第9話

『凡人にしかできないこともある』part1
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2025/09/01 05:53 更新



『凡人にできることは何も無い』



これはかつて父に言われた言葉だ。
昔の父さんは優しかった。私や弟の誕生日には特別なケーキをくれて、父の日にプレゼントを渡せば喜んでくれた。

………でも、会社が潰れた日から父さんは酒に明け暮れ私たちを見る度に暴力を振るう様になった。

母は何も言わない。弟が泣いても、私が殴られてもまるで他人事のように無視して父が家を出ると「ごめんね」と形だけの謝罪をして手当をする。

『何故出て行こうとしない?』子供ながらにそう思ったのをよく覚えている。



放理 彗
おねえちゃん…僕達、いつまで
あの人の暴力に耐えなきゃいけないの?

弟が目を腫らし掠れた声で私に問いかける。

今日は母が居ない、
あんな人でも居ないよりかはマシなのに…
私は弟を抱き寄せ不安にならないよう
言葉を投げかけた。
放理 椿
放理 椿
大丈夫…きっとなんとかなる……
放理 椿
放理 椿
私が……彗のことを絶対に守るから…

そんなことを言っておきながら、手と声は震えている。こんな姉を頼れと言う方が無理がある。

だけど彗は「うん」と一言呟き私の背中に手を回した。




その日は二人で母を待つことにした。
父さんが隣の部屋で大きなイビキをかきながら寝ているのを感じつつ弟と一緒に夜の帳が開けるのを待った。




放理 椿
放理 椿
ん……


目を開くと、空は明るくなり小鳥がチュンチュンと鳴いていた。隣の部屋からイビキは聞こえず弟の寝息だけが私の耳に入る。
リビングへと続く扉を開けると、机には昨日は無かった筈の紙がポツンと置いてあった。


「椿と彗へ、お母さんは遠くの方に仕事をしに行くことになりました。お父さんのことは凄く大変だと思うけど頑張って仲良くしてください。
どんなに遠くにいてもお母さんは貴方達の味方です。」




理解ができなかった。母が遠くに行った?頭の中は混乱でいっぱいだった。
父がこれを見たらどう思うか、母がいる時の暴力はいない時に比べてまだマシだった。それが居なくなったとなると……
放理 椿
放理 椿
私たち……死ぬの?

更に頭がこんがらがっていく。


助けを求めるか、だがもし父が戻って来たとしたら?
私たちは確実にあの人に殺される。


放理 椿
放理 椿
どうすれば……どうすれば……











どうすれば、私と弟は生き残れる?

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