第10話

得意なもの探し
16
2024/04/07 08:00
放課後の、少し日が落ちてきた頃。
季節は秋ですずしく、過ごしやすい。

……はず、なんだけど……

めっっっちゃ顔熱い!!夏ですか?!え?!
だって、あの華宮葵かくあおいに、僕が初めてかっこいいと思った人に!
手握られてるんだよ!?!?
しかも、さっきの言葉……
華宮葵
『いとちゃんを、助けて。』
意味わかんないし……!いとちゃんそんな助けるようなことあったっけ?
それに、なんで僕に……
華宮葵
……ハク?大丈夫?顔真っ赤だよ?
伯陽翔
あー分かってるよぉ!うー、恥ずい……
華宮葵
ハクっていとちゃんみたいだね
伯陽翔
えぇ?……あぁ、そっか、なるほどね……
いとちゃんがはなみやに恋に落ちた理由、分かった気がする。
可愛すぎる。そして、ギャップありすぎる!
なんだその困り顔!はなみやじゃないでしょ!
それに、さっきの声。甘ったるいけど、少し透き通るような、甘え声。
きれいなお姉さんに誘惑されたみたいな気持ち……女の子じゃん……
華宮葵
『本当は氷なんかじゃないし。』
百瀬絃音
『本当は砂糖だもんね。』
あぁ……あれってこういう意味か。確かに砂糖だ……
なんかアニメの伏線回収した時の気分……

てかいとちゃん昔、毎日このはなみやと話してたってこと?ズルすぎでしょ。
なのに今はそっちじゃないって……どんな地雷踏んだんだいとちゃん……
伯陽翔
はーー……いとちゃんに何されたの……
華宮葵
え?えっ、と。まぁ、俺が悪いんだけど……
そう言って、暗い表情になる。
でも僕には伝えたいようで、手を握ったまま離してくれない。
少し経った後、重たい口を開いてくれた。
華宮葵
小3の時の、ちょっとした事件の関係で……いとちゃんに『嫌いだ』って……思ってないのに、言っちゃったんだよね。
伯陽翔
あらら……そうなの。
華宮葵
うん……それからいとちゃん、学校では真逆の性格になっちゃって……苦手なものにもどんどん取り組んでて……俺のせいだって、分かってるけど……謝れ、なくて。冷たい態度とっちゃって……
伯陽翔
うん……謝ったほうがいいかは分かんないけど、なるほどね。
どんどん下を向いていくはなみやの背中を、握られてないほうの手でさする。

つまり、絶対ちょっとしてない事件でいとちゃんが何かして、それではなみやが嫌いって言って、いとちゃんの何かが変わって、あの営業スマイルが誕生したわけだ。
闇深ぇ……毎度思うけど、本当に小5……?
伯陽翔
これ聞いていいか分かんないけど……その事件でいとちゃんに何かされたってこと?
華宮葵
ううん……いとちゃんは何もしてない。ただ……
伯陽翔
ただ?
華宮葵
いとちゃんが完璧過ぎたっていうか……
伯陽翔
ほう……
分かんないな。いとちゃんが完璧なのは当たり前だし。
それにこの様子だと……その事件のことは教えたくなさそうだな。
思い出したくもないって感じするし……どうしたものかね。
伯陽翔
うーん、分かった!できるだけはなみやといとちゃんが元通りになるよう協力する!
華宮葵
えっ……そこまでしてくれるの?
伯陽翔
もっちろん!だってはなみや、またいとちゃんと普通に話したいんでしょ?
華宮葵
……うん。
伯陽翔
なら任せてよ!すぐ元通りになるから!
華宮葵
本当かなぁ……
大丈夫。すぐ戻れるよ。
だっていとちゃん、初恋がはなみやって言ってたけど。
今も……嫌いだって言われても、はなみやのこと好き……ううん、大好きだと思うから。
いとちゃんがはなみやの話をする時、だいだいだーいすきって心の声が、ずっと聞こえるから。
百瀬絃音
何イチャついてんの。
伯陽翔
えっ、いとちゃん?!
華宮葵
え、あ
まさか今の会話、聞こえて……
百瀬絃音
何話してたか知んねーけど、俺結構重いからな。ハクがと付き合ったら、全員殺して自殺してやる。
伯陽翔
うえー!おっも!!大好きじゃん!
百瀬絃音
ばっ……ありえねーと思うけどな!!
華宮葵
……あお、い……
百瀬絃音
あっ!やべっ……え?
伯陽翔
あーー……
話聞こえてなくてよかったけど……しれっと葵っていとちゃんが呼んだ。
それに対してはなみやは怒る……と思ったけど。

