放課後の、少し日が落ちてきた頃。
季節は秋ですずしく、過ごしやすい。
……はず、なんだけど……
めっっっちゃ顔熱い!!夏ですか?!え?!
だって、あの華宮葵に、僕が初めてかっこいいと思った人に!
手握られてるんだよ!?!?
しかも、さっきの言葉……
意味わかんないし……!いとちゃんそんな助けるようなことあったっけ?
それに、なんで僕に……
いとちゃんがはなみやに恋に落ちた理由、分かった気がする。
可愛すぎる。そして、ギャップありすぎる!
なんだその困り顔!はなみやじゃないでしょ!
それに、さっきの声。甘ったるいけど、少し透き通るような、甘え声。
きれいなお姉さんに誘惑されたみたいな気持ち……女の子じゃん……
あぁ……あれってこういう意味か。確かに砂糖だ……
なんかアニメの伏線回収した時の気分……
てかいとちゃん昔、毎日このはなみやと話してたってこと?ズルすぎでしょ。
なのに今はそっちじゃないって……どんな地雷踏んだんだいとちゃん……
そう言って、暗い表情になる。
でも僕には伝えたいようで、手を握ったまま離してくれない。
少し経った後、重たい口を開いてくれた。
どんどん下を向いていくはなみやの背中を、握られてないほうの手でさする。
つまり、絶対ちょっとしてない事件でいとちゃんが何かして、それではなみやが嫌いって言って、いとちゃんの何かが変わって、あの営業スマイルが誕生したわけだ。
闇深ぇ……毎度思うけど、本当に小5……?
分かんないな。いとちゃんが完璧なのは当たり前だし。
それにこの様子だと……その事件のことは教えたくなさそうだな。
思い出したくもないって感じするし……どうしたものかね。
大丈夫。すぐ戻れるよ。
だっていとちゃん、初恋がはなみやって言ってたけど。
今も……嫌いだって言われても、はなみやのこと好き……ううん、大好きだと思うから。
いとちゃんがはなみやの話をする時、だいだいだーいすきって心の声が、ずっと聞こえるから。
まさか今の会話、聞こえて……
話聞こえてなくてよかったけど……しれっと葵っていとちゃんが呼んだ。
それに対してはなみやは怒る……と思ったけど。
照れてる……それに気づいたいとちゃんも照れてる……
なんだこの空間……恋愛漫画だったら絶対僕消えろって思われてるでしょこれ。
もう、すぐに元通りになるでしょ。
こりゃ思ったより長くかかりそうだ……
しきさい学院 中等部体育館
なんで運動なの……無理だってぇ
まぁ勉強よりはいいか……
確かに言ったけどさぁ……それ、平均値より少し上だからって理由なんだけど……
いとちゃんとはなみやと比べられたくないわ……
体育教師が嫌いとか言っていいんかい。
でも、ちょっと接しやすいかも。さすが有名学院の先生だ。
なんとも思ってなかった。体力あるのか、僕。
持久走あんまやったことないんだけど。倒れたらどうしよう……
でも、僕にもし、得意なものがあれば。
それを好きに、なれるかな。
偶然持ち帰ってきていた、体育着に着替える。
部活やってる中学生に見られてる……恥ずかしい……
置いといてじゃないって……!
体操マットの上に、メジャーを置いて蓮さんが固定する。
はなみやが踏み込んで、跳ぶ。
結果は……
僕の結果を当たり前に超えてきた……さすがだわ。
待って……次、僕?
嫌だ……こんな人の後にやりたくない……
うー、大丈夫じゃないけど大丈夫って言っちゃうよ……!
大丈夫、いつも通り!この前みたいにやれば!
……やれ、ば。
……あれ。
前、どうやってたっけ……
え…‥震え、て……?
……やっぱり、怖いかも。
ここまでやってくれて、得意なものが見つからなかったらどうしようって。
いとちゃんに悪気はないって分かってるけど……
怖い。
失望させるのが怖い。幻滅されるのが怖い。
僕はずっと、何をしても、平凡だったから……
蓮さんの教え方がとても優しい。
優しくて、丁寧で……できるんじゃないかって思えてくる。
やれるかもしれない……!
自分を、信じる……!
めっちゃ褒めてくれるじゃん。なんなの、この人達。
喜んじゃうよ……
しゃがんで本気で跳んでみる。
意外と跳べるな……
そんな…‥僕、ジャンプ力意外と高いの?
意外すぎる…‥自分が自分じゃないみたい。
あったんだ。見つけられてないだけで、あったんだ。
よかった……
え、そんなに?!
時間の流れって早いな……
……あれ。外出るってことは……
次、持久走……?
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。