依頼をこなした後、わたしはさっきまでいた家に戻った。
こう考えてみると、海華の存在がとても大きかった――んだと思う。
海華はあのコロシアムで死んだ。
たった一人の生き残りであるわたしはその事実を受け止めながら、中学生として、そして、かつて大好きだった『魔法少女』として生き続けなければいけない。
お母さんに呼ばれ、わたしは塾の支度をした。
今日は、わたしの嫌いな数学の授業がある日だった。
約1週間ぶりに聞いたあの先生の言葉だった。
わたしはそう言って、先生をごまかした。
ごまかせてはいないと思う。
そして、先生は次の例題を出した。
先生はわたしのことも考えてくれているのに、全く授業に集中できない。
あと3ヶ月もしない内に高校入試が始まるというのに。
このままでは中卒で終わってしまう。
わたしを騙さなければいけないのに、そうすることはできなかった。
わたしの頭の中で、海華の顔と、最期の姿だけがしばらく映っていた。
授業後にその先生に呼ばれるのはいつものことだった。
ただ、いつもと違って先生は真剣な顔をしている。
それに、いつもと呼ばれる時間が違った。
授業後すぐではなく、自習を始めてから30分ほどたったときだった。
内容は容易に想像できた。
『海華が行方不明になった』ということだ。
実際それは当たっていたようで、全てを知っているわたしにとって、知らないふりをするのは非常に難しいことだった。
わたしにできることとしては、驚いた顔でたたずむことぐらいだった。
わたしは、ショックで気絶しかけているわたしを演じる。
答えを言えたのならば、どれだけ楽なことだったのだろうか。
『海華はコロシアムに出ました』。
『そして犠牲になって死にました』。
どうせ言ったって、理解してもらえる内容ではない。
わたしにできる最大のこと。
それは、彼女を忘れずに毎日を生きることぐらいしかないのだから。
それは演技ではない、本当の衝撃だった。
あの女子大生の先生も『行方不明』になっているのだ。
いつも大事そうに人形を持っていた、変わった先生が。
ネウラを持ち込んでいたことがバレていたとは。
……でも、今はそれどころではない。
わたしは荷物を整えて塾を出た。
お母さんも、海華のことを心配していた。
わたしは死んでいるとわかっているけれど。
生きていたらいいのにな、と願い続けた。
わたしは部屋に行った。
部屋に入って机に向かった後、バン。ともガン。ともいえるような音が響き渡った。
右手がヒリヒリする。
何で気づかなかったんだ。
わたしはわたしに激怒していた。
どうして気づかなかった?
おかしいな、とは思っていたのに。
なんで『あれ』を見て何も感じなかったんだ? わたしは。
明らかにおかしかっただろうに。
どうして、どうして、どうして、どうして――――‼
『あの先生』は、『魔法少女』だった。
コロシアムの犠牲者だった。
知り合いが二人、あそこで生涯を閉じた。
心が一気に重くなる。
もう身を投げ出してしまいたくなるほど、わたしの責任は大きかった。
そんな言葉が聞こえてくる。
幻聴だ。
みんな、死んで行ったじゃないか。
幻聴だって。幻聴だってわかっているのに。
わたしは耐えられなかった。
責任と、みんなの声に押しつぶされそうだった。
わたしがやらなければいけないことは、みんなを想いながら生きることではない。
それに加えて、みんなの分も、わたしは戦わなければいけないんだ。
みんなの呪いに耐えながら。
わたしはネウラに触れた。
約3時間ぶりの再会だった。
愛奈。
18歳。
職業――『魔法少女』。
好きだったものであり、今では大嫌いなもの。
愛奈はそれを続けている。
コロシアムから早3年、愛奈はベテラン魔法少女になっていた。
魔法少女の世界では、広く周知されている名になった。
愛奈を尊敬している後輩は数知れず。
愛奈には、とてもつらい過去がある。
愛奈は後輩に尊敬されるようになった代償に、死んでいった者たちの幻聴に心をむしばまれている。
ただ、そんな事実を他人は知らない。
罪を償うために、今日も愛奈は依頼をこなしていた。
それを見ていた魔法少女が言う。
愛奈の魔法少女生活は、彼女が死ぬまで続いている。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!