照れてる……それに気づいたいとちゃんも照れてる……
なんだこの空間……恋愛漫画だったら絶対僕消えろって思われてるでしょこれ。
もう、すぐに元通りになるでしょ。

百瀬絃音
っ……!とにかく、蓮さん待ってるから!行くぞ!!
華宮葵
あ、うん……ハク行こう。
伯陽翔
まっ、えぇーーー?!今ので進展しないのぉーーー?!
こりゃ思ったより長くかかりそうだ……
しきさい学院 中等部体育館
華宮蓮
じゃあこれから、臨時の体力テストを始めまーす
百瀬絃音
いえーい
伯陽翔
えー?体力テストー?
華宮蓮
ごめんねー!俺体育教師だからさ!それしかできなくて!
伯陽翔
うげぇ……
なんで運動なの……無理だってぇ
まぁ勉強よりはいいか……
百瀬絃音
ハク前言ってたよね?体育好きだって。
伯陽翔
いやいや!強いて言うならだから!
確かに言ったけどさぁ……それ、平均値より少し上だからって理由なんだけど……
いとちゃんとはなみやと比べられたくないわ……
華宮蓮
じゃあハク君、何やりたい?
伯陽翔
えぇ……シャトルラン以外ならなんでも……
華宮蓮
うんうん、やっぱりそうなるよね。俺も嫌いだし!
体育教師が嫌いとか言っていいんかい。
でも、ちょっと接しやすいかも。さすが有名学院の先生だ。
百瀬絃音
前言ってた、平均値より高かった種目ってなんだっけ?
伯陽翔
えーっと、立ち幅跳びかな……?
華宮葵
へー、それなんだ。ハク、足早そうだなって思ってたけど。
百瀬絃音
そうそう。コイツさ、俺が強引に連れ帰ってた時、俺と同じスピードで着いてくるどころか、息乱れてなかったからな?体力ありすぎだろ。自分を平凡って言った時、ちょっとムカついたわ。
伯陽翔
えー、そう……?
なんとも思ってなかった。体力あるのか、僕。
華宮葵
すごいね。いとちゃん足早いのに。50m走8秒だよね?
伯陽翔
えー!8秒?!はっや!!
百瀬絃音
まあね。短距離は得意なんだよ。ただ、あんまり長い間走れないっていうか……
華宮蓮
うーん……立ち幅跳び終わったら、持久走やってみようか。
伯陽翔
えっ!まじすか?!やだぁ……
持久走あんまやったことないんだけど。倒れたらどうしよう……
でも、僕にもし、得意なものがあれば。
それを好きに、なれるかな。
偶然持ち帰ってきていた、体育着に着替える。
部活やってる中学生に見られてる……恥ずかしい……
華宮蓮
じゃあまず葵!お手本で跳んでみよう!
華宮葵
えっ…‥俺?
華宮蓮
うん!やってみせてよ。
華宮葵
……分かった。
百瀬絃音
よく見てろよ。はなみやの運動見れるの貴重だぞ。
伯陽翔
えっ、どういうこと?
百瀬絃音
そこは……まぁ、置いといて。
置いといてじゃないって……!

