第7話

ありがとうの日
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2026/05/10 12:59 更新
――母の日――

朝のリビングには、今日も元気いっぱいな声が響いていた。
謙杜
ぱぱぁぁぁ!みてぇぇ!
どたどたどたっ!!
丈一郎
うおっ?!待て待て待て!!走るなってぇ!
謙杜は車のおもちゃを両手に持ちながら部屋中を爆走している。

その後ろを、ぬいぐるみを抱えた駿佑がのんびり追いかけていた。
駿佑
けんとぉ〜、はやい〜、
丈一郎
ほんま台風やなぁ!
キッチンでは、大吾が味噌汁をよそいながら笑っていた。
大吾
朝から元気すぎる(笑)
丈一郎
元気分けてほしいわ!
その瞬間。

ぴょんっ!

謙杜がソファへ飛び乗ろうとする。
丈一郎
……けんと
少し低い声。

謙杜の動きがぴたりと止まる。
丈一郎
ソファの上ジャンプしたら危ないって言ったやろ?
謙杜
……うん
丈一郎
怪我したら痛い痛いやで?
謙杜
やぁ……
丈一郎
よし。分かったならえらい
次の瞬間には、ひょいっと抱き上げる。
謙杜
きゃははは!
丈一郎
はい高いたかーい!
謙杜
もっとぉぉ!
駿佑
しゅんもぉ!
丈一郎
よっしゃ!まとめていくでぇ!
大吾
危ない危ない(笑)
でも、そんな騒がしい朝が、大吾は好きだった。

――朝ごはん中――

駿佑はいつものように大吾の膝の上。

謙杜は丈一郎の腕にぴったりくっついてパンを食べている。
大吾
謙杜、パン落ちる落ちる
謙杜
だいじょーぶ!
ぽと。
大吾
あ、落ちた(笑)
丈一郎
全然大丈夫ちゃうやん!
駿佑
きゃはは!
笑い声が広がる。

そんな中、丈一郎が何気ない顔で口を開いた。
丈一郎
なぁ大吾
大吾
ん?
丈一郎
今日さ、久しぶりに1人で出かけてきたら?
大吾
え?
丈一郎
カフェ行くとか、服見るとか、美容室行くとか
大吾は少し驚いた顔をする。
大吾
急にどうしたん?
丈一郎
いや、いつも家のこと頑張ってくれてるやん
大吾
別に普通やって
丈一郎
普通ちゃうって。毎日子どもら見ながら家のことして、俺のことまで気遣ってくれてるやん
大吾
そんな大したことしてへんよ
丈一郎
してるしてる
真っ直ぐ言われて、大吾は少し照れくさそうに笑った。
駿佑
ままぁ、おでかけ?
大吾
どうしよっかな〜?
謙杜
まま、いくの?!
丈一郎
ちょっとだけやで。今日はパパと遊ぼ!
謙杜
ぱぱと?
丈一郎
いっぱい遊ぶで!
謙杜
やったぁ!
駿佑
しゅんもあそぶ〜!
丈一郎
もちろん!
大吾はそんな3人を見ながら、ふっと笑う。
大吾
じゃぁ、ちょっとだけ行こうかな
丈一郎
よっしゃぁ!
内心ガッツポーズ。

実は昨夜から、丈くんはずっと考えていた。

どうやったら自然に大吾を外に出せるか。

今日は母の日。

いつも家族のために頑張ってくれている、大吾に、ちゃんとありがとうを伝えたかった。
大吾
じゃぁ行ってくるな
駿佑
まま、いってらっしゃーい!
謙杜
おみやげぇぇ!
大吾
あはは、分かった分かった
丈一郎
ゆっくりしてきぃや
大吾
うん、ありがとう
玄関で靴を履く大吾。

