第72話

〔正門良規〕強がらないで
9,661
2020/08/27 14:57


「ただいま~!」




時刻は午後8時。



仕事が終わって、家に帰ると



いつもなら、玄関までニコニコしながら、俺のことを出迎えに来てくれるあなたの姿が



今日は、ない。



そればかりか、あなたの靴は全部ここにあるはずなのに



家の中の明かりは、1つも付いていなくて。




「あなた…?」




もしかして、あなたに何かあったんじゃないかって



そんな不安が、俺の頭の中を一気に駆け巡って。



急いでリビングへと向かって、部屋の明かりを付けてみると…




「…っ、!?…あんず、…?」



『良くん、おかえりなさい…!』




どこに隠れていたのか、そう言って、後ろからぎゅーっと俺に抱きついてくるあなた。



あなたに何かあった訳じゃないってわかって、俺がほっとしていると




『良くん、私が居ないと思ってびっくりした?笑』



「うん。笑 びっくり通り越して、心配になった。」



『ふふ、ごめんね?少しやりすぎちゃったっ…!』




なんて、あなたは明るくそう言っているけれど…




「なぁ、あなた。なんか嫌な事でも、あった?」



『…っ、!』




さっきから、聞こえてくるあなたの声は



いつもと違って、少し掠れた鼻声で。



顔を見られるのを嫌がるように、俺の背中にぎゅっとくっついたままのあなた。




「俺の前では、無理しなくてもええんやで?」




俺やって、一応あなたの彼氏だし。



あなたが1人で泣いていたことも、何かあったことも。



あなたの性格上、俺に迷惑をかけないようにって



その事を必死に隠そうとしている事だって



言葉にしなくとも、俺にはわかる。




「大丈夫。俺は、迷惑だなんて思ってないで?」




そう言いながら、俺はくるっと後ろを振り返って



あなたのことを包み込むように、そっと抱きしめ返せば




『…仕事でね、また失敗しちゃったの…。皆に、迷惑ばっかりかけちゃう自分が嫌で…っ。それで…っ。』



「大丈夫だよ、あなた。ゆっくりでいいから。」



『良くん…っ、。』




安心したのか、ゆっくりと、あなたは話してくれて。





「あなた、落ち着いた…?」



『うん…、良くん、ありがとう…。』





とんとんって、背中を優しく叩いてあげれば



だんだんと、あなたも落ち着いてきて。




「なぁ、あなた。もっと俺に頼ってもええんやで?彼氏なんやから。もっと、甘えてや。」



なんて、俺がそう言えば




『うんっ、ありがとう…。』



きゅっと、俺の服の袖を掴みながらあなたはそう言って。



『ねぇ、良くん。』



「んー??」



『大好きっ。』



「ふふ、俺も。あなたのこと、大好きやで。」




お互いの気持ちを伝え合えながら、俺たちはキスをして。



どんなあなたも好きだけど、やっぱり俺は



甘えてくれる、素直なあなたが1番好き。







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