目黒side
高校に入ってから、結構楽しみにしていた林間学校。ふっかさん達が去年苦労したって言ってた班決めは、いつものダンス部8人と阿部ちゃんを加えた形になって、後は当日を待つだけ。
正直、めっちゃラッキー。
だって好きな人と同じ班で林間学校へ行ける。
それだけで俺の頬はだらしなく緩んでしまっていたらしく放課後、こーじとラウに指定された。
流石に阿部くんの事を考えてニヤけてました、なんて言えないから笑って誤魔化す。
今日は部活が無い日(水曜日)だから真っ直ぐ帰ろうかな、と荷物をまとめて帰る準備をしていたら2人に呼び止められた。
ラウールが取り出したのは最近出来たクレープ屋のチラシだった。よく見ると左下に今日から30%引き、と書いてあった。
目を輝かせて俺を見つめてくる2人。これは断ったら落ち込むやつだな……、、
ま、でも最近はあんまり遊べてなかったし、クレープも美味しそうだし。いいかな。
俺が了承したらテンション爆上がりになった2人に引きづられるようにして学校を後にした。
クレープ屋のある淡雪駅前までは徒歩15分くらい。学校から出た俺達は3人並んで歩いていた。
急に話を振ってきたラウールにぼーっとしながら耳を傾けていたら「阿部くん」という単語が聞こえてきて思わず反応する。
正直言えば、俺もそうだ。阿部くんは優しくて可愛いから、先輩達に目をつけられたら大変だ。俺達は後輩だけどしっかり守ろうと思ってたのに。
もうすでにあの人達から目をつけられてたんだよなぁ。
阿部くんのことが恋愛として好きな俺からしてみたら、あの人達がライバルになったら多分一筋縄ではいかない。俺は1人1人、先輩の顔を思い浮かべる。
……皆モテるし、阿部くんが惚れちゃうかもしれない要素はたくさんあるんだよなぁ……、、
あと照くん。いつもクールで2年生ながら部長してるし、しっかり者だから。阿部くんとタメなのを引き合いに出されたらたまったものじゃない。
同じクラスだし、阿部くんを学校で見かける時は大体照くんが隣にいる。ある意味、一番危険人物かもしれないな。
……忘れてた。
俺は隣を歩くこいつらをちらっと横目で見る。
ライバルは先輩達だけじゃない。この2人もだ。ラウールもこーじも顔は良いし、素直な性格だから阿部くんとも俺以上に交友が深い。
2人が阿部くんの事を恋愛として好きなのか、はたまた友情の好きなのか。分からないな……
悶々と考えていたら、クレープ屋に着いていたようだ。2人に声を掛けられて気付く。
2人は店の前に置いてある大きな看板を見てはしゃいでいる。その後ろ姿を微笑ましく見ていると目の前の店のドアが開いて人が出てくる。
今日は平日なのに、人が多いな、なんて考えていると……
鼓膜に響いた好きな人の声。
驚いて顔を上げると両手にクレープを持った阿部くん………と照くんが居た。
俺の声に2人も阿部くんの存在に気づいたみたいで満面の笑みで駆け寄っている。
うわ〜、照くんめっちゃ不機嫌そう。眉顰めて溜息ついてる。
ん?こいつら?
ボソッと零した照くんの独り言に違和感を覚える。
俺ら以外にも誰か居るんだろうか。それに阿部くんと照くん、2人共両手にクレープ持ってるから計4個だ。結構大きなやつだし、これを2人で食べるわけないだろうし……、、
照くんに聞こうとしたら、店のドアが開く音と聞き覚えのある声に遮られた。
そして驚いたのはその声の持ち主だ。ダンス部の3年の先輩が阿部くんと照くんに駆け寄っている。
流石に2人も先輩達の登場に驚いたようで動揺している。
ということはつまり、もとは別々だったけど一緒に食べることになったってわけか。
いいな。阿部くんとクレープ食べるとか。
っていうか照くん羨ましい、、だって先輩達と遭遇しなかったら二人きりで阿部くんと居れたわけでしょ?
羨ましい、と思っていたら勝手に口が動いていた。
この場にいる人の中に、恋愛として阿部くんを好きな人が居るかなんて分からない。けど皆が皆、阿部くんと一緒に居たいと思っているようだ。
それならもう、全員立派な俺のライバル。
負けない、負けたくないから。
ほんの少しでも阿部くんと一緒に居れるチャンスが欲しい。
俺の言葉に賛同してくれる声が2つ。
3つ。
他の先輩達の顔は複雑そうだけど何も言ってこないあたり、大丈夫そうだ。
ニコニコと笑う阿部くんの笑顔を見て嬉しくなった俺は、早くクレープを買って阿部くんと食べようと早々に店の中へ入った。
佐久間side
3人もクレープを買って、9人歩きながらでクレープを食べている。
人が多いし、席も9人で座れるとこなんて無かったしね。
俺は運良く阿部ちゃんの隣をゲットして右隣を歩いてる。後ろからの視線がなんか痛いけど……気にしないもんね〜!
あ、ちなみに左隣には蓮が居るよ〜。
阿部ちゃんのことが愛おしくてたまらないって顔で見てる。いや〜、最初会った時は蓮のこんな顔見れるとは思わなかったよ?ポーカーフェイス得意なやつだったから。
阿部ちゃんは甘いものが好きみたいで美味しいクレープを食べてテンションが上がってる。一口食べる度に目を輝かせてて可愛いなぁ……。
そしたら阿部ちゃんの後ろを歩いていた翔太が俺と阿部ちゃんの間から顔を出す。
クレープを一口食べると満足気に戻っていった。
てか今の、間接キスだよね……?めめも驚いてる。阿部ちゃんを見ると何でもなかったかのようにまたクレープを頬張っていた。
間接キスをしたことに気づいてないのか……?
結構鈍感だよね、阿部ちゃんって。
多分ね?これは俺の憶測だけど……、、
ここに居る全員、阿部ちゃんのことが恋愛としてに好きなんだよ。
もちろん俺もね。
皆が阿部ちゃんのこと好きになったきっかけなんて分からないし、俺だって正確には覚えてない。
阿部ちゃんと出会った瞬間かもしれないし、話した時かもしれない。
けど、阿部ちゃんの傍に居たいって強く願うようになった。
ライバルは強敵だよ?阿部ちゃん。一体どんなことしてこいつらを落としたの?
出来ることなら俺だけを見て欲しいなぁなんて。
なんにも分かってない様子の幸せそうな鈍感ヒロインくんを見てそう思った。
作者の塩分です!
最終更新から約一ヶ月半………申し訳ありません😖!!
これからも投稿頻度は落ちてしまうかもしれませんが、のんびり待って頂けると嬉しいです……!
それではっ!!
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。