第18話

12.責任と呪いとコレカラは(終)
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2024/05/02 05:10 更新
依頼をこなした後、わたしはさっきまでいた家に戻った。
愛奈
(結構きつかったな……)
こう考えてみると、海華の存在がとても大きかった――んだと思う。
海華はあのコロシアムで死んだ。
たった一人の生き残りであるわたしはその事実を受け止めながら、中学生として、そして、かつて大好きだった『魔法少女』として生き続けなければいけない。
お母さんに呼ばれ、わたしは塾の支度をした。
愛奈
はーい
今日は、わたしの嫌いな数学の授業がある日だった。
数学の塾講師
――を――すると、――になりますので、答えは――になります
約1週間ぶりに聞いたあの先生の言葉だった。
数学の塾講師
愛奈さん? どうかしましたか? そういえば、今日は海華さんが来ていませんでしたけど
愛奈
い、いえ。大丈夫です
わたしはそう言って、先生をごまかした。
ごまかせてはいないと思う。
数学の塾講師
そうなんですね。わかりました。では、次の問題へと移りましょう
そして、先生は次の例題を出した。
先生はわたしのことも考えてくれているのに、全く授業に集中できない。
あと3ヶ月もしない内に高校入試が始まるというのに。
このままでは中卒で終わってしまう。
わたしを騙さなければいけないのに、そうすることはできなかった。
わたしの頭の中で、海華の顔と、最期の姿だけがしばらく映っていた。
数学の塾講師
愛奈さん
授業後にその先生に呼ばれるのはいつものことだった。
ただ、いつもと違って先生は真剣な顔をしている。
それに、いつもと呼ばれる時間が違った。
授業後すぐではなく、自習を始めてから30分ほどたったときだった。
数学の塾講師
少し、話したいことがあります
内容は容易に想像できた。
『海華が行方不明になった』ということだ。
実際それは当たっていたようで、全てを知っているわたしにとって、知らないふりをするのは非常に難しいことだった。
愛奈
……⁉
わたしにできることとしては、驚いた顔でたたずむことぐらいだった。
数学の塾講師
特に何も、わかりませんか?
愛奈
……
わたしは、ショックで気絶しかけているわたしを演じる。
答えを言えたのならば、どれだけ楽なことだったのだろうか。
『海華はコロシアムに出ました』。
『そして犠牲になって死にました』。
どうせ言ったって、理解してもらえる内容ではない。
わたしにできる最大のこと。
それは、彼女を忘れずに毎日を生きることぐらいしかないのだから。
数学の塾講師
それともう一つあるんだけど……
それは演技ではない、本当の衝撃だった。
あの女子大生の先生も『行方不明』になっているのだ。
いつも大事そうに人形を持っていた、変わった先生が。
数学の塾講師
あの先生がいつも持っていた人形を探してみたんだけどなくてね。同じぐらいの大きさの人形を持っていた愛奈さんなら、何か知っているのかなって思ったんだけど――。ほら、店頭にあるのは珍しいくらい大きいぬいぐるみだったから
ネウラを持ち込んでいたことがバレていたとは。
……でも、今はそれどころではない。
愛奈
いえ。特に何も。すみません。役に立てなくて
数学の塾講師
いやいや、大丈夫だよ。何か知っていることの方が珍しいんだから。それに、海華さんも行方不明になったらしいし、精神的にも大変だろうからね。今日は自習室にいることを強制しないよ
愛奈
……わかりました。心を落ち着かせてきます
数学の塾講師
うん。いってらっしゃい
わたしは荷物を整えて塾を出た。
お母さん
愛奈! 大丈夫!? 心配したのよ
愛奈
う、うん……
お母さんも、海華のことを心配していた。
お母さん
海華ちゃん、大丈夫なのかしらね
愛奈
わからない。でも、生きているといいな
わたしは死んでいるとわかっているけれど。
生きていたらいいのにな、と願い続けた。
愛奈
じゃあ、ちょっと勉強するから
お母さん
今日ぐらい休んでいいのよ
愛奈
ううん。問題ない
わたしは部屋に行った。
部屋に入って机に向かった後、バン。ともガン。ともいえるような音が響き渡った。
右手がヒリヒリする。
愛奈
(クソ……!)
何で気づかなかったんだ。
わたしはわたしに激怒していた。
どうして気づかなかった?
おかしいな、とは思っていたのに。
なんで『あれ』を見て何も感じなかったんだ? わたしは。
明らかにおかしかっただろうに。
どうして、どうして、どうして、どうして――――‼





『あの先生』は、『魔法少女』だった。






コロシアムの犠牲者だった。





知り合いが二人、あそこで生涯を閉じた。
心が一気に重くなる。
もう身を投げ出してしまいたくなるほど、わたしの責任は大きかった。
海華
「なんで、愛奈が生きてるの」
塾講師
「あなたたちじゃなくて、私が生きてればよかったのに」
スクオール
「かってにいのちをすてるなんて、ワタシがぜったいにゆるさない」
「おれは生き続けていたかったのに」
そんな言葉が聞こえてくる。
幻聴だ。
みんな、死んで行ったじゃないか。
幻聴だって。幻聴だってわかっているのに。
わたしは耐えられなかった。
責任と、みんなの声に押しつぶされそうだった。
愛奈
(ああ……)
わたしがやらなければいけないことは、みんなを想いながら生きることではない。
それに加えて、みんなの分も、わたしは戦わなければいけないんだ。
みんなの呪いに耐えながら。

わたしはネウラに触れた。
約3時間ぶりの再会だった。
ネウラ
愛奈くん!
愛奈
……これで最後‼‼
愛奈。
18歳。
職業――『魔法少女』。
好きだったものであり、今では大嫌いなもの。
愛奈はそれを続けている。
コロシアムから早3年、愛奈はベテラン魔法少女になっていた。
魔法少女の世界では、広く周知されている名になった。
愛奈を尊敬している後輩は数知れず。

愛奈には、とてもつらい過去がある。
愛奈は後輩に尊敬されるようになった代償に、死んでいった者たちの幻聴に心をむしばまれている。
ただ、そんな事実を他人は知らない。
罪を償うために、今日も愛奈は依頼をこなしていた。
それを見ていた魔法少女が言う。
後輩魔法少女
これが……これがあの『半人形使い』……⁉
愛奈の魔法少女生活は、彼女が死ぬまで続いている。

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