その背中を見送りながら、丈くんはそわそわしていた。
大吾
……なんか丈くん今日やたらと優しくない?
丈一郎
え、いつもだろ?!
大吾
ふふっ
ガチャ。
丈一郎
……よっしゃぁぁぁぁ!
駿佑
おー!
謙杜
おーー!
丈一郎
母の日サプライズ開始やぁぁ!
丈一郎
まずは風船!
謙杜
ふーしぇん!
駿佑
ぺたぺたする!
しかし開始5分。
丈一郎
ちょ、待って待って待って!
謙杜
きゃははは!
風船を持ったまま、全力疾走する謙杜。

駿佑はテープを自分の服に貼ってしまい困っている。
駿佑
ぱぱぁ、とれない……
丈一郎
あぁ!もう可愛い!
完全に大混乱。
丈一郎
よし!しゅんはここに貼って!
駿佑
うん!
ぺたっ。

少し斜め。
丈一郎
ええやんええやん!
謙杜
ぼくも!!!
ぺたっ!!
丈一郎
あーーー!それ壁ちゃうパパの顔!
謙杜
きゃはは!!
駿佑
ぱぱ、おなかぺたぺた!
丈一郎
なんで俺がデコレーションされるねん!
部屋中に笑い声が響く。


なんとか飾り付けが完成してきた。

壁にはいつもありがとう。

周りには子供達の絵。

駿佑の絵は丸がいっぱい。

謙杜の絵はほぼ勢い。

でも丈くんには世界一可愛く見えた。
丈一郎
絶対大吾喜ぶわ……
駿佑
まま、にこにこ?
丈一郎
めっちゃにこにこになる!
謙杜
びっくりする?
丈一郎
めっちゃする!
すると突然。

謙杜が駿佑のクレヨンを取った。
駿佑
あっ…
謙杜
ぼくもぉ!
駿佑
しゅんのぉ……
空気が少しだけピリッとする。

丈くんは2人の前にしゃがんだ。
丈一郎
けんと
謙杜
丈一郎
取る前は?
謙杜
……かちて
丈一郎
そうやな。ちゃんと言えたやん!
駿佑
いーよ!
丈一郎
しゅんも優しいなぁ!
2人をぎゅっと抱き寄せる。
丈一郎
仲良しが1番や
その直後。

ピコン。

スマホが鳴る。

【そろそろ帰るわ〜】
丈一郎
やばい!!帰ってくる!
駿佑
くる?
謙杜
まま!
丈一郎
急いで片付けるで?!
部屋の電気を消し、3人で待機。
謙杜
まだぁ〜?
丈一郎
しっー!
駿佑
どきどきする……
外から足音。

そしてーー

ガチャ。
大吾
ただいま〜
真っ暗な部屋。
大吾
……あれ?
静か。

不思議そうにリビングへ入ってくる。

その瞬間。

パッ!!
丈一郎
母の日!
駿佑
おめでとぉー!
謙杜
おめでとぉー!!!
大吾
うわぁっ?!
驚いて固まる大吾。

目の前には飾り付けされた部屋。

そして満面の笑みの家族。
駿佑
ままぁ!ありがとぉ!
謙杜
まま、しゅきぃー!
2人がぎゅーっと抱きつく。
大吾
わっ……
丈一郎
サプライズ大成功〜!
大吾はゆっくり部屋を見回した。

少し曲がった飾り。

落ちてるテープ。

ぐちゃぐちゃな絵。

でも全部が愛おしい。
大吾
これ、みんなでやったん?
丈一郎
せやで。めっちゃ頑張った
駿佑
しゅん、ぺたぺたした!
謙杜
ぼくもぉ!
大吾
ふふっ、ありがとう!
丈一郎
今日はちゃんとありがとう伝えたかってん
大吾
……なんかすごい幸せ
丈一郎
やろ?
駿佑
まま、にこにこ〜!
謙杜
にこー!!
大吾は2人を抱きしめる。
大吾
ありがとうな
丈くんはそんな3人を見ながら、優しく笑った。
丈一郎
これからも、4人でいっぱい思い出作ろうな
大吾
うん
その瞬間。
謙杜
たかいたかーい!!
丈一郎
今ぁ?!(笑)
駿佑
しゅんもぉ!!
大吾
あははは!
結局は最後はいつもの大騒ぎ。

でも、その騒がしさは何より幸せだった。

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