つめようとしていなかった。
そうだ、時間は経つんだから、当然世界も変わるんだ。
エミリー・ダイアー
さ、席について。
機嫌が悪い時は温かい物を食べれば気も休まるわよ。
マーサ・べハムフィール
今日の昼食担当はトレイシーだったけど
鍋が爆発してたから結局私達が手伝ったのよね?
トレイシー・レズニック
うう……料理は苦手なんだって。
でも下地込みとか頑張ったんだよ!?
エマ・ウッズ
皆んなで頑張って作ったんだから、
絶対に美味しいの! マルガレータのお口に合うといいの〜♫
マルガレータ・ツェレ
……











こんなに大切な人たちが、すぐ側にいたなんて。
マルガレータ・ツェレ
……皆んな、ありがとう
トレイシー・レズニック
ええ、なんでお礼してんの、
別にご飯は作るし感謝されるくらい――
トレイシー・レズニック
……って、ええっ!?
な、なんで泣いてんの!?
マーサ・べハムフィール
あ〜〜トレイシーが泣かせた〜!
トレイシー・レズニック
え、えぇ僕何もしてないよね!?
マルガレータ・ツェレ
いやっ、違っ、ふふ……
変なの、なんだか心があったかくなって、
涙が止まらない。でもこれは、悲しみからじゃなくて、嬉しさからの涙。










その日に食べた昼食は、いつもに増して美味しかった。
第五人格ってとっても感動するゲームですね!!
ホラゲーなのに!!!!!!!!!!!!!!!!!

米ください飢えちゃうよ。

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