体操マットの上に、メジャーを置いて蓮さんが固定する。
はなみやが踏み込んで、跳ぶ。
結果は……

華宮蓮
169cm。まあまあだね。
伯陽翔
はえー、すっご……
僕の結果を当たり前に超えてきた……さすがだわ。
待って……次、僕?
嫌だ……こんな人の後にやりたくない……
華宮蓮
次、ハク君だけど……いけそう?
伯陽翔
え……はい。大丈夫です!
華宮蓮
……そっか。じゃあやってみて。
うー、大丈夫じゃないけど大丈夫って言っちゃうよ……!
大丈夫、いつも通り!この前みたいにやれば!
……やれ、ば。

……あれ。
前、どうやってたっけ……
華宮蓮
160cm。平均は超えてるけど……まだいけそうだな。
百瀬絃音
ですよね。踏み込みそんなにしてなかったし……
華宮葵
……ハク、震えてる。大丈夫?
え…‥震え、て……?
伯陽翔
おっかしいなぁ……なんでだろ……
……やっぱり、怖いかも。
ここまでやってくれて、得意なものが見つからなかったらどうしようって。
いとちゃんに悪気はないって分かってるけど……

怖い。
失望させるのが怖い。幻滅されるのが怖い。
僕はずっと、何をしても、平凡だったから……
華宮蓮
……ハク君。前見て。
伯陽翔
え……?
華宮蓮
まっすぐ前見てしゃがむの繰り返してみて。手は大きく振って。
伯陽翔
こう、ですか……?
華宮蓮
そう。それで、自分のタイミングで思いっきり踏み込んで、ジャンプしてみて。とにかく前に進むことだけ考えて。
蓮さんの教え方がとても優しい。
優しくて、丁寧で……できるんじゃないかって思えてくる。
やれるかもしれない……!
華宮蓮
大丈夫。自分を信じて。
自分を、信じる……!
百瀬絃音
おっ!いけた!
華宮葵
ハク……!
華宮蓮
173,6……!?すごい!やればできるじゃん!
百瀬絃音
10cm以上も伸びてる……どんだけ自分信じてないんだよ。
伯陽翔
ははっ……ただの立ち幅跳びだけど……
華宮蓮
いや、すごいよ!俺の身長ぐらい跳んでるよ!!
華宮葵
中学生になったら2m普通にいきそうだけど。もっと自信もっていいんじゃない?
めっちゃ褒めてくれるじゃん。なんなの、この人達。
喜んじゃうよ……
百瀬絃音
……なあハク。ちょっと真上に跳んでみてくんない?本気で。
伯陽翔
え?いいけど……ほっ!
しゃがんで本気で跳んでみる。
意外と跳べるな……
華宮葵
跳躍力ありすぎでしょ……
百瀬絃音
高……跳び箱めっちゃ跳べそうじゃね?
華宮葵
分かる。跳んでみてほしい。
華宮蓮
……ハク君!ぜひうちの陸上部に来て!!大活躍だよ!!
伯陽翔
えっ、えー!そんなに?!嘘でしょ!
そんな…‥僕、ジャンプ力意外と高いの?
意外すぎる…‥自分が自分じゃないみたい。
百瀬絃音
よかったじゃん。得意なものあって。ま、ない人間いないだろうけど。
伯陽翔
そっ、か。これが僕の、得意なもの……
あったんだ。見つけられてないだけで、あったんだ。
よかった……
華宮蓮
喜んでるとこ悪いけど……時間結構やばいから、外出よっか?
百瀬絃音
あっ…‥確かに。もう16時か。
え、そんなに?!
時間の流れって早いな……

……あれ。外出るってことは……
次、持久走……?
伯陽翔
やだ!一個見つけられたからもういいじゃん!ねーえ!!
百瀬絃音
うるさい、黙って着いてこい。
華宮葵
完全に体育会系だねハク。お疲れ様。
華宮蓮
話が合う子が増えそうで嬉しいよ!さ、一緒に走ろう!
伯陽翔
ねえー!走りたくない!!やだぁぁーー!!
作者かもしれない
作者かもしれない
スクロールお疲れ様です。作者かもしれない人間です。
作者かもしれない
作者かもしれない
ハク君の覚醒……どうだったかな?今回全部書いてて楽しかった!
作者かもしれない
作者かもしれない
次回は持久走です!私も大っ嫌いですいらねーよあれ
作者かもしれない
作者かもしれない
こちらのシーンを結構追加しました。お話に関わることを書いてると思うので、最後だけでも読んでほしいです。
作者かもしれない
作者かもしれない
ではまた次回!またね👋

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