由愛「こんにちはっ、今日からマネージャーする
聖良由愛ですっ!よろしくお願いします!」
キラキラとアイドルのような可愛らしい雰囲気で
ニコッと満面の笑みを浮かべて
皆の前で挨拶する由愛ちゃんを見て
バレー部のみんながおお~っと目を輝かせる。
その反応に満足気に目を細めた由愛ちゃんは
目を輝かせる皆の横でやる気なさそうに緩い拍手を送る
黒尾さんに近づき、キュッと腕を握りしめた。
由愛「鉄朗、由愛のお願い聞いてくれてありがとっ」
他の人がやればイタイと思うようなセリフも
由愛ちゃんだと似合うのが不思議だ。
親しげなその様子に何人かの落胆の息が聞こえる。
当の本人はというと興味なさそうに
「まあな」と返事をしてから、
するりと彼女の手を逃れ距離を空けるように2、3歩進む。
黒尾「マネの仕事はあなたの下の名前に聞いてくれ。
じゃあ、練習始めるぞ」
手をパンっと打ってから空気を切り替えるように動く。
そしてすぐに練習を始めてしまった黒尾さんのせいで
居場所をなくした由愛ちゃんは
トコトコとこっちに寄ってくる。
由愛「ねえねえあなたの下の名前ちゃん。なにするの?」
きょとんと小首を傾げる由愛ちゃんは
私を脅したことなんて覚えてすらいないのだろう。
どちらにせよ、私だってわざわざ掘り返して
火種を作りたくはない。
何も知らないフリするのが得策だと考え、
寄ってきた由愛ちゃんと一緒にスポドリを作るため
粉とボトルを手に、少し離れた水道まで歩く。
あなた「最初はスポドリを作るんだけど、
この粉をボトルに入れて……」
由愛「ええーっ、お水使うの?
手が荒れちゃうよ」
由愛ちゃんが眉尻を下げて困ったように言う。
そしてそのまま何かを閃いたように顔を輝かせて
由愛「役割分担しようよっ!由愛がみんなに配るから
あなたの下の名前ちゃんが作ってよ」
名案だといわんばかりに由愛ちゃんが言う。
多分、他の人が嫌がるかもしれないとかは
微塵も考えていないんだろう。
ここで争うのもイヤなので大人しく頷いて
スポドリを作る。
振るのはやってくれるらしく、
私が粉と水を入れた側から
シャカシャカと楽しそうに振っている。
作り終えると全部を籠に入れた由愛ちゃんが
ウキウキとした様子で持っていった。
スポドリは由愛ちゃんに任せて、ボール出しを手伝う。
由愛「はいっ、どーぞ」
犬岡「ありがとうございますっ」
灰羽「俺にもっ」
黒尾「はいはい、さっさと練習始めるぞ」
由愛ちゃんに集る1年組を黒尾さんが制して練習が始まる。
不満そうな由愛ちゃんだったけど
すぐにドリンクを置いてこっちにまた寄ってきて
由愛「由愛もやる!何すればいい?」
あなた「えっと、ボール出しは……」
説明しようとした私をスッと黒尾さんが手で制す。
黒尾「聖良は初回だから見とけばいい。
あなたの下の名前、ボール出し頼む」
庇うようにサッと間に割って入って
黒尾さんは由愛ちゃんを退かして私にボールを投げ渡す。
文句言いたげな由愛ちゃんだったが
黒尾さんの言葉だからか渋々といった風に受け入れ
コートを出たところでチョコンと座る。
夜久「気持ちは分かるけど、
流石に彼女相手に酷いんじゃねぇの?」
黒尾「いいんだよ、これくらい言わなきゃわかんねえし」
苦々しげに黒尾さんは夜久さんに返す。
聖良ちゃんはコートサイドに座りながらも
みんなのセットを見ながら
「すご〜い」とか「かっこいい〜」とか
時折歓声をあげて嬉しそうにする。
それに調子を良くするのは彼氏である黒尾さんではなく
1年生たちで、そのおかげかあっという間に打ち解ける。
これが陽キャの力か。
なんて感心するのもつかの間、
見ているだけでは暇だったのだろう。
しばらくは大人しく傍らで見ていた聖良ちゃんだったが
少しずつコートに近寄ってきて
たまたまだった。
偶然、一瞬だけ目を離したその隙に
ネットを掠めて軌道の逸れたボールがコートから外れて
由愛「ッ!」
バンッ
聖良ちゃんへと直撃する。
一瞬、時間がゆっくりになった感覚がして
誰かの悲鳴で意識が覚醒する。
犬岡「スミマセンっ、俺……」
サァーッと顔を青くさせるのは犬岡くんで、
きっと逸れたボールは彼の打った球だったのだろう。
あいにくひどい怪我ではなさそうだけど、
ショックからか痛みからか聖良ちゃんは
頭を押さえて立ち上がる気配はない。
あなた「ほ、保健室行ったほうが……」
夜久「そうだな。おい黒尾、彼氏だろ」
コソコソと逃げようとした彼を夜久さんが呼び止め
渋々戻ってきた彼は
聖良ちゃんの手を引いて保健室へ向かった。
残された私たちは当然練習を再開したんだけれど
夜久「まじでなんで付き合ってるんだろ、あの2人」
リエーフ「聖良先輩の方は黒尾さんのこと
好きそうですけど、黒尾さんの方は
そうでもなさそうですよね」
夜久「リア充見せつけてんのか?
あー!なんでアイツだけあんなモテるんだよ」
リエーフ「そりゃあ身長……ってイタッ」
回し蹴りをまともにくらったリエーフくんは腰をさする。
そんな2人を片目に確かになんで付き合ったんだろうと
少しだけ疑問に思う。
もちろん、記憶のない私が言うのも変だろうけど……
なんとなく違和感があるっていうか。
2人が出ていった扉を見ながらそんなことを考えた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!